~ センスと努力
先日の柳田プロのレッスンで、涼風が一番最初に教わったのは右足の拇指球(ぼしきゅう)に重心を乗せる事だった。
そこを意識し、その上に右ひざ内側を乗せる。
膝を動かさないようテイクバックをし、右の尻の筋肉が張ったところがトップで、振り降ろしたら右ひざを解放させる。
右足太ももを以前痛めた涼風にとっては、この動作はとても勇気のいる事だった。
しかし最近は痛みも無くなっていたようで、涼風は勇気を持ってその練習に取り組んでいた。
不思議な事に今の涼風には男の子と遊んだりゲームをしたりする事より、ゴルフが上手くなる事が一番のようだ。
周りの友人達は、学校の帰りに男の子と楽しげに騒いだりしているのが楽しいようなのだが、それを羨ましいとは少しも思わなかった。
涼風は授業が終わるとSORAと一緒に校庭の片隅にあるネットに直行し二人でスイングのチェックをし合うのだった。
(絶対に出来るようになる。柳田プロに褒められる。)
呪文のように呟きながら涼風はクラブを振るのだった。
ゴルフのスイングは元を正す事が大事だ、おかしな所だけを付け焼刃の処置で治すべきではない。
プロはそれを知っているからこそ教える事が出来るのだろう。
涼風もSORAもこれまで二人で素振りやスイングチェックを毎日やっていたのだが、教え合っている訳ではなく、二人で試行錯誤しながら遊んでいたと言うのが適切だろう。
しかしそれが結果、体幹を鍛える事になり、何も知らない二人にはスポンジのように吸収する若さも残っていると思われる。
SORAが「センスの塊」だとしたら、涼風は「努力の塊」だった。
涼風が家に帰ってから毎晩続けている鏡に向かっての素振りも、苦にならなくなって来ていた。
涼風が今取り組んでいる、右サイドのレッスンの話をした時、SORAはキラキラした目で聞いていたと思ったら、10回程素振りして球を打つともう出来ているのだ。
SORAの何とも言えぬ綺麗なスイングを見ていると、今涼風が取り組んでいる事をSORAは直ぐに自然と出来ているのがわかった。
その上、それに取り組んでいる間に何か思いついたのだろう、もう別の事を考えている顔をしている。
涼風はそう言うセンスが無いと自分では思っている。努力しか無いのを気付いているのだ。
それが涼風には悔しかった。
明日の夜、SORAを柳田プロのレッスンに連れて行く予定になっている。
涼風には、SORAのスイングを初めて見た時の柳田プロの驚く顔が目に浮かんでいるのだ。
これは同性としてのヤキモチなのだろうか?
それともライバル心?
涼風は自問自答する気持ちを振り切るように、努力のスイングを続けていた。
<続く>