本日5月4日付けベトナムTuoiTre紙、最近出張続きでやたらハノイにいるので、いつものように朝のコーヒーと共に読んでいるとなかなかにまとまった記事が。最近のベトナム経済の関心事らしい経済の「再構築」(=リストラクチャリング)についての記事から、ベトナムも「あんまり調子に乗っていると後で大変だよ」というお話、以下抄訳&要約です。

 GDP規模がようやく1300億に達したこの国に港が260箇所も、18箇所の沿岸経済区、30箇所の国境貿易区、ほんのちょっとしか組織の無い工業地帯が650箇所も!更には2001年~2010年にかけて大学・短大が233校も設立されたが、計算すると何と一月に2校のペース!著名な経済学者であるLe Dang Doanh氏曰く「どの地方もテレビ局が欲しい、空港が欲しい、大学が欲しい・・・。ベトナムには現在22の空港が建設中・拡張中で、そのうち8つは国際空港だ・・・」と無駄な投資の広がりを嘆く。



 VuDinhAnh教授によると、現在はベトナムの国内外借り入れも増えてきており、債務返済に近年では財政収入の12-15%が使われていると指摘する。世界政治経済研究所のVoDaiLuoc教授は、63の地方省への分権化が進みすぎており、それぞれが独立経済圏かのように計画を作り、プロジェクト承認を行っていることに警鐘を鳴らしている。このまま分権化が進めば公共投資は更に分散され、無駄が生じ、効率性を出すのは難しいとし、「公共投資法」を制定すべきとし、シンガポールや韓国の類似例を参考にすることを推奨している。

 これらのリストラクチャリングにも増しての難関は国営企業の改革。昔も国営企業改革は難しかったが、利益関係も複雑になり今はそれが更に難しくなっていると言う。NguyenQuangThaiベトナム経済科学協会副主席は、現在ODA資金の優遇を受けている対象の60%は国営企業だと指摘、かつて計画投資省で働いた経験からも首相はこれら国営企業の管理者の立場から手を引き、行政管理の立場に徹して細かい事務に干渉すべきでないとしている。

【考えたこと】
 2004年予算法改正の頃からベトナムで続く地方分権化の流れ。これは基本的には歓迎すべきこととして捉えられてきたが、特に大規模な公共投資で象徴的な無駄が叫ばれるようになったのと、地方主義が氾濫してどこでも無駄に大きな公共施設が作られることが問題とはなっていました。それが激しさを増しているのは、ベトナムが何だかんだで人気者で、その地位に少し甘えすぎてきているのかなあと感じます。まあ、ある意味調子に乗っていると言いましょうか。

 チャイナ+1やら、BRICSに次ぐVISTA(ベトナム、インドネシア、南アフリカ、トルコ、アルゼンチン)やらと持ち上げられ、まだまだ外資にも人気なベトナム。確かに経済発展著しいがまだそれでも中心国とは言えず、外交的にも全方位外交で(意外と人権問題とかもある割には)各国の受けが比較的良くODA資金もまだまだガッツリ入るベトナム。そしてこれまでの蓄えもあり、自前での公共投資もできるようになっているベトナム。こういった外部資金、公共投資が官からも民からも得られるベトナム経済だけに、「この公共投資の価値は?」という当たり前の分析をすっ飛ばして進んでしまっているところに上記のような無駄、そして議論が生まれてきているのでしょう。

 借り入れ金の問題にもあるとおり、国債発行や外からの借り入れ(ODAの形での優遇借款含む)は今の投資で得られた成長により返していかなければいけません。ベトナム人気はしばらく続くでしょうが、永遠に上から降ってくるようなお金で投資できるわけはありません。ここらで落ち着いてTaiCoCau(再構造)して、本当に将来に向けて必要なところに投資が行くためのこのような議論は歓迎すべきですね。

北京で考えたこと(の続きで日本で考えたこと)-rittai kousa4月26日に完成したハノイ某所の立体交差、この投資は渋滞緩和として機能してる模様。


 地方分権の流れを批判する論調も今後拡大するかも。ベトナムの地方と仕事をしていて感じるのは、地方分権自体の是非もともかくとして、地方省政府がその中の行政区画を更に細かく分割して(市町村合併でなく分割ですね)、どんどん細かい行政単位が変わっていっていること。地図なんかは毎年更新しなければいけないほどです。そのそれぞれがそのたびに「役所を作れ!広場を作れ!」なんてやっていると・・・、ベトナムの財政制度にもまた中央管理の揺り戻しが来るかもしれません。この点はなかなかに興味深い点ですね。議論の行く末を追ってみたいところですが、安易に「地方ダメだから、じゃあ中央集権ね」ではなく、地方省だけでない地域計画のあり方や、地方省財政管理のノウハウ・ルール作りなどに議論が行けば良いのですが。