またまた南シナ海を巡る中越関係に関して。昨日、北京に留学しているベトナム人に「今ベトナムではこれが読まれてるんだよ」と教えてもらった、あるベトナム人識者の鳳凰TV番組向けインタビューの内容です(ちなみに、「中国で一番有名な日本人」加藤嘉一氏も出演)。このVu Cao Phan(漢字に直すと武高潘)氏は現在越中友好協会の副会長で、元国防学院講師、教育訓練省大臣秘書。本人もその後のVN Express(ベトナムのネットニュース配信大手)とのインタビューで「鳳凰TVということで中国に向けたメッセージだったが、ベトナム国内からの反響が多くてびっくりした」と述べる程、中国は元よりベトナム国内からの反響が大きかった模様。そのインタビューの中には、自らを「親中国」と語る彼の「もっと理解し合って欲しい」というメッセージが伝わってきます。

北京で考えたこと-vucaophan
Vu Cao Phan氏は電話インタビューという形で出演。でも各国からのあふれる出演者の前に、
取り上げられたメッセージはごくわずか・・・。こちら土豆網から番組が見られます。

 しかし、TVでその思いが「採用」されたのは僅かな部分だけ・・・、中国のネット上でもそれほどの反応を得ているとは言えません。ベトナムのネットが多くその発言を取り上げるのを見ると、結局両国国民はまだすれ違いの対話を繰り返している気がしてなりません・・・。以下にその中から、特になるほどと思うところを抜粋して紹介します。(全文VN語はこちらのリンクから。本人は中国語には自信が無いということで、ベトナム語から中国語に訳されて放映。全訳もしてみたのですが、長過ぎると思い省略。ご関心の方がいれば、また別途全訳も載せようと思います。以下抜粋。)

 この南シナ海での領土問題を、今起きていることだけで論じていては視野が狭過ぎる。ここ数年で中国側に捕まる漁船の数はどんどん増え、網は没収され、捕まった側は釈放金を要求されている。今年に入っても百艘に上るだろう。ベトナムのテレビが、捕まった夫や子どもの帰りを海岸で泣きながら待つ姿を見て、どれほど多くの世論が怒ったかを中国人は知らないだろう。(訳注:ここはTVでも採用)

 今回中国側がより過激な行動に出たため、ベトナム側の態度が強硬になったと言うだけで、何も驚くことは無い。もし中国側がベトナムは脅かすような言動をとっていると思うのであれば、皆さんがこういった背景を知らないだけだ。

(鳳凰:問題の本質は経済問題か、主権の問題か?)面白い質問だ。両方が混ざっていると言えるが、中国にとっては経済、ベトナムにとっては主権の問題により近い。それが、ベトナムが「主権問題を棚上げにして共同開発」という提案に熱心でない理由だ。資源は有限であり、それが開拓し終わったらどうなるのか?鄧小平の発言全体は「我々の領土であるが、主権問題を棚上げにして共同開発」であり、資源開発が終わった時に残るのはやはり主権問題だ。共同開発には賛成できるが、その前に(完全にでなくとも)一定程度の主権問題に区切りをつけなければならない。

(鳳凰:中越友好を実現するにはどうしたら良いか?)
 私は長らく中越友好のために働いてきた人間で、「親中国」と言っても良いだろう。両国の友好を願うところから幾つかお答えする。一つには二国間対話。ただ、南沙諸島(訳注:スプラトリー諸島)は既に多くの国が主権を主張しているわけだから多国間の場で議論すべきで、西沙諸島(訳注:パラセル諸島、現在は中国が実行支配中)のように中国とベトナムだけの問題とは違う。ただ、中国自身が「これは我々の領土である」と宣言してしまって議論の余地を無くしてしまっている。それでは「二国間対話」の扉を閉ざしてしまっているではないか。南沙諸島の問題は尖閣諸島と非常に似ている。このような問題に本質的に応用できる原則のようなものは無いのか?

 もう一つは両国の文化の問題。中国は常に強い姿勢を好むが、ベトナムは柔らかい対応を好む。恩は忘れないが、長く恨むことはしない。例えば、中国は事ある毎に南京大虐殺や盧溝橋事件を持ち出してはデモを行ったりする。ベトナム人はそういうことはしない。日本軍は1945年にベトナムを占領し、100万人単位のベトナム人が餓死する事件を引き起こした。65-75年の間には、アメリカや韓国の軍隊がベトナムでひどい悪事を働いた。しかし、彼らがベトナムに戻ってくれば、それを笑顔で迎える、その態度が彼らを仲間にし、今では最大の経済支援国にまでしているのだ。

 もうひとつ例を挙げれば1979年2月の事件(戦争と言うこともできるだろう)。ベトナム人は忘れたいと思っているのに、事ある毎に中国人はそれを取り上げる。2009年には自分も忘れていたよ、でもあなたたちが30周年と称して、2月どころか、2009年中その話題をするから…。(以上発言訳&抜粋)

【考えたこと】
 TV番組ということで、実際に彼のセリフが使われたのは、上記特記した部分に加え、「基本的には平和解決であると信じる、今戦争を望む人はいないだろう」という趣旨だけ。一方、元々の鳳凰TV記者とのやり取りの中にはもっと中国側の反応を聞いてみたい内容があふれています。やはり、このあたりは中国向けTV討論番組としては自重したのでしょうか、それとも単に盛り上がりそうなテーマを優先したのでしょうか。大勢の「専門家」が議論する中で、上述したようなベトナム人の感情に触れる点が大きく端折られているのは残念。彼より加藤氏の方が多分長くTVに出ているかと思うくらい!(別に彼に文句があるわけじゃありませんが・・・)。中国のメディアにそれを望むのは難しいとは思いつつ、先日のブログエントリーに続き、国際政治の議論も良いですが、両国がそれぞれの事情をより理解できる議論を望むところです。

 特に、歴史問題に関する中国と日本の問題への触れ方など過去への考え方については、「何でベトナム人はアメリカを憎まないのか?」という、よくある質問にもつながります。歴史教育は当然あるものの、ある国を敵視するような教育は無く、「中国との間には、今も問題があるから関係が悪いんだ」、つまり過去の歴史云々ではなく現在の現実問題として中国のやり方に意義があるから今も感情が悪いんだ、とあるベトナムの人は言います。

 「全方位外交」とよくベトナムの外交は称されますが、大きな国ではなく、各国の争いの場となったベトナムは、ある国のみに偏るような政策はとらないのが基本です。今回の「強硬」と見られる対応も、ことさらに「反中・嫌中」なのではなく、今の外交環境、国際関係(=中国の勃興)に対してバランスを取るための、これまでの全方位外交路線と同じなのかもしれません。