とにかく。

幕開きが驚いた。

一面降りしきる雪。

初老の和助(みつる)が、寒さに痛む膝を励まし道を急いでいると、道を急ぐ武士の親子とすれ違う。

そこへ、二人を追ってきたかのような武士(叶くん)が現れ、親子連れの父親(がおり)は斬られてしまう。

とどめを刺さんとする武士の前に、父を庇わんと手を広げる少年(れいこちゃん・子役ちるちる)。

もろともに討とうとするところを、和助が割って入る。

「仇討ちを買わせて欲しい」と。

驚きながらも、その取引に応じる武士。

父親はこと切れてしまい、

天涯孤独となった少年、鶴之輔。

降りしきる雪の中、不安げな瞳で歌う鶴之輔。



もう・・・この美しいこと・・・!



正直、幕開きに雪降らせるなんて、後の処理大変なのに、凄い事するなぁとか思ったんだけど。

本当に美しくて・・・。

場面も、武士姿の紀之介・・・ゲフンゲフン・・・鶴之輔の立ち姿も美しくて。

見とれてしまいました。

「掴みはおk」って奴ですよ。



時は流れて三年後。

大阪で寒天問屋をしている和助の元へ、寒天場での苦しい仕事に耐えた鶴之輔が来る。

身寄りのなくなった鶴之輔は、和助の元で武士の身分(生き方)を捨てて、商人として名も松吉と変えて生きる事を決める。


武士の長子として、厳しく躾けられた鶴之輔にとって、商人としての言葉遣いや姿勢は抵抗のあるもので、なかなか身に付かず、その度に店の番頭の善次郎(じゅんこさん)に注意される。

丁稚仲間が見かねて色々教えてくれて、徐々に商人らしくなってくる松吉。


時間の制約があるから、原作のこの辺りは飛ばしつつも、要点をまとめて出している感じ。

梅吉(あすくん)は、乾物屋の山城屋に養子に入る設定なのだけど、山城屋には一人娘(ちるちる)がいて、婿養子に入ると言う事になっていた。

なんだかあすくんの演技が、くるくるよく働く明るい良い子で、そりゃ、丁稚とは言え「うちの婿に」って思っちゃうほどで。

ちるちるの「いとはん」も、本当に可愛くて、この二人はいいなぁと、思った。


文楽の心中物が流行っている時で、ちるちる達も観に行くという。


その文楽人形(徳兵衛・お初)が、ひなちゃんと、れいこちゃんで。

花組の近松思い出すわとか思いつつ。

ひなちゃんも素敵なお初だったし、れいこちゃんの徳兵衛は、ホント良かった。

最初編み笠を目深に被ってて誰だか分からなかったんだけど(で、その時はそう凄いとまでは思わなかったんだけど)、笠取った途端に、表情をまったく動かさないで人形遣いの二人に操られているかのように舞う姿が・・・てか、目に引き込まれそうになった。

すんごく綺麗。

れいこちゃんの強さはここね。と感じた。

徳兵衛は着流しで脇差しを差している姿なんだけど、れいこちゃんにとてもよく映る。

同じ時代物でも、れいこちゃんは武士系なのね。あ、徳兵衛は町人だけどさ。

立ち姿も、意志の強そうな瞳も。

原作には台詞でしか出てこない場面だけど、ほんとうにいい場面入れてくれました!谷せんせGJです!


松吉が、得意先に向かう途中に、以前ちらと出会った少女(真帆・くらっち)に再会し、その少女の父(嘉平・にわにわ)の店と取引出来るようになり、通うごとに真帆に懐かれ嘉平に信頼され、松吉自身も二人を大切に思うようになった矢先、大火事で二人は行方不明、店は消失してしまう。

真帆に対して淡い想いを抱きつつあった松吉は、必死に焼け跡で二人を探す。



このくんだりで、あの「琥珀寒」が出てきて、れいこちゃんの「お口もにもに」が観られる訳ですわ。


松吉は、一幕ずっと丁稚の拵えで(笑)可愛いんだけど、やっぱり若衆髷(でいいのかな、前髪ある髷)するには大人っぽいのよねー、れいこちゃんたら。なんだか編に色っぽくてドキドキした(笑)

個人的に、ちぎのほうが子供っぽく化けられそう(爆)


切り禿(子供の髪型)に身上げした着物のくらっちは、「お転婆な嬢はん」がぴったりな可愛らしさで、松吉が苦笑しつつも振り回されてしまうのがよく分かる。

顔立ちがどちらかというと大人っぽいので、どうかなーと思ったけど。演技力でカバーしてきましたね(笑)

一寸小さい時の声が、高さを意識するあまり(元々くらっちの声って高いものね)割れている時あったけど。





と、ここまでが一幕。




原作も時の経過がすごくて、文庫本一冊で22年流れるのだけど、一幕で5年。

なので、二幕は、17年分流れる訳で(笑)

