■巣立ち
小六から不登校となり、中学に一度も登校せずに卒業した甥っ子の正壱が、九年近くに渡った自宅警備の仕事を棄てて、世の中にでる事になったのは今年の三月の中頃の事だった。
その間に母親である私の姉が、家を出て行き消息不明になるなど色々あったりしたのだけれども、私の弟が勤めるラーメン屋に皿洗いのバイトとして雇われる事になったのである。
最初は本人も勤まるかどうか不安であったようで、叔父さんである私の弟となかなか連絡を取ろうとしなかったのだけれども、直接乗り込んできた叔父さんに良いように説得されたようであった。
しかし、小学生の頃から家に引きこもってテレビゲームとビデオ鑑賞だけに費やしてきた日々の反動というものは大きく、地下鉄の乗り方を教えるところから始まったのである(バスは諦めた)。
四月で二十歳になった。
右も左も解らない。
これは隠喩的な意味ではなく、方向的な意味の話である。
「右ってどっち?」
「箸を持つ方」
「俺、箸使えないからフォークで食べてるんだけど」
「フォークを持っている方」
「じゃあ、左はどっちなの?」
「反対の方よ」
「前とか後ろじゃなくて?」
そんな感じだから、地下鉄に乗る時も、一番最初に地下鉄の乗り方を教えた時に下りた入り口からでないと地下鉄に乗れないのだという。
どこの入り口から地下鉄の駅に下りたとしても、中で繋がっているのだからどこから入ったとしても同じだとは教えたのだけれども、理解するつもりはないらしい。
そんな感じなので、同居する私に祖父母は勤まるのかと心配であった。
一日でイヤになるのではないだろうかと。
一日でクビになってくるのではないだろうかと。
そんな心配をよそに、事情を理解してくれている勤め先というのもあるかもしれないのだが、週に4日くらいのペースで、すでに二月近く続いているのである。
繁華街で朝までやっているラーメン屋であり、勤務時間は午前0時から午前八時までの勤務で、すっかり昼夜逆転の生活なのだけれども、もともと昼夜逆転の生活をしていたので、あまり苦にはなっていないようである。
言葉遣いやら、一般常識などをバイト先の店長に叩き込まれており、いろいろと勉強しなければならないよと言われ、ひらがなの書き取りも始めた。
それは小学校でやるレベルじゃないかと思ったのだけど、そう言うレベルであるというのが現状であり、本人もそこを自覚するところから始めたようだった。
「仕事はどうだ」
と聞いてみたところ、
「面白いよ。もっと早く働き始めれば良かった」
と、言っていた。
ちなみに始めてのバイト代は95000円だった。
正壱がフルタイムでバイトしたら、手取で私とほとんど差がないと思う。
■ゴールデンウィーク 1 ベッド
目が覚めてベッドの上で起きあがると、ベッドから嫌な音が聞こえた。
使っているベッドは小学校低学年の時に我が家にやってきた木製のベッドで、それから三十年以上使ってきた年代物であった。
最初は二段ベッドだったのだけど、大きくなるに連れて自分の部屋を持つようになると、二つに分離して使っていた。
もう一つの方は、弟が使っていたのだけれど、高校を卒業して就職と一人暮らしをすることになった時におそらく廃棄されたのだろうが、その詳細は知らない。
そのベッドが壊れた。
布団を乗せる板が割れ、その板を乗せている部分の木の板が、打ち付けられていた釘が抜け、外れかかっていたのである。
長い事使ってきたので、当然のように元は取れていると思う。
処分したところで、ベッドでなければ寝られないという事もない。
まぁ、困るのはベッドが無くなると、布団を敷く場所が無いという事であるのだけれど。
まぁ、使えなくなるまで使おうと、割れて半分沈み込んでいるベッドで寝ていたら、只今屋内清掃中の父親が入ってきて、沈み込んでいる私の姿を見て、状況を把握したらしい。
大工なので道具は揃っているという事もあり、さっそく修理を開始。
30分ほどで修理は完了し、親父が言った。
「3500円」
■ゴールデンウィーク 2 オーバードーズ
シャレにならないのでやめて下さい、母さん。
■ゴールデンウィーク 3 大掃除
姉が出て行ってから5年。
最近、アルバイトを始めた甥っ子が引きこもっていたのが8年。
