中国人はベトナムをどう見ているか、これは興味深いですが、中国ではあまり表に出てこない話題でした。これまでメディアで観たのは経済がわりと好調ってな話題、そしてその他に多いのは「ベトナム人は美人、中国人で嫁にもらう人が急増中!」ってな話題。

 そんな中、ある中国人がベトナムに行ってベトナム人と議論した時のことを紹介している「ベトナム人は中越戦争をどう見ているか?」という文章を見つけました。中国でQQを運営している腾讯が運営するニュースサイトに掲載され、翌日でも最も読まれている評論文でした。サブタイトルの「ベトナム人は中国が侵略したと思っている!」というのが読者を増やしたと思いますが。

 あまり見ないテーマに興味をひかれ、ツイッター上でも紹介したところ「内容を紹介して下さい!」とのリクエストありましたところ、(どれほどの方が待っていて頂いているか分かりませんが(笑))、期待に応えまして主な内容を以下にまとめてみました。(以下、内容の抄訳です。)結構率直にベトナム人の見方を紹介しています。どうぞご覧ください。
 
 中国の「対越自衛戦」(訳注:中国では中越戦争はこう呼ばれます)に関して理解するため、私はベトナムの軍事博物館を訪れた。でも、意外なことに展示は全くなく、展示は全て抗米戦争のものばかり。カメラを手にしていた自分は少しがっかりした。

 納得いかない自分は博物館の職員に聞いてみた。彼らの表情は厳粛に変わり、こう言った:「あなたはそれを自衛戦と呼ぶが、そんなのはあり得ますか?ベトナムはこんなに小さな国です、ベトナムが中国を侵略しますか?中国は文革が終わったばかりで問題が多く、その危機・問題を転嫁させてきたのだ。それだけが原因じゃないけどね。」

 ベトナムが辺境地域で騒ぎを起こしていた、国内華人を追い出した、といった事実があって反撃したのだ、と私が反論すると、そのガイド(訳注:ガイドも通訳だったのがいつの間にか議論に参入(笑))はその是非には直接答えず、尖閣諸島での漁船問題に話題を振り「中国の多くの都市では反日デモがあったそうだけど、実際は中国政府やメディアが煽っただろう?中国人は本当に恨み深い、ベトナム人は他国を恨んだりしないよ、平和な民族だ」と。

 彼らの認識の正しきや否やはともかく、彼らが中国のことを良く知っていることに驚いた。近くにいた中国語のできるベトナム人はこう言った「中国人はある時は恨みは忘れていくのが世界の潮流だと言ったり、ある時には徹底的に日本やその他の国を恨んだり、矛盾していませんか?それではあなたたちが如何に経済を発展させても、尊敬はされませんよ。」(訳注:激しいですねぇ)。私は「日本は間違っていた、ベトナムのことも侵略したじゃないか。中国が恨んでもそれは当然だが、国は(デモを)扇動はしていないし、中国人はベトナムのことを恨んでもいない。」と反論した。

 私:「中国の軍人がベトナム人女性を助けようと水に飛び込んだ時、その女性は軍人を後ろから撃って殺した。ベトナムでは11,12歳の子どもまで(中国の)人民解放軍を射殺した。これは恩をあだで返す行為ではないか?」ガイド:「あなたたちが侵略してきたんだから、やり返さないわけにはいかないじゃない?」

 ベトナムの教科書では、新中国が成立以降の抗日戦争に関する記述がパターン化したような、そんなパターン化の手法を真似しているようだ。1979年「中国の軍隊は、短期間の間ベトナムを占領したが、最後にはベトナムの英雄である人民戦争の大海の中に陥れられ、大きな犠牲を出して逃げ出す他なかった。」軍事博物館にこそ展示は無かったが、ベトナムの博物館には、古代からの中国王朝のベトナム侵略に関する展示があふれている。(訳注:古代からの経緯について記述あるも、ここは翻訳略)

 ベトナム各地には戦没兵士の墓地があるが、抗米戦争のものが主要な中、その次には中国との戦闘で無くなった兵士のものがあり、ベトナムが戦没兵士を大事にしていることが窺える。ある人によると、主人が中越戦争で亡くなったため、ベトナムの中年婦人は中国人に物を売りたがらないと言う。

 中国人に対する観方について言えば、多くのベトナム人が「まあまあ良い」と言う一方、「普通」或いはより直接的に「悪い、日本に及ばない」という者もいる。中国が脅威となっている、中国人の素行が良くない、悪事を働くというのが理由。中国製品は良くない、バイクは1,2年で壊れる。それに比べて、日本製品は高級で長持ちする。どうりで中国製バイクが少ないわけだ、日本製がほとんどである。

 数千年の歴史の中で、ベトナムは戦争が多く、平和な時期が短く、混乱が多く、落ち着いた時期は少なかった。だが、歴史上の各種の恨みつらみを記憶しつつ、平和の大事さをかみしめている。2010年は中越国交60周年、両国間は平和を享受し、貿易や人の往来はどんどん密接になっており、友誼関(訳注:ベトナム・ランソンと中国の凭祥の間にある関所・現在は国境のシンボルとなっている)は、戦争の匂いのする関所でなく、真に友誼の象徴となっている。多くのベトナム人は中国人に対して親切だ。ハイフォン市からハノイに戻る古い列車の中、簡単な英語を使ってベトナムの女の子と交流した。一言だけ中国語を話せた若い男のことは列車中に響き渡る声で「我爱你!」と叫んだ。皆が笑顔になった。(以上翻訳)

【考えたこと】
 ここでのベトナム人の中国に対する感想、印象は、自分がベトナムにいた時に良く聞いた話であり、そういう意味では自分にとっては新しくありません。恐らくベトナムに住んでいる日本人であれば多かれ少なかれこういう話を聞いているのではないでしょうか。ただ中国人にとっては、中越戦争自体知らない人も多い中、こういったベトナム人の思いを特に知ってはいないでしょう。それを、中国人自身が中国語でこうやって紹介するのはとても意義があることだと思いました。(勇気も要るでしょうが)

 ここで筆者はベトナムの認識がどうこうというところにはほとんど触れず、極力そのままその考え方を紹介しようとしています。難しい問題だから評論を避けたということかもしれませんが、最初はこういう風に「まずベトナムの人はこう思っている」ということをそのまま伝えるので良いと思いますし、それがまずは始まりなのでしょう。

 中国は大国だけに隣国だけ数えても無数にあるのだから作業量は大変ですが、そういう隣国がどういう風に中国のことを見ているかを認識するのはとても大事なことです。特に「中国が膨張している」というイメージを持っている周辺国、それは日本だけでなく、ましてや国境を接するベトナムのような国はもっと切実に感じています。中国が国際イメージを正しく理解していくのは外交の役目ですが、国レベルだけでなく、これだけ旅行も含めて外に出ていく中国人が増えていく中で、民間レベルでもこういった異なる認識を理解することが必要になるのでしょう。

 今自分がブログを書いている時点で、この文章に対してのコメントは1553件!全部は当然見切れませんが、多くは否定的と言いましょうか、条件反射拒絶が多数のように見えます。まあ、これも予想はできますし、それがゆえにこのような文章も書くのにそれなりに抑えた口調で書かれているのでしょう。

 中にはもう少し理性的なコメントも:「中国も侵略された際には辛い思いをしたじゃないか。そのような思いにある国に対して理解を示そう。一国が尊敬されるのはその経済力ゆえにではない、それが尊敬に足る民族であるからなのだ。」多様な意見が交わされることが、ベトナムへの健全な理解のまずは第一歩です。