先輩とキミの大学院生日記 -9ページ目

先輩とキミの大学院生日記

生物系大学院生の交換ブログ

一週間前の土曜日に、私は北海道に初上陸した。

 

新千歳空港につくと、2歳年下の大学院の先輩が車で迎えに来てくれた。

彼が卒業する3月に学内ですれ違った際に、

「北海道に就職ですか。寂しくなった頃に伺います。」と言っておいた。

 

 

さて、先輩は4月から仕事を始めて、車を購入し、

ローンを払い始める前に単独事故で車をダメにしたそうで

代車で迎えに来てくれたということだった。

申し訳ない。

 

そんな先輩は私を箱根牧場に連れて行ってくれた。

北海道なのに箱根?

地理の苦手な私は若干混乱したが、あまり気にしなかった。

北海道物産展などにも出店する牧場だ。

 

ここで、既に感情の昂ぶりを抑えられない私は早速チーズづくりの体験を先輩と申し込む。

細胞をメンテナンスするときと同様、無菌状態が好ましい食品作業なので

カーディガンを脱いで短めの半袖になった。

その日、気温が10℃程度だった札幌でそんな格好をしているのは私だけだ。

 

さて、今回はカッテージチーズのようなインド風チーズ

パニールをつくるということで発酵はさせない。

牛乳に生クリームを投入し、殺菌のため、89度くらいまで温度を上げる。

そこで火を弱火にして、ゆっくりと酸性であるレモン汁を入れ、

木べらでゆっくりと混ぜながら牛乳のタンパク質を分離していく。

 

私も先輩も生物学者の端くれである。

この原理について議論が尽きなかった。

卵が熱でゆでたまごになると、生卵には戻らないのと同様に

タンパク質は熱で性質が変化し(変性)、いったん変性すると元に戻らない。

そのため、89℃と言われたらそれを守らなければ失敗するかもしれない。

私は温度管理を担当し、先輩は混ぜる。

89℃は変性のための温度ではなく、あくまで殺菌のためだ。

料理も実験もコツがあって、そのコツを押さえれば後は適当でもいいのだ。

しかし、原理がわかっていないとコツがわからないというものだ。

我々はそのコツに関する持論を論じ合った。

 

89℃になるとすぐに火を弱め、インストラクターのお姉さんの言うとおり

2周りでレモン汁が入るくらいのスピードでレモン汁を回し入れた。

私達の体は弱酸性とかいわれるが、ほぼ中性位なので、酸性やアルカリ性のものが入ると

タンパク質は変性する。

今回のレモン汁は牛乳のタンパク質を変性させるためなのだが、

ゆっくり混ぜないと、タンパク質がおからのようにモロモロしてしまう。

これは大腸菌からプラスミド(DNA)を抽出する実験作業から学んで知っていることだ。

 

さぁ、ここで先輩は忍耐を持ってゆっくりと、

ガシャガシャと混ぜることなく淡々とかき混ぜ続けた。

 

その結果。

モッツァレラチーズのような大きなしろいかたまりができた。

インストラクターのお姉さんも「たくさん出来ましたね」とほめてくれた。

実際、私と先輩がそれぞれ頂いた持ち帰り用の容器にチーズを押し込むと

あふれんばかりのチーズができていた。

 

原理を知っていると回収率もいいのだ。

プラスミド(DNA)の回収と同じだ。

コツが大事。

味も大満足で、ゲストハウスの宿泊客にもふるまった。

 

この話を帰ってから友人たちにすると、

「うざい客だね」と言われた。

大学院生だもの。