ミコト「ただいま!」【3】 | とあるSSのクライアント

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とある魔術の禁書目録のSSのまとめブログです。

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 翌日、帰ってきた上条と一方通行のために小さなパーティが開かれた。

 インデックスとアンジェレネが食べ物を取り合って喧嘩したり、酔っ払った神裂と五和が大暴れしたり、パーティは終始にぎやかな雰囲気だった。

 みんなの笑い声はどこかぎこちないものだったが、それでもこの上なく温かい空気が場を包んでいた。

 「おい、三下ァ。お前これからどうすンだ?」

 上条の向かいの席にやって来た一方通行が問いかけた。

 「学園都市に戻ろうと思う」

 「学園都市か……」

 この半年、上条たちの命を狙ったのは敵対する魔術結社だけではなかった。

 超能力という最高機密、そして上条の能力。

 この二つを学園都市が放置しておくはずがなかった。

 学園都市による襲撃はロンドンにも及んだと言う。

 魔術側の抗争が収まった今、一番の懸案事項は学園都市に違いなかった。

 「それで、オリジナルはどうすンだ?」

 「何よその呼び方。私はもちろんついて行くわよ」

 振り向くとイギリス清教の修道服に身を包んだ御坂が上条を見下ろしていた。

 「私は当麻の彼女なんだから、当然よね!」

 「でもなあ……。それに彼女って…………」

 「別にいいじゃない。それに能力のことなら問題ないわよ」

 そう言うと御坂は指先からバチバチと小さな青白い光を放った。

62 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/07/14(水) 22:44:51.26 ID:7xIup.I0

 「えっ……!」

 上条は心底驚いた顔をした。

 「いやー、昨日は言いそびれちゃったんだけど、実は私、半年間ここで魔術を教わっていたの。
  ほら、私……その……超能力なくなっちゃったじゃない。だから魔術を使っても問題ないらしいの。それで……」

 「……」

 「だからいいでしょ?強度はまだレベル4ってところだけど、多分大丈夫。だから連れてって、お願い」

 上条は本当に驚いていた。

 御坂の強さに。

 御坂は何も言わなかったが、もしかしたら少しでも上条の罪悪感を小さくするために魔術を身につけたのかもしれない。

 そう思うのは自分勝手が過ぎるだろうか。

 上条にはわからなかったが、少なくとも御坂の決意は無駄にしたくない。


 「OK。わかったよ。それで……、打ち止めはどうするんだ?」

 「あいつは連れてかねェ。もう少しここ居てもらうつもりだ。あとはアイツを連れて行く」

 一方通行はそう言って土御門の方を見た。

 学園都市の暗部のことは一方通行から聞いていた。

 『グループ』のこと、そのメンバーのこと、統括理事会のこと。

 学園都市とイギリス清教の関係が悪化しつつある今、双方にパイプを持つ土御門は交渉を行う上で非常に重要だ。

 「あっちでのことはアイツに任せる。準備が出来次第ここを発つ」

 「わかった。それと一方通行……」

 「なンだァ?」

 「ありがとうな」

 「……」

 一方通行はチッと小さく舌打ちすると、目の前にあったコーヒーを一気に飲み干した。

63 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/07/14(水) 22:53:34.80 ID:7xIup.I0

 ***

 そこからの段取りは早く、三日後に上条たちはイギリスを離れることとなった。

 一同は寮の門前で別れの挨拶を交わしていた。

 「お姉様と仲良くしてね!ってミサカはミサカはあなたを心配してみたり」

 「余計な心配してンじゃねェよ」

 「お姉様も元気でね!」

 「ありがとう打ち止め。すぐに迎えにくるわよ」

 「とうまも短髪と仲良くするんだよ」

 「ああ、本当にいろいろとありがとうな」

 皆思い思いの言葉を交わす。

 「一方通行、頼んだぞ」

 浜面が何か手紙のようなものを一方通行に渡している。

 別れの挨拶が済むと、四人は教会が用意した車に乗り込んだ。

 「それでは……、お気をつけて」

 車は発進すると、瞬く間にその姿は見えなくなった。

 その姿を見送りながら、アニェーゼがぽつりと呟いた。

 「天才っていうのは…、ああいうのを言うんでしょうね……」

64 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/07/14(水) 22:56:47.82 ID:7xIup.I0

 ***

 数日後、上条たちは学園都市にある廃ビルの一つに腰を落ち着けていた。

 ビルの中階にあるワンフロア、広さはテニスコートほどで、その片隅には土御門が調達した家具類が置かれている。

 周囲には人払いの魔術が施され、ひとまず見つかる心配は無い。

 「グループもなくなっちまったし、まァこンなもんか」

 「……」

 土御門は学園都市に帰ると決めた日からずっと無口だった。

 なぜか御坂がついて来ることに反対し続けたが、結局は四人で帰ってくることとなった。

 「とりあえず俺と一方通行は昔の仲間を探してくる。それまでカミやんたちはここでおとなしくしていてくれ。くれぐれも外には出るなよ」

 そう言うと土御門は一方通行と共に外へと出て行った。

65 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/07/14(水) 23:02:30.67 ID:7xIup.I0

