blues【blúːz】 Be My Baby 17-12(2)長い電話を切って、大きくのびをする。事務所での打合せが、急遽だったので、打ち合わせに出ていなかった藤村から、指示という名の嫌味の電話だった。楽曲制作について、諸々の細かなことを言いたいらしく、「今から行く」と言いだしたが、松本が無理だと断わり、流したら、諦めて電話であれこれ言い始めた。仕事終わりで、少し離れた場所にある松本の仕事場までくるのが、面倒臭かったのだろう。藤村は、本来ならアルバム制作という名目で、暇なスケジュールのはずだったのだが、松本の社長への進言という名のチクリで、ドキュメンタリー番組のナレーションの仕事を入れられたらしい。[某国営放送って、ギャラ安いんだぜ?]電話口で藤村が言う。「知るかよ、そんなの。それに、お前の給料形態だったら、国営放送のギャラが少々安くても関係ないじゃん。山ほど貰ってるんだから、文句言わないで働けよ」松本に言われ、“お前のせいで、仕事入れられた”“俺は動物に興味がない”“食堂の飯が不味い”と、散々文句を言った藤村だったが、最後には、自分がナレーションを入れた映像を熱っぽく語り、「やってよかった」と締め括った。藤村は、悪いヤツではない。むしろ、良いヤツだ。20年経って、やっと、為人を知る余裕を持てた自分がいる。自分は20年間、何を見ていたのか…と、松本は情けないような気分になった。そらからしばらく、時間を忘れて作業をして、気がつけば、早朝といっていい時間になっていた。ブラインドを透かして、朝の太陽が滲んでいる。松本は立ち上がり、両腕を天井に届きそうなほど伸ばして、首の骨をコキコキと鳴らした。音を吸い込むほど静かな部屋の中を、足音を心なしか小さくして、内田の寝ている部屋まで行く。静かにドアを開けて、中の様子をうかがう。蒼白く朝の気配が漂う部屋の中に、内田の小さな寝息を確認する。起こさないように。足音を殺してベッドに近づいて。内田は、落ちそうなほどに、ベッドの半分を開けて寝ている。松本は、自分を待っているかのような、シングルベッドの半分の、胸がキュッとするようなスペースに、身体を滑り込ませた。起こさないように。そっと、内田に腕を回して。背中から包むように、内田を抱き込むと、モゾモゾと内田が身体の向きを変え、ごく自然に松本の身体に腕を回してきた。「…ごめん。起こした」松本の小声に、内田は頭を小さく左右に振った。「…終わったの?」「終わったよ」眠たそうな声に答える。「…俺、帰らなくちゃだね」「なんで?」「…だって…俺がいると、藤村さん嫌な気分になるから」「藤村は仕事があるから、今日は来ない。だから、ゆっくり寝てていいよ」「…ん…わかった」内田は言って、重たげな瞼を閉じ、松本に回した腕にギュッと力を入れた。松本は、内田の髪にそっとキスをした。仕事の邪魔をしないように、藤村との険悪なムードが、少しでも悪化しないようにと、内田なりに考えてくれているのだろう。「ありがとう」松本は小声で呟いて、胸の奥が少し痛くなった。
松本内田妄想劇場
...