引きこもっていた間に堆積したゴミを片付けるという作業に、私の親父はゴールデンウィークを費やしていた。
正確に言うならば、この時期は大工をしている親父には仕事が無く、ずっと自宅待機の休みが続いていて、それを契機に甥っ子の部屋を掃除を始めていたのだけれど、部屋の掃除だけではなく、着る事のない衣類の処分も始めたのである。
ほとんどが今はいない姉の服で、六畳一間をゴミ袋が埋め尽くすくらいの量があった。
それらを全て棄てると宣言したのである。
明らかに一度も着用していない衣類がわんさか出てきて、親父はブツブツと文句を言いながら片付けていく。
状態の良いものは私が古着屋に持っていき売る事になった。
大きい衣装袋6つを売り飛ばした。
3000ちょっとになっただろうか。
それでもまだまだ、家の中には大量に処分を待つ衣類が残っている状態であった。
一着、5円とか、10円、高くても30円の買い取りであった。
当然のように値段の付かないものも多く、それらは回収する事となったのだが、見てみると下着類とかあるし。
いくら使ってないとは言え、買い取ってくれないだろう。
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創作文芸板で1000文字小説というサイトを見つけたので、そこに投稿するために、以前アリの穴に投稿したものを短くしました。
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■流星
「流れ星?」
「そう、流れ星。山田君は見た事がある?」
ある蒸し暑い日の昼下がり、同じコンビニでバイトをしている同い年の小島さんが聞いてきた。
「一度もないな」
「私もないんだけど、一度で良いから見てみたいのよね。この辺りは街の光りで、夜になっても明るいから見えにくいのよ」
「それなら山奥の街灯も何もない所に行けば見やすいかもね」
そんな事を言って仕事をしながら彼女を見ると、彼女は笑顔で言った。
「じゃぁ、山田君、連れていってくれない?」
「わざわざ、流れ星を見に行くの?」
僕は少し驚いて小島さんに聞くと、小島さんは当然のように答えた。
「一人で行っても仕方がないじゃない。山田君は車の免許を持ってたでしょ?」
「行くのは良いけど、僕は車を持ってないよ?オヤジの車をたまに借りて運転するくらいで……」
小島さんの顔を見れば、車は確保と言う顔で笑っていた。
そんなやり取りがあって、僕たちは郊外の峠にある展望台に流れ星を見にやってきていた。
この場所は天文マニアの中でも観測地点としては有名な場所らしく、僕らの他にも大勢の人たちが暗闇の中で空を見上げていた。
中には恋人同士と思われる人たちも大勢いて、ドライブコースとしても人気があり、国道の脇にあるラブホテルに帰り道で寄る人も多いと予測する。
僕らはそんな関係じゃないけど。
「そろそろ帰ろうか」
二時間も星空を見上げていいれば、さすがに飽きて来るというもので、僕はいまだに星空を見上げる小島さんに声を掛けた。
「まだ」
小島さんはそう言って、帰ろうとしない。
「まだ、流れ星を見ていないもの」
「一瞬だし、必ず見れるという物でもないんだろ?」
「でも、せっかく来たんだし、見て帰りたい」
小島さんはそう言って、僕にも流れ星を探す様に言った。
だけど、時間は流れ、東の空が微かに明るくなり始めた。
「もう諦めよう。また次に来たときに見れるさ」
だけど小島さんは黙ったまま空を見ている。
「あ!」
小島さんが声をあげ、僕の手を引っ張った。
「あそこ!!」
小島さんが指さした方向を僕も見ると、一瞬だけ星が流れるのが見えた。
そしてまた、短い間にいくつかの星が流れて行った。
小島さんを見ると何か祈っているようで、小さくぶつぶつ言っていたのだけど、その言葉は聞き取れなかった。
だけど、僕の手を時折強く握りしめ、そして指をゆっくりと絡めてきた。
■最近読んだ本
魔法科高校の劣等生 1~13 電撃文庫 著者:佐島勤
終物語(下) 講談社BOX 著者:西尾維新
GJ部ロスタイム ガガガ文庫 著者:新木伸
[映]アムリタ メディアワークス文庫 著者:野崎まど
なにかのご縁―ゆかりくん、白いうさぎと縁を見る メディアワークス文庫 著者:野崎まど
