競争政策のあり方を経済学の観点から提言した本です。

 

要約すると、

 

人口減少下では、とにかく競争こそが大切とする、消費者余剰の最大化だけを目指した競争政策ではだめ。生産者余剰も加味した「社会余剰基準」へ転換すべき。

 

消費者余剰と生産者余剰の間にはトレードオフが良く起こる。なので、経済学(産業組織論)の実証分析手法を使って定量的に評価してどちらの価値が大きいのか、個々に分析し判断していく必要がある。

 

つまり、競争さえ促せばすべて解決とはならない、負の側面にも目を向けるべき、その最適なバランスを探す定量的な手法が経済学で色々と開発されてきたので、それらを積極的に使いましょう、ということ。

 

コンサル業界でも、計量経済学の知識が強力な武器になる世界がもうすぐ来そうですね(もう来てるか)。

 

他に興味深かったのは、

 

・市場支配力の考え方

市場支配力は、市場シェアで判断されるべきでない。現実の市場は完全競争にはないので、競争状態であってもマークアップ(価格と限界費用の差)は存在するのが当たり前。問題視すべき支配力とそうではない支配力がある。競争価格の水準をどう見出すかが、競争政策での対応が必要かどうかを考える上での鍵である。(その導出に構造推定の手法、特に需要関数アプローチが使える)

 

・日本の特殊性

海外主要国では、マークアップ率がこの10数年で上昇しているのに、日本ではむしろ下落している。製造業でシェアの集中が進んでいるのにかかわらず。その原因はおそらく人口減少。

 

・公共調達

人口減少が進む地方において、価格のみによる一般競争入札の拡大は負の側面も生み出している。価格以外に地域の状況に応じた品質評価も問われるような財・サービスの調達に関しては、総合評価落札方式や契約を伴う調達手法の方が、望ましい資源配分をもたらす。

 

・携帯電話市場

端末と通信プランのバンドリングは、競争政策上問題とは一概には言えない。例えば探索費用を低減させるような形での競争促進効果も持ち得る。

 

・電力市場

この10年で垂直分離が進んだが、競争を促進するというメリットだけでなく、自然災害や不慮の事故が起きた時に安定供給を確保する際の取引コストを増加させるというデメリットも持ち得る。どっちが大きいかはまだ十分分析されていない。

 

・FIT制度

買取価格は、再エネの種類や規模などによらず原則一律にすべき。また、再エネだけでなく、その他の脱炭素に貢献する技術も中立・公平に扱うべき。その手法の一つが炭素税。FIT制度はCO2削減費用がかなり高額な手法。また、毎年2兆円に近い賦課金という国民負担は産業政策としては活かされなかった。

 

・企業合併

企業合併には、「効率性向上効果」と「競争制限効果」があるが、これまで競争当局は後者を重視してきた。しかし、人口減少下では、供給が過剰になること、また地域の公共交通など基盤的なサービスを提供する事業が地域から消滅してしまう危険性もある(全く供給されなくなるよりは価格が高くても供給される方がましという考え方も)。人口減少下では、企業合併審査には、両方への目配せが不可欠。競争政策と産業政策のリバランス(公取委と他府省との対等な連携)が必要。ただ、産業政策全てに効果があるわけではないので、政策効果の検証を立案プロセスに組み込む必要がある。

 

 

つまり、今後の競争政策・産業政策、ひいては日本経済のあり方に関する根本的な問題提起となっています。文体や構成がちょっと固く読みづらい印象はありますが、日本の未来を考えたい方におすすめです。