気付くと、私はただ茫然とそこに立ちつくしていた

そして私は考えた

駅前の大通りの街路樹の並ぶ歩道の真ん中で

道行く人が、ただただ立ちつくす私を横目で見ながら慌ただしく通り過ぎていく

迎えを待つ人、迎えに来る人

時刻表と腕時計を交互に眺め、バスを待つ人

ただ客を待つタクシー、客を乗せるタクシー

楽しそうにおしゃべりをしている女子学生

マフラーに顔をうずめ、肩をすぼめながら歩く、疲れた顔の高校生

街は夕焼けに照らされ、仄かに赤みを帯びていく

電車が来るたびにたくさんの人が改札を出る

そして皆、足早に帰路へと付く

電車が来て、一人また一人、私の横を通り過ぎて行くたびに街は暗闇へと包まれていく

ほんのりとした建物の灯りが視界に入る

空は漆黒に包まれ、街の光で星をうかがうことはできない

気付けば、駅にはもう人の気配がなかった

どれだけ立ちつくしたのだろうか

朝日がふと、視界に入る

まぶしさのあまり目をしかめる

それでも尚、私は考えた

私は考えた

"私"は何だろうか、と

――非殺戮的破壊衝動者him――






何かを求め彷徨う


壊して


壊して


壊して


壊して


それで見つかるものだと思っていた宝は見つからず


ふと何もない掌を見つめひどく落ち込む


そうか、壊すことしかできない自分には初めからなにも無かったのだと


創ることを知らない自分には、そもそも探す宝自体がないのだと


気付けば自分は何をしていいのかわからなくなっていた


どうすればいい!


どうすればこの酷い渇きを満たすことが出来る!?


どうすれば、


どうすれば自分は宝をこの手にすることが出来るのだ!




誰も言葉を返してくれない


壊すことのみを行ってきた彼には、言葉をかける者さえいなくなっていた


沈黙の中


ふと彼は気付く


例えばもし、自分が宝を手にしたとして


自分はその宝を壊してしまわないだろうか?


そう考えると彼は急に怖くなってきた


怖くて


怖くてたまらなかった


宝を見つけ出そうとすることで自分を立ててきた彼にとって


その自分を自ら否定しかねないことに


いままで感じたこと無いような、多大な恐怖を感じたのだった


自分は何をすればいい?


自分は



自分は・・・・・・・






深く沈む心


使い込んだ頭に残る不愉快な痛み


もどかしさから来る酷い体の震え


彼は自分を閉ざすかのように深く


深く



静かなる眠りの底へと


ゆっくり


ゆっくりと落ちて行った

「ピエロ」






ただ、いま笑うのをやめてしまったら



気丈にふるまうのをやめてしまったら



心が折れてしまいそうだから



ただ、今うつむいてしまったら



泣きだしてしまったら



君を心配させてしまうだろうから



ボクは笑う



ボクは前を向く



泣きだしたいのをグッと我慢して



君は"人でなし"とでも言うかもしれない



それでもボクは今日も冷たい仮面をかぶる



ピエロ



ピエロ



そう



ボクはピエロ

今、明日のために何が出来るのだろうか?




今、自分は明日を望んでいるのだろうか?





明日。





何気なく使っているこの言葉。







これがどれだけ重い言葉か、今まで一度として考えたことなどない。







いや、考えたくないだけなのかもしれない。










明日。











いいことがあるかもしれない。








でも、













悪いことだって起こりうる。










悪いことが起こるのを恐れ、明日の重みを考えない。













それでもいいじゃないか。











今をかみしめ、ただひたすら明日に進む。















これだけでいいのではないだろうか。







今、明日のためにではなく今この時のために。






今、今日の自分に別れを告げて明日へ望む。






さあ。









明日を見に行こう。

吾輩は猫である。

名前はまだ無い。かと言ってつけられるわけもない。

なぜなら吾輩が招き猫の人形だからである。

右手をあげて、足を広げ、左手に小判を抱えながら座る吾輩の頭を、我が主は容赦なく撫でる。

我が主は、16になるおなごなのだが、どうも抜けている。

この前来た友人に、


「この招き猫は右手を上げているから人を招くの~。」


なんて言っていたが、本当は人ではなく金である。

いや、小判を持っている時点で気付いてほしいのだが、まぁそれは仕方ないとしよう。

昼間は主が学校に行っているので、吾輩は部屋で一人きりである。

たまに掃除に入って来る主の母君が


「相変わらず不細工な顔してんのねぇ~。」


なんて言って吾輩のほっぺを引っ張り、何か満足げな顔をして出て行く。

そんなに吾輩は不細工な顔をしているのであろうか?

