シューベルトは昔から苦手な作曲家だった。

特に彼の創作の本領（？）とも言えそうな歌曲に関してはほぼお手上げで、辛うじて「冬の旅」には何度か挑んだものの挫折。弦楽四重奏曲は有名な１４番を時々聴く程度、弦楽五重奏曲は1年に1回聴けばいいほうで、「鱒」で有名なピアノ五重奏曲交響曲に到っては聴いていて退屈で仕方がない。交響曲に関しては一般的には「未完成」でお馴染みのD759が有名なのだろうが、個人的には5番（D485)を好む。

8番（D944）は先日オーボエ奏者で有名なハインツ・ホリガーとバーゼル室内管のＣＤを聴いて初めていい曲だと思った。

恐らくこれまでシューベルトの曲の中で一貫して聴いてきたのは即興曲集（D899,935)で、どちらかといえばD899のほうが好みだがたいていのＣＤはD935とセットになっているからどちらにも親しみを感じている。

そのような中でここ１，２年開拓しているのが即興曲と同じ器楽分野のピアノ・ソナタである。しかし、これもなかなかすんなりとは入ってこない。

一連のピアノ・ソナタのなかで昔から惹かれるのは13番（D664）と21番（D960)である。前者のチャーミングな出だしは交響曲第5番のそれと同じくらい好きだ。一方21番は茫洋とした摑みどころのない、どこへ向かってゆくのかわからない音楽なのになぜか繰り返し聴きたくなってしまう。

ＣＤはこれまでケンプや内田光子を聴いていたがどうも自分の好みに合わない。去年買ったバレンボイム盤（DGから出ている5枚組のボックス）で随分好みに近づいてきたが、まだどこかしっくりこない（ので手元に残している）。

それで、いかにも怪しげな風体のジャケット写真から敬遠気味だったルプーを聴いたら、これが実に良かった。人を見た目で判断してはいけない。喜ばしいことにルプーのディスクは13番と21番がカップリングされていた。これも僥倖と言わねばならない。

同じ曲の組み合わせでいうと、武満徹やサティの演奏で有名な高橋アキのディスクも出ているが、値段が高い。ルプーはその半値で買える。

13番と21番の演奏がすばらしかったのでこれまでギーゼキング盤でほぼ満足していた即興曲のＣＤも追加で購入しようと思ったが、思い留まった。浪費の連鎖を止めなければいけない。

そういえば、毎日新聞夕刊の連載「私の記念碑」のコーナーにピアニストの田部京子が出ている。

その２回目だったか３回目だったかのテーマがシューベルトで、彼女が「若い頃はその素朴で息の長いフレーズを受け止めきれず、何とかまとめようと苦心したことも。でも、耳を澄まして共感すれば、降りてくる音楽なのだと分かりました」と述べていた。

これはもちろん弾き手としての視点で語られているわけだが、単に共感するだけでなく〝耳を澄まして〟というところに、この作曲家独自の魅力が埋もれているような気がした。