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<福島第1原発事故>「原子力村」というところ

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 ◇学者集落は200~300人 「危ない」言えない雰囲気 規制値3000倍でも「安全」

 東日本大震災の発生から間もなく1カ月。今も福島第1原発から放射性物質が漏れ続け、テレビは連日、東京電力、経済産業省の原子力安全・保安院の会見を映し出す。でもなぜだろう。見れば見るほどよく分からなくなり、不信感が増す。会見場に足を運び、「原子力村」について考えてみた。【宍戸護、写真も】

 ◇専門分化、反原発警戒で排他 一般の知識人との交流必要

 1日の東電会見。JR新橋駅に近い本店3階の大ホールは、200人はゆうに入れる広さで、記者100人ほどが詰めかけていた。節電のため廊下は真っ暗だが、ここは明るい。松本純一原子力・立地本部長代理が中央に立ったまま説明を始める。左右の席には原子力設備管理部の課長4人。さらにその脇で数人の社員がひたすらメモを取る。

 連日テレビで見る東電社員をしげしげと眺めると、小林照明課長はサラサラヘア、居並ぶ課長たちも知的な雰囲気、松本本部長代理は品が良い。

 記者 津波の規模が想定外だったと繰り返しているが、2005年に市民団体が、想定された津波の高さは低すぎると、当時の社長に申し入れをしている。

 松本氏 申し入れがあったとは把握しています。

 記者 想定外としたのは、申し入れは取り上げるに当たらないと判断した?

 松本氏 津波対策につきましては土木学会さんのほうで評価指針が作られておりまして、日本全国のどの原子力発電所もその評価指針に基づいて津波の評価を行い、安全性、健全性の確認をしてきました。その結果、福島第1では5・7メートルという評価をしていただいた。考えられないといいますか、当時といたしましては私どもはそういったプロセスを踏んだ結果として評価をしておりましたので、こんなに大きな津波が起こって、海水系のポンプが全滅するというところまでは考えておりませんでした。

 --それって市民団体の申し入れは無視したってことでは? 驚いているうちに、質疑は続く。

 記者 多重防護ができていないという意味では、人災だという指摘があります。

 松本氏 私どもが多重防護で考えておりましたのは、一般的な原子力発電所で申しますと、非常用発電機などは少なくとも3、2系統用意しておりまして、1系統が故障して使用できない場合でも、他がバックアップし事故の拡大を防ぐ設計で運用してきました。しかし、今回のように津波で複数の系統が全て機能喪失するということは考えていなかったということです。

 --多重防護ができていないとも、人災とも答えない。松本本部長代理は滑らかな口調だったが、合点がいかない。

 会見後、会場にいた仏国営放送の記者にテレビカメラを向けられ、いきなりこう質問された。「あなたは東電が情報を隠していると思いませんか」

 海外からもそう見られているんだ……。

    ■

 「原子力の専門家は完全な身内社会です」。断言するのは、原発推進派でありつつ「地震で倒れる原発はダメだ」という立場を堅持する武田邦彦・中部大学教授。東大卒業後、民間企業で約20年間、原発の燃料であるウランの濃縮に携わり、昨春まで原子力安全委員会専門委員も務めた。「原子力の専門家を育てる大学は、東大を頂点に旧帝国大や一部の私立大学に限られている。ざっくりというと、僕ら原子力村の学者集落は200~300人。みんな顔見知りですよ。民間企業も含め原子力産業の中核になる仕事に携わる人は、数千人くらいでしょう」と武田教授。当然東電内でも、東大卒の武藤栄副社長を筆頭に「原子力村」は一大勢力と言われる。

 1956年、原子力基本法などいわゆる原子力3法が施行され、原子力の開発、利用は始まる。基本法2条では「民主的な運営の下に、自主的にこれを行うものとしその成果を公開」するとしており、これが今も原則だ。当初「夢のエネルギー」ともてはやされたが、79年の米スリーマイル島原発事故をきっかけに、世論は賛成派と反対派のまっ二つに。武田教授は「原子力関係者は常に賛成、反対を問われ、何が何でも賛成か、絶対反対に突き進む。原子力村にいると『原発は危ない』と言いにくい雰囲気ができ、そこにみんなのみ込まれていく」と語る。

 一例として、海水から法令基準の約3000倍の放射性ヨウ素が検出されたという東電の発表(3月30日)に対し、「健康に被害がない」とした保安院の姿勢を挙げる。武田教授は「(官僚主体の)保安院だけでは判断できない。原子力の専門家の助言が当然ある」としたうえで、「ならば何倍ならば危険なのか。規制値の3倍とか10倍ならば安全だと言うのは分からないではないが、3000倍で安全とは、世間の常識とかけ離れている」。

    ■

 前東大学長の小宮山宏・三菱総合研究所理事長(化学システム工学)は「研究者はどこの分野でも針のように専門分化していくが、原子力の専門家は反原発運動への警戒感もあり、その傾向が特に強かった。結局、ほかの科学者、技術者に門戸を閉じ、タコツボ化してしまった」と語る。

 現在、小宮山さんは東電の社外監査役も務めている。「原子力村の人たちだけが『原子力は絶対に安全』と唱えても、世の中には浸透しない。これまではそれでも原発は推進されてきたが、今後は違う。車だって、利用者の客観的な評価や評論家の意見が広まって、安全だと認められる。原子力の専門家は原子力村に閉じこもるのではなく、一般の科学者、技術者、医師、文系の知識人との交流が必要だ。例えば、トヨタ自動車の安全担当の技術者との交流を通して、自らの考えを修正し知見を広げる。相手には原子力の知識を共有してもらう。村に閉じこもっていてはダメだ」

    ■

 東電会見をのぞいた同じ日、保安院の会見にも足を運んだ。西山英彦審議官が記者の質問に答えるなか、後ろに控える職員の一人が一瞬コクリとして、手元の書類を持ち直していた。不眠不休で疲れているのか、緊張感がうせてしまったのだろうか。

 記者 原子炉は、今の状態から逆戻りして炉心溶融することは絶対にない?

 西山氏 絶対ということは、どんな場面でもなかなか難しいのですが、そうならないようにベストを尽くしています。

 なんとも言えない歯切れの悪さ……より不安が増してくるのは、私だけだろうか。

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