自分の顔など見たことが無いのであるから、到底見当もつかない。

まぁ、そう言われているからそうなのであろう。

とりあえず、吾輩は明るく陽気な主とその家族のもとで招き猫の役割を全うしているのである。


ある日のことである。

いつも明るい筈の主がめずらしく暗い顔をして帰ってきた。

そしてベッドにうつ伏せになると、枕に顔を埋め突然泣き出したのである。

しばらくして母君が部屋に入って来ると、主のそばにそっと座って優しい声で言った。


「どうしたの?あなたらしくないわよ。」


「お母さん、あのね、あのね・・・・。」


どうやら主は学校で、憧れの先輩に冗談半分でヒドいことを言われてしまったらしい。

母君が主を励まし、夕飯の準備のために部屋を出て行く。

主はまだ泣いている。

それにしても、ここまで落ち込んでいるとは余程その先輩とやらのことが好きなのであろう。


「・・・・仕方ない。左手あげるのは正直疲れるのだが、今回ばかりはサービスじゃの・・・。」


吾輩は右手を降ろして小判を持ち、左手を挙げた。


「吾輩はチャンスしか与えることは出来ぬ。あとは主次第じゃ。」


どうせ聞こえはしないだろうが、一応語りかけてみた。

12~3分経っただろうか。

ふと、インターホンの音が聞こえる。

どうやらさっきの先輩のようだ。

主が部屋を出て行く。

吾輩は手を元に戻した。

しばらくして、主は部屋に戻って来ると、いつも以上に明るい笑顔であった。
この背中に翼があるとしたら



ボクはどこまでいけるだろうか



あの無限に広がる大空



昼間のような青い空もいい



怪しく月の光る蒼い夜空もいい




いや、どこだっていい



誰もボクを知らない場所へ行きたい



まだ見たことのない



大きすぎて小さいぐらいの青き地球の




どこか隅っこへ





ただ風の吹くままに

----- 風 -----






あの大空を吹き抜ける風。



街の人だかりの中を吹き抜ける風。



雄大な大地をただ颯爽と駆け抜ける風。




君の髪をなびかせる風。



風になりたい。




あの大空を吹き抜けたい。





街の人だかりの中を吹き抜けたい。





雄大な大地をただ颯爽と駆け抜けたい。






君の髪をなびかせたい。






風に乗ってどこまでも。





風になってどこまでも。






自由に生きれる。





自由に行ける。






そうだ。












君に会いに行こう。



























君のその美しい髪をなびかせるために。

----私ハ眠ル----



眠る

眠る

私は眠る



暗闇が怖いから



眠る

眠る

私は眠る



明日が来るのが怖いから



眠る

眠る

私は眠る



でも眠りたくない



眠る

眠る

私は眠る



目を閉じたら二度とその眼が開かなくなりそうだから



眠る

眠る

私は眠る



それでも人は眠る



眠る

眠る

私は眠る



目を閉じれば広がる海



沈む

沈む

私は沈む



私の海の一番深くて暗い所へ



眠る

眠る

私は眠る



気付けば目の前にいる私



眠る

眠る

私は眠る



あなたは誰?



眠る

眠る

私は眠る



ワタシハアナタ



眠る

眠る

私は眠る



なんだか今日は眠れない



眠る

眠る

私は眠る



気付けば私は夢の中



眠る

眠る

私は眠る













眠る




























眠る

----手を伸ばしても・・・。----



オレの名前は望月 昇。職業は高校生だ。
見た目、成績、運動も普通。性格はお世辞にもあまりいいとは言えない。
人付き合いが嫌いなオレは、人に出来るだけ近づかないようにしている。
割とものははっきり言える方である。
いつもは屋上で一人で昼飯を食べている。
缶コーヒーとメロンパン。オレの中での定番メニューだ。
学校の屋上と言うものはいろいろあるものである。
多くがカツアゲだのなんだのだが・・・。

「おい、金出せって言ってんだろ。」

「いやっ・・・あの・・その・・・・。」

またか・・・。
こういうのを見るのはつくづく嫌になる。

「やめた方がいいッスよ、金城先輩。」

そういってオレがいつも止めに入る。
この展開、何回目だ?

「うるせぇんだよ!」

そう言って殴りかかってくる奴をたしなめる。
毎日こんなことばかりだ。
が、最近それも変わり始めた。

「ワリッ望月、辞書貸して!」

「あ~、ハイ。」

最近、こんな感じのやり取りが増えてきているのは、同じクラスの町田だ。

「おーい、一緒に飯食おうぜぇ~。」

等と誘ってくることも増えてきた。
屋上に行くことが減った。
で、こいつとはこんな関係が2週間ほど続いた。

「こいつとは友達になれそうだ・・・。」

そう考えるようになってきた。
ある金曜日、町田がこう言ってオレに立ち寄ってきた。

「明日土曜日だろ?一緒に映画見に行かないか?」

映画か・・・・しばらく行ってないし、久しぶりに行ってみるか・・・。

「あぁ、いいよ。何時にする?」

「ん~、じゃあ朝の10時に駅の近くの公園に集合な!」

「わかった、んじゃまた明日。」

久しぶりの映画・・・楽しみだ。





その日の放課後。
オレは先生からの用事で、校舎の裏の資源回収倉庫にいた。
テスト前で部活が無いので、ほとんどの生徒が家に帰っていた。
日が暮れてきて、空が不気味な茜色になってきた。
用事を済ませ、帰ろうと体育館の裏を通ろうとした時だった。
誰かが話している声が聞こえた。

