「マイバックページ」


監督:山下敦弘  主演:妻夫木聡 松山ケンイチ   2011  アスミックエース



ジャーナリストに憧れ、真似事で終わってしまった男と

革命家に憧れ、真似事で終わってしまった男の・・・・・・・・物語・・・・とでもいったらよいのだろうか。


見終わった後に、「苦さ」が残った作品だ。


時代は、安保闘争終焉に近いころ。

東都新聞に就職し、週刊東都に配属になった沢田は、自称「京西安保」の幹部と名乗る梅山と出会う。

梅山を信じた沢田は、梅山の考える革命への作戦に次第にのめりこんでいってしまう。



私は、学生運動のその時代を知らない。

大学時代、運動の名残は残っていた。学生会館が取り壊される時、闘争が起きたが、その闘争に参加した人の大多数は、一般の学生であったのが、現状だ。

今、大学からは、立て看板は消え、運動の姿はほぼ消えたという。



そういう時代に生きてきたのが、私たち世代であり、

監督をした山下さんも、その時代を知らない世代だ。



時代を写したか・・・との問いかけに私たちは答えられない。

監督も同じであると思う。

なので、時代の「息」についてはわからない。



しかし、「若さ」ゆえの憤り、時代に対する敗北感・・・・・・・「青春」というほど甘くはないが、実に「青臭い」感じのする彼らの思いに触れることはできた。



主人公よりも上の年齢層になっている私には、もどかしさすら感じた。

「なぜ・・そこで信じてしまうのか」

「・・・それは、だめだよ・・・」

いかし、それこどが、「若さ」であり、「青春」であるとも考えることもできる。



様々な思いが駆け巡る秀作であることは間違いない。




<都の心の声>


それにしても、山下監督は「ダメ男」を描かせると、今の日本映画の監督ではピカイチだと思う。


「どんてん生活」「バカの箱舟」といい、とにかくダメ男がいかに「ダメ」かについて描かせると最高に生き生きした「ダメ男」が完成する。


それらの作品とは、手法や様々なことが違うけど、


今回の妻夫木くんの沢田も、松山くんの片桐もダメ男であることは間違いない。


松山くんのダメ男は、にくたらしく

妻夫木くんのダメ男は、切なく


それぞれの「ダメ男」を「ダメ」に描いてくれた。


とにかく彼らは、ダメ男だ。

見ていると、「イラッ」とすらくる。


そう思わせる妻夫木くん、松山くんもすごいが、やっぱり山下監督の力を賞賛したい。



・・・・・にしても、

「ジャーナリズム」とか「正義」とか・・・・表だって語る人が私はニガテだ。

そんなことで割り切れないことは山のようにある。

信頼すべき人は、そんな言葉を使わずに、納得できる方法と言葉で、語る・・・。


しっかり判断する力、

「これはまずい」と感じる力・・って絶対に必要だと思う。

うん。、ほんとそう思う。



この映画、よかった。

いろんな意味で、おもしろかった。


私の好きな二大監督は、やっぱり、是枝監督と、この山下監督だ。・・・・・と思う。

「奇跡」


監督:是枝裕和  主演:まえだまえだ  2010  配給:ギャガ



子どもの目線になって見ると、普段見えない世界が見えてくる。

小さな冒険が大きな冒険になったり、想像したことない世界すら見えてきたりもする。


そして、大人が子どもを見る視線はどこまでもやさしくあって欲しい、と願う。

この映画の中の大人の視線はやさしい。どこまでやさしい。

その「優しさ」に願いをこめたくもなる。


両親の離婚で、鹿児島と福岡で別々に暮らす兄弟。

九州新幹線が初めて通る日、新幹線が交差する瞬間を見た人に奇跡が起こる・・という話を聞いた兄弟が、それぞれの思いを胸に、奇跡が怒る瞬間を目にする。

その時、奇跡は、起こるのか・・・。


是枝監督の最新作。

「誰も知らない」以来の子どもを主演とした作品となった。


これは奇跡を願う小学生の冒険物語であり、成長物語だ。


「桜島」がこれまでにない大噴火をおこせば、鹿児島から避難せざるをえなくなり、家族がまた4人で生活できることになると信じる兄。それに比べ、4人で暮らすなくても。現状を楽しく、そして大切に生きる弟。