やっぱり厳しい物があった。



大火で行方不明になった真帆と、嘉平の消息が分かったのは良いが、嘉平は火事で死に、真帆は顔にヤケドを負った上、別の人間として生きる道を選んでいた。



恩ある嘉平の遺志を継ぎ、寒天作りに情熱を注ぐ松吉。

子供の時に世話になった寒天職人と再会し、数年をかけて理想通りの寒天を作り出す。

その間、なにかと松吉に辛く当たっていた善次郎も、彼の努力を認め、暖かく見守ってくれるようになる。


丁稚仲間の梅吉は、乾物問屋に婿養子に入る。


物語の発端であった、銀二貫をもう一度貯め、天満宮に寄進出来ると思った矢先に、また問題が起こって、そのお金を使わざるをえなくなった。


火事で父を失い、助けてくれた恩ある人の為、その人の娘として生きていくと決めた真帆を、忘れられずにいる松吉。


火事で娘を失い、真帆を我が子と思い続けているお広(ひな)は、商っている団子屋によく来る客の店の丁稚として松吉と会い、娘を思ってくれている人と知る。

そのお広が死に、梅吉に焚き付けられて、一人になった真帆に「一緒に生きて欲しい」と頼む松吉。


数年後、理想通りの寒天を作り、それによって天満宮に寄進する銀二貫を貯める事が出来た。

そして、晴れて真帆と祝言を挙げる。





専科の二人は、老け役で。優し目のみつると、言う事はきっちり云う一寸キツ目のじゅんこさん。

なにが驚くって、みつるのが年上役って事が・・・。

じゅんこさんの役は、色々複雑で難しいお役。辛い過去があるから一寸松吉に辛く当たっちゃうのだけど、元は良い人なので、最後には親のように可愛がってくれるのだけど。

そして、笑いのとこも担当して。や・・・もしかしたら、じゅんこさん以外がこのお役だったら笑い担当じゃ無かったかもなんだけど(笑)もう、じっと座っているだけで、クスクス笑いが出るって、凄い事だと思うんだよね(笑)素晴らしい役者さんで、素晴らしい演技でした。

みつるは、ま、正直勿体ないわ、この老け役には。

出演者出た時、がおりのお役を演ると思ったもの。んで、にわにわが和助で、がおりが嘉平かなと。

ま、それは、余談。





話を戻しまして。

理想の寒天ってのは、腰の強い糸寒天のことで。これを作るのに十年程かかっていて、更に真帆と結婚の約束をしてから三年を含め、その糸寒天を使った料理を考案して、財を成すのに七年かかっている。


色々面白いエピソードも、いい話もあるんだけど、この大人になってからの部分をけっこう潔くカットしていて、梅吉の所帯の事とか、松吉と真帆の煮え切らない感情とか、和助と善次郎のやり取りとか、松吉と梅吉のオトコの友情とか、半兵衛との寒天作りとか、小豆と自分のルーツ探しの旅とか、自分に支払われた銀二貫の行方とか、真帆との練り羊羹作りとか。



ま、仕方ないんだろうけど、梅吉の、子供前後におぶって一人の手を引いてる姿、ぜひやって欲しかったわ(爆)あすくん。可愛かろうなぁ~と(笑)





なんやかやで、主人公の周りは、(最初はいけずだった)善次郎含めみんな良い人達で、天涯孤独な松吉を好きでいてくれている。

だから、苦難がどれだけあっても、悪い人がどれだけ現れようと、乗り越えていける。

「生き続けろ、何があろうとも」というとネガティブに聞こえがちなテーマだけど、ポジティブに前向きに感じる作品だと思った。



ただねー、脚本的に一寸説教臭いというか、テーマ大上段に構えすぎて、何度か松吉が「もののけ姫」のアシタカに思えたよ(笑)


真帆に向かって「生きろ、そなたは美しい」っていつ言い出すか、ひやひやした(爆)


あんましこういうお芝居で、客席意識しすぎた演出って好きじゃないなぁと思いつつ・・・。


なんにせよ、ハッピーエンドっつーのは、精神衛生上とても良い終わり方だよ(笑)



演出と言えば、セット。


幕開きの一面の雪原は、白布を敷いてそこに、「ラストシーンかっ!」って程沢山の雪を降らせていた。後々の事考えたら(散った雪がずっと残るから)、普通はしないな。とか思うんだけど、大切な場面だから原作通りにや

ったんだなとか思ったら、軽く感動さえしてしまった。


最近、大劇ではあんまし使われないというか、若い演出家さんはそんなに使わなくなっている、書き割りと、バトンを多用したセットに、今回は「すごい、いい」と感じてしまった。


バトンの位置とか尺(時間)の都合か、けっこう前ツラで芝居させながら、紗幕(暗転幕)降ろさないまま転換始めたりしていたので、大道具さんが、降ろしたバトンにのれん付けたり外したり、セット片付けたりという姿がチラチラしていたの。

最初は一寸「初日だし」とか思っていたんだけど。なんか、最近スピーディーな転換に慣れてしまって、こういうの久しぶりな感じがすると思って。

なんだかしみじみしてしまった。もちろん。スタッフさん、ビックリするくらいの早業で転換してるし、すごく作品にあったセットだと思えた。

お店の小上がりになったり座敷になったりする可動式のセットも、上に立っている演者が揺れない程度の低速で動いてて(笑)そんなことも、「いいな」と感じたり。

梅の木とか、天神さんの境内とか、奇をてらわないというか・・・歌舞伎観てるみたいな感じ?


私も、若い先生の新しい技術に期待して楽しんでいるけれど、こういうものって、相性というか、「こういうジャンルには、こんなセット」ってあるのよね。

最後まで、気持ちよく観ることが出来た。




そう、谷センセが、プログラムのご挨拶の末尾に、「最後に、時間の関係とは云え、高田先生の原作をずたずたに切り裂いた罪。高田先生はもとより、『銀二貫』ファンの皆様に深くお詫びいたします。」と寄せてられました。


むー・・・。書きゃ良いってもんじゃないとはいえ、こう書かれると、上げた拳の下ろし所に困って頭掻いちゃう(笑)



ま、結果として、「谷センセの、当たりの方(の作品」ということになりそうです。


はぁ。

もっかいでいいから・・・観たいよー。