 残された二人の間にはなんとなく気まずい雰囲気が漂っていた。

 とりあえず向かい合うように置かれたソファーに腰掛ける。

 (いきなり二人きりにされても……何話せばいいかわかんない……アイツなんか前より口数減ってるし……)

 そんなことを御坂が考えていると、おもむろに上条が口を開いた。


 「御坂、すまなかった」

 「え……?」

 「その……能力のこととか、何も言わずにイギリスを離れたこととか……、今までちゃんと謝ってなかったなと思って……」

 御坂は小さくため息をつく。

 「いいのよ、別に」

 「でも……」

 「いいの。私は当麻が帰って来てくれた、それだけで十分なの」

 「そうか……」

 上条はそういうと再び黙り込んだ。


 なんだかやけに物分かりのいい上条を見て、ふと御坂に悪戯心が芽生える。

 「じゃあ、一つだけお願い聞いてくれる?」

 「聞ける範囲ならな」

 「私のこと、名前で呼んでくれる?」

66 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/07/14(水) 23:08:55.90 ID:7xIup.I0

 「……えー……」

 「いいじゃない!私はとっくに当麻って呼んでるし。それとも何?その程度のお願いも聞いてくれないの?」

 「その程度って……」

 「ダメ……?」

 「……」

 「……」

 「…………みこと……」

 「きこえなーい」

 「……美琴」

 「!!」

 予想以上に心地よいその響きにすこしだけ動揺する。

 「えへへ……合格!これからちゃんと名前で呼んでね」

 「わかったよ」


 上条は諦めたようにそう言うと、ボフッとソファーにもたれかかった。

67 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/07/14(水) 23:16:46.82 ID:7xIup.I0

 再び静寂が流れる。

 今度は美琴から沈黙を破った。

 「ねえ、ちょっと外に出ない?」

 「土御門の言ったこと、聞いてなかったのか?」

 「いいじゃない少しくらい。それに当麻がついてれば問題ないでしょ?情報収集よ」

 「情報収集か……」

 上条も興味があった。

 戦争勃発後、学園都市が情報を封鎖したため外部で学園都市内の情報を仕入れることはほぼ不可能であった。

 そのため、一年近く学園都市の内情がわからない。

 これからどう動くにしても、学園都市の情報を仕入れておいて損はない。

 「わかった。少しだけだからな」

 上条はそう言うとソファーから立ち上がった。


 隠れ家が人気の少ない地区にあったためか、案の定帰り道でスキルアウトに囲まれた。

 暗部の息がかかっているようには見えないが、騒ぎは大きくしたくない。

 「美琴、10秒間息を止めていてくれ」

 上条はそう言うとスキルアウトたちの前に立ち、おもむろに胸の前でパンッと両手を合わせた。

 たったそれだけの行為で、上条を囲んでいた10人以上のスキルアウトは地面に倒れ臥した。

 「さ、行こうか」

 上条はそう言って美琴を促すと、再び隠れ家に向かって歩き出した。

68 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/07/14(水) 23:25:45.42 ID:7xIup.I0

 二人は隠れ家へと戻り、再びソファーに腰をおろす。

 「さっきの、一体何したの?」

 「企業秘密だな。今に教えてやるよ」

 上条はそう嘯いた。

 少しだけ戦場の思い出が甦り、胸の奥が痛む。

 「便利な能力ね、って言ったら怒る……?」

 美琴がおそるおそる尋ねる。

 「……どうだろうな……」

 そう言うと上条は、買ってきた新聞や古雑誌を机の上に投げ出した。

 「それよりもまずはこっちを何とかしようぜ」

69 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/07/14(水) 23:31:04.86 ID:7xIup.I0

 「おい見ろよこの雑誌、白井が載ってるぞ」

 「どれどれ?へえ、あの子すごいじゃない!」

 上条が指差した雑誌には、白井黒子がレベル5になったという記事が載っていた。

 「もう長いこと会ってないな。やっぱり……会いたいか?」

 「うん………やっぱりね。でも今の私はお尋ね者だから……。あの子や他の子に迷惑をかけるようなことはしないわ」

 美琴は少し寂しげにそう言った。

 「きっと土御門たちがうまくやってくれる。そうすれば元の生活に戻れるさ」

 既に学園都市と敵対している上条たちだが、まだ交渉の余地は残されている。

 一方通行は学園都市で最強の超能力者という、学園都市にとって替えの効かない最重要人物である。

 美琴も超能力を失ったとは言え、学園都市内での知名度は計り知れない。

 おそらく無碍に扱うということはないだろう。

 今のところ美琴のことが書かれた記事は一つも見当たらない。

 上層部は穏便にことを済ますつもりなのだろう。

 「……うん、そうね」

 美琴はうなずくと、再び読んでいた雑誌に目を戻した。

70 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/07/14(水) 23:36:27.41 ID:7xIup.I0

