リレー形式の小説です。
うしまる氏、
ねこきりん氏、
すぅま氏執筆中。
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■月のない夜、楓は洞窟近くの川べりに腰掛けていた。
あたりで無数の蛍がふわふわと飛んでいる。
手を差し出すと1匹の蛍がその指先に止まった。
やわらかく明滅する光を眺めながら、楓は源三との最期の日を思い出していた。
■□■□■□■□■□
「にゃお~ん……」
あの出来事から何日たっただろう。
源三が死んで、体が腐り始めてきても私はその場から離れようとしなかった。
大きな音が何度もして、真っ赤な血が体からたくさん出て、動かなくなった源三。
わけが分からなかった。いったい何が起こったのだろう。
分かっているのは、自分の盾になって目の前の人が死んだということ。
そして、死ぬということが取り返しのつかないことだということ。
「にゃお~ん……」
ずっと飲まず食わずでそばにいた私は、
すでに体力の限界を迎えていた。
(私ももうすぐ源三と同じところにいける……)
もう感覚の無くなっている足を折って、地面に寝そべった。
「にゅーん」
生まれて間もない小猫が、小さな声で鳴くと、テコテコと自分のそばに寄ってきた。
私の子供だ。
源三に見てもらいたかったのに、結局会わせることはできなかったな……
源三の最後の言葉を思い出す。
『・・・優・・・今・・・かえる、からな・・・』
優というのは、源三の子供だろうか……
遠い地で一人戦っていた源三。
きっと、家族の元に帰るんだという希望を支えにしていたに違いない。
源三が死んだこの場所は、まだ源三の気配がする。
私をかばったばっかりに、帰ることができずにまだ死ねないでいるのだ。
最後の力を振り絞って、源三の体を舐めた。
(ごめんなさい……!!)
しかし、この言葉ももう源三には届かない。
私のこのどうしようもない罪悪感も、
他のさまざまな感情や目の前の小猫の姿と共に薄れ始めた。
いよいよ死ぬのだ。
ひとつだけ、ただひとつだけ心残りなのは、
源三を家族に会わせたかったということ……
……
私は考えることもできなくなり、眠るように意識を閉じた。
***
目が覚めると、そこは見たこともない空間だった。
今まで着込んでいた肉体をさっぱり脱ぎ捨てたような感覚、
あたりには懐かしい人の匂いがする。
(ここは源三の意識の中?)
源三のことを思い出して、出るはずのない涙が零れたような気がした。
(このまま、二人で死んでいく前に、源三の家族に会いに行こう。)
そうだ、こんな体も無いような姿じゃ驚かせてしまうから、人間の体を作ろう。
形は、源三が一番大切にしている女性にしよう……
そう思って、意識の奥にもぐった先に、やわらかく微笑んでいる少女の姿があった。
源三の記憶が流れ込んでくる。
(源三と出会ったばかりの千鶴子さん……源三の奥さんになる人)
この人の体にしよう。
私の意識を覆うように肉体が出来上がっていく間、あたりを見回してみた。
千鶴子さんのいる場所の隣には、空き地で遊んでいる子供の姿がある。
(これが優……、源三の子供……)
じっとその姿を眺めているうちに、視界がだんだん白くなっていった。
目を覚ますと私は天場村の洞窟にいて、
隣で一緒に連れてきてしまった柳が鳴いていた。
■□■□■□■□■□
指に止まっていた蛍がすうっと川べりに戻っていった。
楓は離れていく蛍を見やってから、
近くをふわふわと飛んでいた別の蛍を手の中に閉じ込めた。
急に視界を塞がれた蛍は驚いたように黄緑色の光を放つ。
普通の人間なら指の間から零れ落ちるであろうその光は、
楓の透明な腕全体、そしてその先の胸元あたりまで
ぼんやりと浮かび上がらせていた。
「…………」
はじめに透け始めたのは指先からだった。
洞窟で過ごしている間に徐々に透ける部分は広がっていき、
もう胸まで届いている。
私は、”源三を家族に会わせたい”という願いからできた体で動いている。
強い願いがあるからこそ、私の体は存在するはずがないのに存在していて、
きっとその願いに届けば届くほど私は存在意義を無くしていくのだろう。
ここに来てから10年経って、ようやく優に出会えたのはいいけれど、
それから透けていくペースは明らかに早まっている。
もってあと数日かもしれない。
それまでに、どうしても優に源三を会わせたい……
楓は色々な思いをめぐらせながら、いつまでも蛍を眺めていた。
つづく
猫の気持ちが分かりません!(/TДT)/