ある晩、視界の端を黒い小さな何かが横切るのを感じた。確認すると、それはゴキブリだった。黒くは無い。茶色い子どものゴキブリ。どうしよう…。咄嗟に近くにあった夫のゴミ箱を上に置いて底面の隙間に挟み込むことにした。成功。「貴方のゴミ箱の下にゴキブリがいるからね。動かしたり持ち上げたりしないでね」と伝えておいた。次のゴミ出し日は3日後。それまでに命が尽きていてくれたらいいな。
それなのに翌日、まだ一昼夜も経たないのに夫がゴミ箱を持ち上げた。「もう死んだかと思った」と。ゴキブリの生命力を知らないのか。その後ゴキブリが逃げ込んだらしい納戸を引っ掻き回してゴキブリ退治をし始めた。捕まるわけが無い。あんなにガタンガタンと盛大な音を立てて収納ボックスを動かして。おまけに埃が出たとかで掃除機までかけ始めた。そんな物音を立ててゴキブリが目の前に出てくるわけがない。ゴキブリの習性を知らないのか。案の定徒労に終わったようだ。でもその時に気付いた。この部屋のドアには隙間があることを。きっととっくにここから逃げ出しているであろう。
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