・・・☆・・・☆・・・☆・・・
【俺のネコ】(37)涙の果てに。
人間の限界なんてないんだ。
俺は、俺の流す涙の量でそう思う。
肩を震わせ声を張り上げ号泣し続けていると、いつしか夕刻になっていた。
思い切り泣いたお陰か、少し落ち着いた俺だった。俺は、海辺から帰路についた。そして落ち着きを取り戻した俺は、ネコの声や言葉を反芻していた。
(そうだ、お揃いのアイテムだな。)
俺は、運転しながら二人を結びつけるアイテムについて考えていた。
そして、一つ思い出したことがあって、俺は都内まで戻ってくると閉店間近のショップに向かった。
ギリギリ間に合ったその店で、俺は次にネコと会ったら渡すべきアイテムを購入した。
自宅に戻ると、すっかり夜も更けていた。
「さすがに疲れたな。」
俺は、もしや深夜にもネコが現われるかもしれないと思うと、ストラップのついたペンダントを胸にかけたまま眠りについた。だが気づくと朝だった。
俺は寝起きの風呂に入り出てくると、いつものようにコーヒーを淹れ、一旦入浴のために外したストラップを胸にかけ直し、ストラップ本体を手で握り締めた。
こいつが、方向指示機の役目を持ってるかもしれないんだ。昨日のネコとの会話を思い出し、俺はストラップを握り締めながら声に出して念じた。
「ネコ、ここだよ。 おいで。」
「ケイちゃん! 」
ネコが現れた。
俺は時計を見た。ちょうど6時になろうかという時刻。
偶然だろうか…昨日もその前もこの時刻だったかもしれない。
「あたしのこと 呼んでくれた?」
俺の目の前に現れたネコは、相変わらずニコニコして俺の膝にまたがって座ろうとしている。
しがみついてきたお前を抱きしめながら、
「聞こえたか?」
「うん。ケイちゃんの声がしたから! すぐに来れたよ!!」
「つながり…なんだろうな…。」
俺はストラップをまじまじと見た。何もかわったことのない、単なるストラップである。ネコの好きなピンク色の紐で、根元にローズクウォーツの小さな石が付いている。
俺の膝の上にちょこんと座ったネコは、相変わらず薄らボンヤリしている。消えてしまった昨日の海辺より、まだ元気はありそうだ。現れたての時間は、比較的元気だよな。透けそうな儚さであっても、ネコには確かな体温がある。
だから、俺に質感を持って存在を伝えてくれてるのだ。
「ちょっと ここに座れ。」
俺は、俺の膝にいるネコをソファの横に移動させた。
身体が離れることに、一瞬不安を隠せないネコだったが、ソファに小さく座っていた。
「これ、プレゼントだ。」
俺は昨日、海辺で散々泣いた後 気を取り直して買いに行った「例の物」をネコに渡した。
「なに?」
俺から手渡された小さな箱の包みを、ネコがカサコソとを開けた。中から出てきた箱を 俺がネコから取り上げた。
「手を出せ!」
俺はネコの左手を指差した。
「指輪だよ。」
ネコが俺の前に突き出した左手の薬指に、俺は自分の手で指輪をはめてやることにた。
「重いか?痛くないか?」
儚いネコの指に、指輪が負担になるかもしれない…土壇場で躊躇したものの、なんとかハマったようだ。
「・・・・・・・・・。」
ネコは、黙ったまま目を潤ませ今にも泣きそうだった。
「あと、こっち。」
俺は、隠してあったもうひとつの箱を取り出し、その中から俺の分の指を取り出した。
「お前が俺の指に嵌めてくれる?」
ネコは小さくうなづいた。
俺は、俺の指に収まっていく小さな銀色のリングを見ていた。
「ケイちゃーーーーーん!!!!」
ネコが急に大声出したので、俺は驚いて俺の手を握っていたネコの手を手放した。
俺たちは二人で、座ってた場所から立ち上がっていた。