百舌の叫ぶ夜 (百舌シリーズ) (集英社文庫) 著者:逢坂剛
「サクラサク 桜咲くのは 他人の庭」
職場で桜がようやく私が暮らす町でも咲いたと言うニュースをネットで見た。
そして、思わず一句。
北国である我が町は、年によってはゴールデンウィークが終わってもまだ桜が咲いていないと言う事もあると言う事を考えて見れば、今年は早いほうであると言えるだろう。
「なんですか、それ?それじゃあ、桜が山田さんの廻りで咲かないのは、まるで自分が悪くないみたいじゃないですか。言っておきますけど、あなたがいま置かれている状況は、全て自分が蒔いたタネによるものなんですからね」
後輩の五所川原さんはなかなか辛辣である。
歳が二十も違うのに、厳しい言葉を頂けるありがたいお嬢さんであった。
「いいかい、五所川原さん?俺がタネを蒔くと、その後ろからカラスやハトが付いてきて、蒔いたばかりのタネを片っ端から突いていくような男だよ?俺の後ろには荒野しか残らないのさ」
「傾向と対策です。何も考えないでバラ蒔くからそうなるんですよ。普通はそれに対しての対策を立てるものなんです」
凄く正論を言う。
「そりゃあ、確かに正論かも知れないけども、私はナチュラリストなんだよ。あるがままに底にあるというスタンスを大事にしたいと思うんだ」
「底にあってどうするんですか。とりあえず、そんな事は結果を出してから言って下さい。努力して下さい」
「努力して、高校球児がみんなプロ野球選手になれるわけじゃないだろう?作家を目指している奴が、みんな作家になれるわけじゃない。そんな人たちを五所川原さんは努力をしていないと一蹴するのかい?」
「山田さんはしていないでしょうッて言う話です。あぁ言えばこう言わないの!!お子ちゃまですか」
かっては、こんなやり取りも、笑って流してくれた五所川原さんも、もう三年も同じ職場で働いていると、冗談が通じ無くなって来ていた。
どうやら哀しい事にウザイオッサンと言う認識で固まったようである。
ぼくごちゃい、そんな事を言ってしまえばさすがにグーでパンチをもらいそうなので、私はとりあえずおとなしくする事にしたのである。
職場で桜がようやく私が暮らす町でも咲いたと言うニュースをネットで見た。
そして、思わず一句。
北国である我が町は、年によってはゴールデンウィークが終わってもまだ桜が咲いていないと言う事もあると言う事を考えて見れば、今年は早いほうであると言えるだろう。
「なんですか、それ?それじゃあ、桜が山田さんの廻りで咲かないのは、まるで自分が悪くないみたいじゃないですか。言っておきますけど、あなたがいま置かれている状況は、全て自分が蒔いたタネによるものなんですからね」
後輩の五所川原さんはなかなか辛辣である。
歳が二十も違うのに、厳しい言葉を頂けるありがたいお嬢さんであった。
「いいかい、五所川原さん?俺がタネを蒔くと、その後ろからカラスやハトが付いてきて、蒔いたばかりのタネを片っ端から突いていくような男だよ?俺の後ろには荒野しか残らないのさ」
「傾向と対策です。何も考えないでバラ蒔くからそうなるんですよ。普通はそれに対しての対策を立てるものなんです」
凄く正論を言う。
「そりゃあ、確かに正論かも知れないけども、私はナチュラリストなんだよ。あるがままに底にあるというスタンスを大事にしたいと思うんだ」
「底にあってどうするんですか。とりあえず、そんな事は結果を出してから言って下さい。努力して下さい」
「努力して、高校球児がみんなプロ野球選手になれるわけじゃないだろう?作家を目指している奴が、みんな作家になれるわけじゃない。そんな人たちを五所川原さんは努力をしていないと一蹴するのかい?」
「山田さんはしていないでしょうッて言う話です。あぁ言えばこう言わないの!!お子ちゃまですか」
かっては、こんなやり取りも、笑って流してくれた五所川原さんも、もう三年も同じ職場で働いていると、冗談が通じ無くなって来ていた。
どうやら哀しい事にウザイオッサンと言う認識で固まったようである。
ぼくごちゃい、そんな事を言ってしまえばさすがにグーでパンチをもらいそうなので、私はとりあえずおとなしくする事にしたのである。







