リビアの生活にも慣れてきて、娯楽のない毎日に少し飽きてきていた頃、会社の重役でもあるミスターアリの御曹司、ムハンマドの誕生パーティがあるというので、カミル、アンサー、アサラン達と一緒に出かけた。
ミスターアリのお宅はすばらしい豪邸だった。
これがお金持ちの家かと驚く大きさで、室内も高級な調度品、家具で設えてあり、玄関ホールには大きなシャンデリアが垂れ下がり、高貴な雰囲気が私達を出迎えてくれた。
ミスターアリ家族もパキスタン出身のイスラム教徒。会社のプロジェクトではなく、銀行業務を行っているので、基本的に管轄が別でオフィスはトリポリ市内の高層ビルにある。
若くて美しい奥さんに迎えられ、カミルとほぼ同じ年のムハンマドのお母さんがこんな若いはずがないと、彼女は二人目の奥さんだと知らなかった私は心底ビックリしたのだった。
イスラム教では、離婚が認められていないが、裕福な男性は複数の奥さんを持つことができる。それも財力のある男性だ。
なぜならば、一人目の奥さんと2人目の奥さんには同様の扱いをしなければならないそうだ。
例えば二人目の奥さんに家を買ってあげたら、一人目の奥さんにも同様に買ってあげなければならない。
社長のミスターシャーも最初パキスタンで結婚したそうだが、仕事の為インドネアに行くことになり奥さんはインドネシアに行くことを嫌がり、付いてきてはくれなかったそうだ。
二人の間にパキスタンで生まれた子供がアンサーだった。
仕方なく妻と子供をパキスタンに残し、一人ジャカルタに渡り全くのゼロから事業を始めた。
やがて自分の仕事を理解してくれるインドネシア人の女性に出会い二人目の妻とした。
パキスタンにいる妻とはすでにお互いの間に愛情はなく、妻も夫を気遣うことはなかったそうだ。
ただずっとアンサーと息子の母親が苦労することがないよう、手厚く世話を焼いてきたという。
そして今の奥さんすなわち2番目の奥さんとの間には2人の子供がいる。
そのどちらにも同等の家や生活に困ることのないように尽くしているという。
つまり2人以上奥さんが持てるというのは、甲斐性のある男でなければできないことらしい。
ミスターアリもミスターシャー同様、自分で事業を成功させてきたビジネスマンだ。
その息子のムハンマドは、甘やかされたいわゆる定型的な成り上がりのお坊ちゃま。
今の仕事もすべてお父さんのコネで就いただけで、仕事をしているのかしていないのかよく分からない。ほとんどオフィスにはいないようだったが、彼のオフィスには手のかかる水槽に、巨大なTVまであった。
パーティーが一度終った頃合にお邪魔したので、2階のダイニングにあたる部屋で私達だけで豪勢な食事を頂く。
すべてブッフェスタイルと言ったらいいだろうか、パキスタンスタイルの食事なので様々な料理がお皿に並べられている。チャパティやライスもある。
最近、カミル達とよくパキスタン料理屋に行っていたので、少しは辛い料理に慣れてきたところだ。それでも辛いものが強いて得意ではない私の胃には、かなりしんどい料理ではあった。
食事を終えムハンマドが地下の部屋に案内してくれる。そこは完全防音設備のパーティールームだった。
高価な音響装置からは今時のクラブさながら爆音が鳴り響いていた。部屋の中には、男女が15人くらいだろうか。まだまだこれから集まってくるらしい。
中はタバコの煙が充満していて目を開けているのが辛い。入り口右手奥にはバーがあり後ろの棚には、各種お酒が並べられている。
なるほどこの人達は、闇ルートを持っていてお酒を違法に手に入れているらしい。
バーの反対側には、ビリヤードの台、ソファとテーブルに数個の椅子、アイスホッケーの対戦ゲームが置いてあった。女の子達は今まで私がリビアでは見たことがないほど、肩と胸を大きく露出したドレスを着て、どの子もラリっているような目をしていた。
どでかいスピーカーからはうるさい音楽が鳴り響いている。ティーンエイジャーの子供さながらの空間とその雰囲気に疲れてしまった私はソファーに座り込み、ジュースを飲みながら、アンサー達がホッケーの対戦ゲームをしているのを眺めていた。
アンサーは25歳とまだ若い。遊びたい盛りだ。顔と体だけは立派に大きく貫禄があるのだが、中身はまだまだあどけない。
目新しい玩具を与えられた子供のようにはしゃいでいる。仕事で連日激務のカミルは私と同様、深くソファに寄りかかったまま寝てしまった。
ムハンマドや彼らにはこういうものが楽しんだなーと、冷静に眺めていた。彼らはこういう場所を自宅わざわざ作って非日常を演出してる。
そして「どうだ凄いだろ」と言わんばかりなのだ。
リビアでは珍しいことかもしれないが、日本や外国ではごく普通だし、特別なことではない。私にはとても時代遅れな感じがして白けてしまった。
疲れ果てているカミルを連れて、早々帰ることにした。後ろ髪をひかれているアンサーの姿がやけに可愛かった。