対照的な2人だが、それぞれの方法でお互いを思っていることには変わりはない。

その思いが痛いほど伝わってくる。

観客は、奇跡が起こることを願うだろう。



しかし、奇跡は起こらない。


それは、日常を生きる多くの人が当たり前のように感じることだ。

奇跡は簡単には起こらない。感嘆には、起こらないから、「奇跡」なんだろう。


奇跡は起こらない。

しかし、観客は、少年たちの「成長」という「奇跡」を見ることになる。

そして、その奇跡は、大人たちにも小さな奇跡を起こす。


脇役であるはずの大人たちの変化にも心あたたまる。

子どもたちの生き生きした表情とがんばりにも涙を誘わせるが、大人の視点と優しさにも、心温まる。


冒険物語は、少年たちに成長をもららす。

「成功」から得る成長もあれば、「負」の部分を知り、成長する姿もある。

そんな成長の体験を、見守る・・・・そんな心地よい作品なのだと思う。




<都の心の声>


是枝監督が好きだ。

作品ごとに視点を変えてくるこの人の作風に毎回ドキドキさせられる。


今回は、

監督自身が父親になったことが大きいかな・・・と思う。

とにかく、視点が優しい。子どもを見る視線が優しい。

そして、大人も捨てたもんじゃないな・・と思わせる。



ただ、九州新幹線開通にあわせた依頼作品であることは大きいね・・・。


ちょっとしたパワー不足感を感じてしまった・・・。



でも、いいよ、この映画。

よくできている。


前回、「空気人形」では、撮影監督が変わったよね・・。

それはそれで、新しい視点を取り入れて、「おおおおお!!!!!」ってのがあったけど、


私個人としては・・・


山崎裕さんのカメラワークが好きだあああああああ!!!!



この人の細かな描写が好きだ。


もちろん監督の支店が最優先ではあるけど、監督の山崎さんに対する信頼も感じるあの、独特のカメラワークがとおにかく好きだ。


そして、まえだまえだが驚くほど良い。

うまいよねえ。ほんと。

びっくりするほどよかった。


さらにやたら印象的な子がいるなあ、と思ったら、


おおおおおおおお


「ピュアラブ」のしのぶさんのトコにきていた子じゃないかあ!!!

そして、この印象的な女の子・・・もっくんの娘かああああああああ!!”!!


・・・・という驚きもある映画。


おススメです

え・・・今さら・・・・????

「おにいちゃんのハナビ」


2010 ゴーシネマ 監督:国本雅弘 主演:高良健吾 谷村美月 



 400年の伝統を誇り、世界最大級の4尺玉があがる新潟県片貝町(小千谷市)の花火大会。

 片貝の花火大会は、子どもの誕生や還暦、成人を祝い神社に奉納する形で行われている。

 ひとつひとつ願いがこめられた打ち上げ花火。その中に、成人を迎えた兄が亡き妹のために上げた花火があった。


 白血病に犯された華(谷村美月)の療養のために、東京から片貝に引っ越した一家。

 華が、半年の入院生活から戻ると、兄の太郎(高良健吾)が引きこもりになっていた。

 華の病状が悪化していく一方、華の力で次第に引きこもりから脱出していく太郎。華の幸せの象徴が花火であることに気付いた太郎は、華のために花火をあげようと決心する。


 2005年に放送されたドキュメンタリーに感銘を受けた監督が映画化した作品。


 タイトルが「ハナのハナビ」ではなく「おにいちゃんのハナビ」。

 その名の通り、難病がテーマなのではなく、引きこもりから脱出し、苦手だった地域のコミュニティーに溶け込み、大きく成長していく兄の太郎の物語だ。 


 そして、兄の引きこもり、華の闘病で離れつつあった家族の絆の再生の物語でもあった。


 ストレートで素朴だ。

 

 この類の映画に見られる「泣かせよう」とする意図が見えるあざといつくりの映画とは違う。

 太郎のもの静かな雰囲気が物語全体を覆うかのように、静かに淡々と話は進んでいく。

 そのストレートな表現に、引きこまれていき、自然と涙がこぼれた。


 フィナーレの片貝まつりの奉納煙火のシーン。

 アナウンスがまた実にいい。

 そして、兄のつくりあげた花火が、いい。


 「予想外の」といったら失礼だが、秀作。

 ひさびさに、素直に泣ける映画だった。

 派手さがないと、注目されない昨今の邦画事情。こういう小粒な秀作をもってたくさんの人に見てもらいたいと思う。

 



<都の心の声>


泣けた・・・。

花火のシーンが実に泣けた・・・。


高良くんと谷村さんの演技がほんと良かった。

高良くんって、ほんと、作品ごとに違うね。何本が出演作見ているけど、いい役者さんだよなあ・・と思う。

美月ちゃんもしかり。この子も、ほんと、どんな作品でも対応しててうまいよね。


そして、中越の人間にとって、実に見覚えのあるカマボコ型の車庫、1階が車庫になっている家々。すごく馴染み深い上に、片貝の風景が美しい。

 

ただ、兄の同級生の方言・・・・。

しかたないけど、ネイティブから言わせると、ちょっと・・・(笑)

しかたないけどね・・・ちょっと違うのよ。そんなにわざとらしくないぞ、中越の「~が」と「~て」は。


噂で「いい」とは聞いていたものの、映画館で見られなかったのが残念。


ほんと、じわじわきます。

良い映画でした。