その日、イナバは寝不足続きのすっきりしない頭で、目覚まし時計のアラームより先に目を覚ました。


昨日帰宅して、ベッドに入ったのは12時過ぎ。

アラームは3時30分に合わせていた。


とりあえず3時間は寝たな。と、自分を奮い立たせて準備を始める。

とはいえ、昨日の間にほとんど済ませていたので、家族の食事の用意をし和服を手早く着て、始発電車に乗るべく家を出た。


駅までイナバの足なら20分弱。

充分に間に合う時間だが、「遅れては大変」と、焦る気持ちが足を速める。


ちょうど、半分ほどの距離に差し掛かったとき、右足に違和感を感じた。

「ん?」足元を見るがこれと入った変化は無し。

再び歩き出したその瞬間、草履の裏が外れた。

振り返ると、まるでスタンプの様にそのままの状態に置かれたゴム部分があった。


時計を見る。


戻って履き替え、歩いて駅に向かうには時間がなさ過ぎる。

だが、このまま行くことは出来ない。


きびすを返し、家へ走る。

幸い、早朝のまだ暗い道に人影は無い。全力で走りながら、家族の携帯に電話する。

家を出る時、言葉を交わしたからすぐに起きるはずだ。


半泣きのイナバに負け、別の草履を持って駅まで来るまで送ってくれた。


無事、始発に乗ったイナバ、大丈夫だと知りつつ足元を何度も確認してしまう。


「なんてこったい、履き物が壊れるなんて・・・。」


鼻緒が切れたドコロではない不安を感じつつ、空港に着き、その足で保安検査場へ向かう。

前回、和服のアラユルトコロで金属反応が出て時間がかかったので、今日は万全の対策を立てて臨んだので、引っかかったのはペットボトルだけだった。


東側の窓から、離陸後まもなく朝日が見えた。


こんな時間に飛行機で東京だなんて、あの人の為で無くては絶対やらないだろう。


あの人に会いに行く。


たったそれだけの事で、こんなにも胸が苦しくなり、そして明るい気持ちになる自分に苦笑しつつ、連日の睡眠不足と風邪薬のおかげで、着陸するまで、夢の中に落ちていった。




なんて・・・思いっきり実話です(笑)

最初は、「草履が壊れるなんて不吉な・・・」と思いましたが、その後、ここで厄を落としたのだと思いました。


本当に、東京に観に行って良かったです。

この後のことは、また次回に・・・。