Under the Umbrella 続編




的野side

雨が降っていた。

屋上の隅で、優がひとり佇んでいるのを見たのは、それから少し経ってからだった。

優は目を閉じていた。雨粒が肌を叩く音が、まるで祈りのリズムのように響いていた。

私は、その少し離れた場所に立ち、黒い長傘をさしたまま、ただ見つめていた。

優は気づいていなかった。気づいていられないほど、雨の音に耳を傾け、自分の内側に沈んでいた。

――好きだ。


そう気づいてからどれほど月日が流れただろう。


同じ舞台に立つ仲間として、ライバルとして、そして、ずっと――特別な存在として。

でも、私は言えなかった。

言えなかった理由は、今でもはっきりとはわからない。

優が、私に興味がないと思っていたわけではない。ただ、言ってしまえば、もう元には戻れない気がして、踏み出すことができなかった。

だから、私はただ、見てきた。

優が悩んで、泣いて、それでも笑顔を振りまくのを。

優が、自分を責めて、誰にも頼らずにすべてを背負い込むのを。

見て見ぬふりをしていたわけではない。でも、手を差し伸べることもできなかった。

――今、この瞬間も、私は迷っていた。

彼女の背後に立って、傘を傾けた。

雨が、優の体を避けるように流れていく。

優は、ゆっくりと目を開けた。そして、振り返った。

優「……どうして、ここにいるの?」

その声は、雨に濡れて、少し掠れていた。

私は答えなかった。ただ、傘を固定し、優の頭上に広がる影を守るようにした。

優は少し距離を取ろうとした。でも、私は一歩、そしてもう一歩と、優に歩み寄った。

壁際まで追い詰めたいわけではない。でも、優は逃げなかった。

優「……美青、ちょっと……」

震える声。その表情には、戸惑いと、わずかな恐怖が混じっていた。

――でも、私は止まらなかった。

優の頬に手を伸ばす。冷たいはずの指が、なぜか温かく感じた。優は顔を背けようとしたが、もう遅い。

唇を重ねた。

それは、突然の行動だったかもしれない。でも、乱暴ではない。優の唇は柔らかくて、震えていた。

私は、優を抱きしめた。強く、そして優しく。

優「……っ!」

小さな声。でも、それ以上は出さなかった。

優は逃げようとした。でも、その体を私は引き寄せ、
鼓動の中に飲み込まれていく。

優「……どうして……」

涙をこぼしそうな瞳。その視線が、私を責めるように揺れていた。

――そうだろうな。

私は、いつもクールで、どこか冷たい印象を抱かせていた。優も、きっとそう思っていた。

でも、今、私は、言わなければいけないと思っていた。

優の耳元に唇を寄せた。吐息がかかる。首筋にキスを落とす。

的「……優が、好きだから」

初めての告白。

私の声は、低く、震えていた。でも、嘘ではない。

優の手を、私の胸に当てた。鼓動を感じている。

的「……ずっと、見てた」

私は続けた。

的「優が、1人で抱え込んで、泣いてるの……見てた。でも、何もできなかった。ただ、見ていることしかできなかった。でも、もう……放っておかない…」

優は、私の言葉に何かを飲み込んだように、唇を震わせた。

優「...今さら」

その言葉は、掠れていた。でも、怒りではない。

――悲しみと、安堵が混ざっている。

私は、強く抱きしめた。

的「私が守るから...」

優は、私の腕の中で震えた。

なぜ今さら?
なぜ今まで黙っていた?
なぜ、私が苦しんでいるのを見ていた?

そう問いただしたい気持ちと、この腕の中から逃げたくないという気持ちが交錯しているのを、私はわかっていた。

でも、私はもう、逃げない。

優の髪を優しく撫でた。

的「優...」

雨はまだ降り続いていた。

でも、もう濡れていない。

優は、私の傘の下で、守られている。

――ずっと、こうしたかった。

優を抱きしめながら、私はそう思った。

優の鼓動が、私の胸に響く。

同じリズムで、心臓が鳴っている。

――もう、離さない。

そう誓った。

優が、泣きそうになりながら、私の名前を呼んだ。

「...美青...」

その声に、私は微笑んだ。

「ここにいるよ」

雨の音の中で、優の手を握った。

――これから、守る。

優のすべてを。

彼女の涙も、笑顔も、不安も、希望も。

私が、守る。

**――優を、守る。**

雨は、まだ降り続いていた。

でも、もう、ひとりじゃない。

――私と優の、物語は、これから始まる。

FIN.