
世界は、
真実を知った人間に優しくない。
なぜなら。
“気づく者”が増えるほど、
支配は崩れるからだ。
◆
校庭。
雪。
ざわめく生徒たち。
そして。
空を覆う、巨大な“目”。
ギョロリ。
校舎全体を見下ろしている。
『排除準備、開始』
その瞬間。
学校中の空気が変わった。
重い。
息苦しい。
まるで、巨大な何かに睨まれているみたいだった。
「な、なにあれ……」
「空がおかしい……!」
「やばくない!?」
生徒たちが騒ぎ始める。
今まで見えていなかった人間まで、
異常へ気づき始めていた。
◆
屋上。
朝比奈悠は、震えながら空を見上げていた。
巨大な瞳。
冷たい視線。
頭へ直接響く声。
『記憶保持者を確認』
『群体覚醒リスク、上昇』
『対象排除を推奨』
「……俺を、消す気なのか……?」
悠の声が震える。
すると、隣の白石ミナが、強く悠の腕を掴んだ。
「ダメ!!」
「え……?」
「見返しちゃダメ!!」
その瞬間。
巨大な目と、悠の視線が完全に合った。
◆
ゴォォォォォォ――!!!!
世界が揺れる。
悠の視界が、一気に引き裂かれた。
◆
暗闇。
何もない空間。
でも。
無数の“目”だけが浮かんでいる。
ギョロ。
ギョロ。
ギョロ。
全部、悠を見ていた。
『なぜ思い出した』
『なぜ気づいた』
『なぜ適応しない』
低い声。
大量のノイズ。
頭が割れそうになる。
「……っ!!」
悠が耳を塞ぐ。
すると。
暗闇の奥から、別の映像が浮かび上がった。
◆
古い文明。
巨大な塔。
青い空。
その頂上で、一人の青年が空を睨んでいた。
今の悠にそっくりな顔。
そして、その隣には“白い少女”。
『いつかまた、全部繰り返される』
青年が呟く。
『だから、次こそ止める』
白い少女が泣きそうな顔で、青年の服を掴む。
『でも、あなたはまた消される』
『それでもいい』
青年は笑った。
悲しい笑顔。
『君だけは、生き残って』
◆
次の瞬間。
空が裂ける。
巨大な黒い輪。
無数の目。
そして、黒い泥の津波。
文明が飲み込まれていく。
人々の悲鳴。
崩壊。
終焉。
その中で、青年は最後まで空を睨んでいた。
『人間は、家畜じゃない』
直後。
青年の身体が、黒い光へ呑み込まれた。
◆
「――――ッ!!!!」
悠が叫ぶ。
視界が戻る。
屋上。
雪。
学校。
膝をつく悠。
呼吸ができない。
「朝比奈くん!!」
ミナが抱き起こす。
その時。
フェンスの向こうに立つ“白い少女”が、静かに涙を流していた。
「……あ……」
悠の瞳が揺れる。
思い出しかけていた。
この少女を。
あの文明を。
そして——
自分が何度も、“消されてきた”ことを。
◆
すると。
空の巨大な目が、ゆっくり開いた。
ギョロリ。
その中心が、赤黒く脈動する。
『危険個体、再認証』
『過去文明反抗因子を確認』
『対象コード:EVE-13』
悠の血の気が引く。
「……EVE……?」
その瞬間。
白い少女が、初めてはっきり名前を呼んだ。
『悠――』
『あなたは、前の世界でも“朝比奈悠”だった』
雪が降る。
空の巨大な瞳が、静かにこちらを見下ろしていた。
そして悠は、ようやく気づき始める。
この世界が、何度も繰り返されてきたことを。
文明が滅びても。
記憶が消されても。
人類は何度も、同じ過ちを繰り返していることを。
そして——
自分はその度に、“世界へ抗っていた側”なのだと。
灰色の空。
降り続ける雪。
その向こうで、巨大な黒い輪が脈動する。
『監視継続』
『排除保留』
『対象観察を続行する』
無数の“目”が、悠を見つめていた。
――第一部「発端編」完――

次回より、第二部「擬態編」へ。
10月2日 20:00スタート!
悠が聴き始めたノイズは、
やがて“魂の記録”へつながっていく。