 数時間が経ったとき、美琴が突然ソファーから立ち上がった。

 「どうしたんだ?」

 「……なんでもない……。それより今日はもう遅いし、そろそろ寝ましょ!」

 「それもそうだな。よし、寝るか!」

 そう言うと上条は照明を消し、そのままソファーの上で横になった。

 美琴も何も言わず壁際に置かれた簡易ベッドのところへ行き横になった。

 その姿に、上条は何か嫌な予感がした。

 案の定、上条の胸騒ぎはおさまらなかった。

 すでに横になってから2時間以上が経っていたが、上条は一向に寝付けずにいた。

 美琴が寝ていたベッドの方で、静かに人影が動くのが見えた。

 「どうかしたのか?」

 少し驚いたように、美琴は答える。

 「……!……お手洗いよ……」

 そう言うと美琴はドアを開け、フロアを出て行った。

 上条は若干申し訳なく思いながら、耳をすます。

 少ししてから水が流れる音がした。

 本当にお手洗いだったのだろうか。

 上条はそう考えた。

 しかし彼の予感は間違っていなかった。

 その後、美琴は戻ってこなかった。

71 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/07/14(水) 23:45:39.00 ID:7xIup.I0

 しびれを切らした上条は、美琴を探しにフロアを出た。

 しかし建物中、どこを探しても美琴の姿はなかった。

 ビルを飛び出し、辺りをくまなく探し回ったが、結局美琴の姿は見つけられなかった。

 日が昇る頃、上条は再び廃ビルに戻ってきた。

 一方通行と土御門はまだ戻っていない。

 もちろん美琴の姿もない。

 上条は焦っていた。

 あの日美琴と再会し閉じ込めたはずの感情が、じわじわと溢れ出す。

 失う恐怖が上条の心を蝕む。

 ふと一年前のことを思い出す。

 上条は美琴が寝ていたベッドの前で腰をかがめ、その下を覗いた。

 予想通り、そこには上条がまだ目を通していない雑誌が捨て置かれていた。

 上条は一段と大きくなる胸騒ぎを抑えつつ、雑誌のページをめくる。

 美琴の様子に違和感を覚えたあの時、たしか美琴はこの雑誌を手にしていた。

 巻頭の、一番目立つ位置にその記事はあった。

 あるはずのない、日常生活を送る美琴の写真とともに。

72 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/07/14(水) 23:51:17.89 ID:7xIup.I0

 ***

 美琴は言葉を失った。


 そこには黒子やその他の寮生たちに囲まれながら笑う、“自分”の姿があった。

 雑誌で見覚えのない自分の写真を見たときには半信半疑だったが、目の前の光景を目にして予想は確信に変わっていた。

 『妹達』

 一年前の忌まわしい記憶が甦る。

 自分のDNAマップを元に生み出された2万余人のクローン。

 学園都市に7人しかいないレベル5にして、学園都市の広告塔の役目も兼ねていた超電磁砲としての自分。

 それがいきなり学園都市から失踪したという事実が学園都市の内外にもたらす影響は計り知れない。

 そのことを恐れた上層部が、クローンの中の一人を美琴の替え玉に据えたのか。

 もしくは新たに都合のいいクローンを生み出したのか。

 美琴は居ても立ってもいられなかった。

73 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/07/15(木) 00:00:04.27 ID:2gh8j1c0

 ***

 「ちょっとアンタ!待ちなさい!」

 チャンスはその日の内にやって来た。

 授業時間が終わり、学舎の園から出てきたもう一人の自分。

 途中で黒子と別れ一人になったところを呼び止めた。

 あたりに他の人影はない。

 “彼女”はゆっくりと振り返る。

 そこには、紛れもない自分の顔があった。

 他の妹達のような感情に乏しい顔でなく、その表情には心の内がありありと映し出されていた。

 諦観と悲哀、そして覚悟。

 「アンタは……、誰なの……?」

 美琴の額を冷たい汗が伝う。

 ”彼女”は苦しそうな顔をしてうつむく。

 「答えてっ……!」

 美琴は声を荒げる。

 ”彼女”が観念したようにゆっくりと口を開く。

 「私は……、御坂美琴……。そして、あなたの名前は……」


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続く