目の前に、ネコが驚いた顔して自分の足元を見ている。
俺の前には、透けてもなく儚くもない…。つまり、生きてるのと同じ実体のあるネコが、素っ頓狂な顔して佇んでいた。
「お、お前…。」
「ケイちゃん…。」
俺はネコをそっと抱きしめた。昨日とも確実に違った、はっきりした感触が伝わってきた。
「あたしの身体…。ケイちゃんわかる?」
「あぁ、ちゃんとわかるよ。」
「あたしも すごくわかる。」
ネコは感極まったのか…声を出して泣き始めた。
俺はネコを抱きしめながら、再びソファに座らせた。
「泣くと疲れるぞ。」
「うん…そだね。」
ネコは、今度は嬉しそうに自分の指をかざして、指輪を眺めた。
「俺さ、昨日の帰りにこれを買いに行って来たんだよ。」
「うん…。」
「前にさ、お前… お揃いの指輪を欲しがっただろう?」
「うん…。」
「だからさ、ストラップよりも強力なアイテムって指輪かなって。」
「うん…。」
何を言っても、ネコは頷くだけだった。
「どうしたの・・。大人しいじゃん。」
「嬉しくて…。」
そう言うと、ネコがまた号泣した。
昨日俺が、吼えるように泣いたのと同じくらい、ネコは肩を引きつらせて大泣きしだした。薄らぼんやりとしかなかった自分の身体を、取り戻せた喜びだろう。
「あたしの身体…。」
「ん?」
「これで、あたし…ケイちゃんを、ちゃんと愛してあげられる…。」
ネコはそれ以上言葉にならなかった。
あの日…。
透けるような儚いお前を、俺が精一杯感じさせた時…。しきりに、「ケイちゃんごめんなさい」と言ってたよな。
お前、そんなこと気にしてたのかよ。
身体で、一つになれないことを気にしてたのかよ。
いくらお互いの敏感なところを愛撫し感じさせ合ったとしても、あの時は俺たちは繋がることができなかったんだ。
いや、むしろお前の身体を思うと俺がそこまでしなかったんだ。
けれど、お前はそんなことも気にしてたんだな。
お前はさ。
そもそも、お前はさ。
俺のことを気にして、心配して、ここへ現れるようになったんだもんな。
そんなお前が、心の中で不安だったり寂しかったりしてなかったはずがないんだ。
「泣きたいだけ、泣け…。」
俺のために、明るく振舞ってくれたりしてさ。
お前、我慢しすぎ。
泣いたらいいよ。
「俺の胸で泣きたいだけ泣きな…。」
このときの俺は、泣かなかったよ。
ネコに思い切り泣かせてやりたくて、俺は泣かないでいられたんだ。
お前の髪をなでる俺の指に、お前のと同じ銀色のリングが光ってるよ。
「ケイちゃんありがとう…。」
いいから…。
お礼とか そんなこといいから…。
悲しいことと、寂しいことと、全部全部泣いて捨ててしまえ。昨日あの海で捨て切れなかった分を全部涙で流してしまえ。
俺の胸で、今は泣きたいだけ泣いてくれよ。
昨日俺は、小さなローズクウォーツのついた指輪を探した。二人分を買った後で、縁結びの神社を検索して探したんだ。そして神社で俺は、30分近く膝まづいて祈った。俺とお前が永遠に結ばれますように…と。
俺は神様も、パワーストーンの言い伝えも、何でも信じるよ。
お前といられるなら、なんだって信じるさ。
「ケイちゃん…ありがとう。」
お礼の言葉なんか言うな。俺はただ、お前といたくて俺自身のために指輪をしたんだ。
今は、お前の幸せだけのために俺は存在してやりたい。
泣くだけ泣いたら、またお前の愛おしい笑顔を見せてくれ。
涙の果てには、きっと幸せがあるはずなんだ。
【つづく】
◆ランキング投票にご協力下さい◆
にほんブログ村
◆著者◆
シンガーソングライター Ineko(いねこ)

◆オフィシャルサイト◆
『Ineko web site』
