和希の手の暖かさに、

堪えてきた不安や和希への

想いで涙が止まらなくなった。


和希はただ私の話を聞いてくれて、

30分ほどの時間が過ぎた。


少しの沈黙のあと、

「お前に話さなきゃいけないことがある。

 聞いてもらえる?少し長いけど。」

和希の言葉に頷いて答えた。

和希は静かに私達が出逢ってから、

今まで口にしなかったことを

語り始めた。

あの時を取り戻すように

ゆっくりゆっくりと。



「初めて逢った時は全く気が付かなかった

んだ。でも、飲み会で膝枕してもらって、

懐かしい感覚になったんだ。その日、

夢を見たんだよ。昔の俺らが星を見て

話してたり、お前が天に帰った日に、

また必ず逢おうと約束したことをさ。」

「私も手を繋いだり、キスしたりした

時、同じ映像みたよ。」と答えた。


和希は窓に目を向けながら続けた。

「そんなふうに分かってたのに。

お前しかいないんだって。約束

してたのに。あの時はできなかった。

俺は逃げたんだ。本当にごめん。」

鼻を啜りながら、和希は泣いた。

暫く沈黙が続いた。


そして深呼吸をしたあと、また話は

続いた。

「奥さんには家のこと全部やらせて

俺は外で自分勝手してて、だから、

離婚なんて言えなかったんだ。

壁を越える自信がなかったんだ。

本当に勝手だけど、お前のことは

誰よりも愛してて、今も変わらない。

だけど、それを言ってしまったら、

絶対にいけないって思ってた。

本当はすぐに一緒になりたかった。

ここに住む?って言ったり、

お互い最期まで一緒っていったけど、

あれが精一杯だった。

ほんと、逃げてばっかだな…。

嘘はつかなかったけど、本当の気持ち

も絶対言わないって誓ったんだ。

いつか歳取って、俺が一人になった時、

お前が一人でいたら。一緒になりたい

と思ってた。

井上さんとはどうなの?」

私は驚いて「半年で別れたよ。」

と答えた。そうか和希には別れたって

言ってなかったね…。


「そうだったのか?幸せなら俺は

身を引こうって思ったんだよ。

奥さんの病気分かった時さ、

俺が自分勝手してきたから、その

影響で周りが不幸になるんだと

思ったんだよ。かなりへこんでさ。

残された時間は、奥さんに尽くそうと

思った。でもさ、お前が頭から

離れなくて…。何度も連絡しようと

したんだよ。でもできなかった。

周りがみんな旅立ってくのは、

俺のせいだ。だからお前も。

俺は疫病神だよ。」


和希は泣きながら、頭を抱えた。


「違う。人は生まれたら最期に

向かってくんだよ。例外なくみんな。

周りが旅立ってくのは和希の

せいじゃないんだよ。

和希に業(ごう)があるなら、それは

大切な人を見送ること。自分がどんなに

キツい最期を迎えるより、一番辛い

最期は大切に思う人との別れだから。」


和希は私のベッドに顔を伏せて

静かに泣いた。そして、

「もう後悔したくないんだ。だから、

ここに来た。二人であの時間を

取り戻さないか?今度は絶対逃げない

から。一緒に歳とっていきたいんだ。」


和希の言葉は、とても嬉しかった。

涙が止まらなくなった。

「でも私、がんなんだよ。いつ 

いなくなるか…。」

と言いかけたところで、和希の

唇でふさがれた。


「一日でも長く一緒にいたいんだ。

約束したじゃん。また絶対逢うって。

それにどちらかが旅立つまで、

俺らはもう離れないんだよ。

連絡してない時だって、辛かったけど、

離れた気なんてしてなかった。

きっと必ず繋がるって信じてた。」

と言って、和希は強く強く、

私を抱きしめた。