鬱の時代がやってくる。でも鬱ってそう悪いもんじゃない。 | innerSound

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内なる音の心象ストリーミング

五木 寛之,香山 リカ
幻冬舎
発売日:2008-06



五木寛之氏と香山リカ氏の「鬱」と「うつ病」に関する対談本。

本書の中で五木氏は、戦後復興から高度成長期を経てバブル崩壊までの時期を「躁の時代」と位置づけ、「空白の10年」をはさみ今は「鬱の時代」への転換期だと捉えている。そして「躁の時代」が50年くらい続いたから「鬱の時代」も50年くらいは続くだろうと予想している。

そんな五木氏の「鬱」に対するイメージは、エネルギーと生命力がありながら、出口を塞がれている状態というもので、一般的にマイナスイメージしかない「鬱」とは異なる視点を持っているのが興味深い。

精神科医である香山氏は、「うつ病」と「鬱っぽい感じ」の境界をはっきりさせる必要性を感じているという。

その背景には、従来はあまりおおっぴらにしたくはなかった「うつ病」が、最近では「うつ病は心の風邪のようなものだから、治療すれば治ります」という話になったことが大きいだろう。

「ただの鬱気分です」って言われてしまったら、あとは自分の考え方とか生き方とかに直面して、自分で取り組まなければいけない課題になってしまう。でも「うつ病」ということになれば、病人だから「お任せします」と言えば済む。

という香山氏のコメントが、十分有り得そうな話だなと感じる。

ところで僕は最近、
「自由経済至上主義が限界を迎えようとしている現代、次に築くべき世界はどんな世界だろうか?」
というテーマをよく考えている。

経済に限らず、無限の成長・膨張・加速できるものはない。僕が知る限り、それが可能なものは、がん細胞だ。しかしそれには条件がある。宿主(ホスト)が生存し続ける間は、というのがその条件だ。
「地球」という宿主に生息する我々「人間」という細胞が、正常な細胞なのかがん細胞なのか、それは自分たちの活動を自制できるかどうかにかかっている。そして自制する際のキーワードの一つが「鬱」ということなのかもしれない。ものすごく大げさに言うならば、「鬱が地球を救う」と。

躁から鬱へ向かう過程を、他のキーワードで例えるなら、
外から内
成長から成熟
登頂から下山
加速から減速
サンライズからサンセット
といった感じ。