「あいつ、ちゃんと誘っときましたよ。金城先輩。」

「よくやったな。」

また金城か・・・。
今度は何やるつもりだよ。そう考えながら少し様子をうかがった。

「考えただけでも笑っちゃいますよ。公園に来てみたら誘ったオレじゃなくて武器もったゴロツキがお待ちかねなんですからねぇ。」

ホントにあいつは間抜けだな・・・。
だけど、こいつの声・・・どこかで聞いたことあるぞ・・・。

「あいつ、最近調子こいてたからな。あの野郎の驚く顔が楽しみだぜ。なぁ町田。」

もう一人の声の主がわかった。
そうか、そう言うことだったのか・・・。

「あいつ、クラスでも浮いててなんか嫌だったんスよ。金城先輩に話持ち掛けられた時、ちょっと嬉しかったッスもん。あのスカした野郎に一発やれるって。」

「お前もそう思うか。成功したらオレの仲間に入れてやるよ。」

「ホントっすか!?マジでうれしいっす!」

くだらねぇ。望むところだよ。まんまと騙されてやろうじゃないか。
オレはその場を後にした。

次の日。
オレは公園に向かった。
公園につくと金城の仲間がバットやら何やらを持ってオレを待っていた。

「やぁ、望月。」

そう言って町田が歪んだ顔をしてオレのもとに歩み寄ってきた。
オレの驚く顔がそんなにみたいか?くだらねぇ。

パンッ!!

オレは町田の顔を思いっきりぶん殴ってやった。
どうやら驚いた顔をしたのはオレではなくてあいつだったようだ。

「んにゃろう!」

「おおおおおお!」

武器を振り上げて野蛮な猿どもが襲いかかって来る。
上等じゃねぇか。
今日はとことん付き合ってやるよ。




その日の夜。
オレは部屋のベッドに寝そべって、窓から見える月を眺めていた。
オレは左手を骨折した。
近所の人がオレ達を見て、警察に通報したらしく、町田達は警察に連れていかれた。
オレは簡単な事情聴取だけで済んだ。

オレにとって友達は、月のようなものだ。
手を伸ばせば届きそうなのに、手を伸ばしても届かない。
ならば手を伸ばさなければいいのに・・・。
そうだ。手を伸ばさなければいいんだ。

その日の月はやけに眩しかった。

月曜日。
いつもと変わらない昼休み。
いつも通り一人で屋上にいた。
話だと、金城や町田は退学になったらしい。
まあ、そんなことオレには関係のない話だが・・・。

今日もいつもと変わらない缶コーヒーとメロンパン。
オレが缶コーヒーに手を伸ばして口を近づけようとした時だった。

「隣いい?よかったら一緒に食べない?」


また手を伸ばしてみよう・・・。

----堕天使の誓い----


「何故、あなたは堕ちてしまったの?」

まだ幼い天使は尋ねた。
純白の服を血で濡らし、傷ついた漆黒の翼に身を包んだ優男は、静かに微笑み、
そして、そっと幼い天使の頬に手を伸ばす。

「守るべきものが出来たからさ・・・。」

その男は、幼い天使の頬を撫で、そして抱き上げると、翼を広げて飛び出した。

「何処へ行くの?」

幼い天使は、男の懐の中から尋ねた。

「この風の導く方へさ。この風は彼女の、君のお母さんの意志が混じっている。」

幼い天使は、この気持ち良い風に吹かれ、やがて眠りについた。
男は、この清らかな寝顔を見て、ふとあの時のことを思い出した。

子供を抱き、微笑んでいる女神。
襲いかかる反逆の天使たち。
傷つけられても、許し、そして子供を私に託して死に絶えていく彼女。
「この子はいずれ、神になる子です。その時まで、この子を守り抜いてあげてください。」

死ぬ間際、彼女が言った言葉を男は忘れられないでいた。
大切な人の死、その人の託したすべて。
それを消さんと襲いかかって来る反逆の者達。
男の中で何かが弾けた。

気付けばそこは血の海だった。
男は、天使にとって最大の禁忌を犯してしまった。
彼の純白の翼は、どす黒く染まった。
そう、彼は堕ちてしまったのだ。
だが、彼は後悔していなかった。
自分の腕の中で眠る小さな希望。
大切な人との約束。

気が付くと、幼い天使は目を覚ましていた。
天使は男の顔を不思議そうに見ていた。
男は幼い天使に誓った。

「私は君が何かを変えてくれるその時まで、たとえこの体が朽ちようとも君を守り抜こう。
そのかわりに私に見せてくれないか。希望と言う名の朝日を。」

小さな天使と、一人の堕天使は希望の明日へと旅立っていった。