『上司の陰謀』(その2)

◆歪んでいく意識

美咲は周囲の同僚や友人に相談することもできず、孤独な戦いを強いられていた。

彼女は何度も会社を辞めることを考えたが、やりきれない思いが勝り、そのまま勤務を続けていった。
 
美咲は心の中で思った。

「あれから、私は上司からのセクハラに耐え続けているけど、何かが変わっている?。まさか、私の心が少しずつ歪んでいるのだろうか。」

しだいに彼の言葉や行動が、不思議なことに正当化されるように感じられるのだ。

私はセクハラの正体を見失い、それを受け入れるようになってしまったのだろうか。



ある日、上司は私に近づき、卑猥な冗談を言った。

「おい、君は本当に可愛いんだな。もっともっと仲良くなりたいんだけど、今夜、ねえ、どうだろう?」

私は戸惑いながら、

「でも、私たちは上司と部下。仕事の関係ですよね。それ以上の関係になることはできません。」

「そうか、でも俺は君の魅力に抗えないんだよ。それに君が本当に欲しいのは私の愛だろう?」 

「いえ、私は仕事に集中したいです。プロフェッショナルな関係を築きたいだけです。」

そう言いながら、初めて上司の言葉に笑みを浮かべてしまった私は、自分自身が変わってしまったことに戸惑った。

私の心の中で、彼の言動が正当化され、受け入れられるようになっている。

恐怖心が薄れ、セクハラが当たり前のような存在になってしまったのだ。

「でも、本当の私は違うはず。私は他の人たちが受けるべきではない扱いを受けていることを理解できてきる。」

ある時、同僚の男性社員とこんな会話をしたことにも気がついた。

「最近、上司が君に対してセクハラ的な態度をとってるように見えるけど、大丈夫?」

私は戸惑つつ、

「うーん、私も気になっているんだけど、何か言えば嫌な雰囲気になるかもしれないし…」

でも、君が辛い思いをしているなら、どこかで声を上げなくては。俺も君をサポートするよ。」

「ありがとう、でも私が自分で解決できるように頑張るわ。」

結局、自分の中で収めようとしている自分がいたのだ。

(その3に続く)