田中宇(たなかさかい)氏の情報です
中国式とスウェーデン式
2020年5月4日 田中 宇
新型コロナウイルスの感染問題(コロナ危機)は、世界的に、とても長引くことが決定的になってきた。
日本政府は、少なくとも5月いっぱい外出自粛と消費活動の全停止を続けることを決めた。
6月以降も経済停止が続く可能性が高いとか、これから1年以上、何らかの規制・自粛の政策が必要になると、政府の「専門家」たちが声高に警告している。
日本のコロナ対策である準都市閉鎖は、ワクチンがない現時点での唯一のコロナ危機の解決策である集団免疫の形成を遅らせるものなので、この政策がむしろ日本のコロナ危機を長引かせるものになっている。
この、私の以前からの分析と同じことを最近、専門家も指摘している
(元厚労省技官が断言「1カ月自粛してもコロナは収束しない」)
私は3月末の記事の末尾で、集団免疫形成のために若い人は外出を容認されるべきだと書いたが、日本の閉鎖が延々と続く可能性が高まった今、私のような無名の素人でなく、権威ある有名な専門家も、集団免疫形成のため若者は外に出た方が良いと言い出している。
(「また炎上しそうだが、50歳以下で健康な人はなるべく外に出して、感染を早めてもらう」) (集団免疫でウイルス危機を乗り越える)
大企業の中にはすでにテレワーク定着させ、コロナ危機の長期化に対応しているところも多い。
事務所面積を縮小し、社員数も減らせる。
先進諸国の人々は、静かに新事態に適応して充足している中産階級残留組と、長期失業したまま経済困窮を深める貧困層転落組に2分化している。
英国政府は最近、これから数カ月間、民間企業のホワイトカラーをできるだけ在宅勤務させ、通勤時の混雑での感染拡大を抑止することにした。
英国の都市閉鎖は今後数か月は続く。
米ワシントンDCでも市当局が、今後1-2ヶ月の都市閉鎖が必要だと予測している。
(The end of the office? Coronavirus may change work forever)
(UK offices set to remain closed for months)
(DC May Not Reopen for Another 2 Months, Officials Say)
米国のミネソタ大学の研究所CIDRAPは、コロナ危機の世界的な解決にはこれから2年以上かかる予測する研究をまとめた。
この研究は、2年後にもワクチンが完成していないと予測し、人類の60%が感染して免疫を得て世界的な集団免疫が形成されるまで2年以上かかると予測している。
コロナ危機が終わるのは2023年もしくはそれ以降になりそうだ。
私は3月前半に「人類の7割が感染し2年以上続くウイルス危機」という記事を配信した。
当時は、この予測をインチキだと思って私に誹謗的な警告を送ってくる人がけっこういた。
しかし今や、この手の予測は常識になっている。
(Covid-19 Pandemic Likely to Last Two Years, Report Says)
(COVID-19:The CIDRAP Viewpoint)
世界的に都市閉鎖をやっているのでその分、集団免疫の形成が遅れる。
集団免疫しか解決策がないということを政策で明示し、そのうえでいかに重篤な発症者を出さずに免疫形成するかを立案すべきなのに、それをやっているのはスウェーデンぐらいだ。
米欧マスコミはスウェーデンの集団免疫策を「危険な冒険」と批判するが、実はスウェーデンのコロナ致死率は高くなく、危険な冒険をしているのは都市閉鎖を続ける他の諸国の方だとスウェーデンの専門家は反論している。
正しい。
(New Coronavirus Study Claims Outbreak Will Last Longer Than 2 Years As 2/3rds Of Humanity Infected)
(Will Sweden’s herd immunity experiment pay off?)
スウェーデンの集団免疫策に対して、軍産系のマスコミから、歪曲的で悪質な記事がよく出てくる。
たとえば、政府統計によるスウェーデンのコロナ感染者数が2万2千人、死者数が2700人で、致死率が12%と非常に高いので「やはり集団免疫は殺人政策だ」という趣旨の記事がある。
しかし、これは大間違いであり、意図的な歪曲だ。
('Full Of $hit' - Swedish City Spreads Manure On Parks To Stop Crowds Gathering)
スウェーデン政府によると、200万人以上のストックホルム首都圏の人口の30%、つまり60万人以上がすでに感染して免疫を持っている。
これを分母にすると、スウェーデンの致死率は0.4%とか、そのくらいの数字になる(免疫保有者と現在の感染者は別物だし、ストックホルム以外の感染者を入れておらず雑駁な計算だが、感染者も死者も基準が国によってまちまちで、もともとこの手の計算自体に意味がない)。
スウェーデンの統計上の「感染者数」は、入院している患者数もしくは重症者数と思われる。
重症者の致死率が12%というのは自然だ。
(As We Mull Leaving Lockdown, Is Sweden Model the Way Forward?)
人口100万人あたりのスウェーデンのコロナ死者数は265人で、都市閉鎖をやっている他の欧州諸国と大差ない。
ベルギー677、スペイン540、イタリア478、英国419、フランス381など、都市閉鎖をやっているのに百万人あたり死者数がスウェーデンより多い欧州諸国がたくさんある。
都市閉鎖をやらないスウェーデンが、他の欧州諸国と大差ない百万人あたり死者率なのだから、スウェーデンの集団免疫策は成功している。
(Coronavirus Cases: Worldometer)
スウェーデンの集団免疫のコロナ対策は個人の自由や尊厳を重視しており、世界で最もリベラル・自由主義だ。しかも成功している。
これまでリベラルや自由主義を重視する演技をしてきた軍産リベラル系のマスコミ(ゴミ)が、なぜ今回のコロナ危機でスウェーデンのリベラルな集団免疫策を歪曲的に誹謗中傷するのか??。
軍産リベラルの総本山である米国でネオコン系な勢力が入り込んで歪曲している可能性が高い。
ネオコン系の勢力は、軍産(米国覇権主義)のふりをした隠れ多極主義(米覇権崩壊希望者)なので、米国と同盟諸国が経済金融と覇権体制の崩壊を引き起こす今の都市閉鎖策を延々とやるように仕向け、その流れの妨害になる集団免疫策を政治的に潰そうとしている。
これは前回の記事にも少し書いたが、いずれ改めて分析する。
スウェーデンの例から考えて、東京も集団免疫が形成されつつあるし、非常事態宣言とか経済停止、強烈な自粛をしなくても、コロナによる死者や重症者の数はさして変わらないだろう。
しかし世の中はそんな話にならず、都市閉鎖によって、膨大な経済面の犠牲を払いつつ一時しのぎで感染拡大を止めて「成功」だと誤判断し、コロナと経済の危機を延々と長引かせている。
間抜けだが、皆がこれをやりたいのだから仕方がない。
皆さん、これから2年かそれ以上の間、経済閉鎖と軟禁生活、倒産、失業、貧困、飢餓、家庭内暴力、運動不足などによる各種疾病、自殺、鬱病、肥満、孤独などを存分に満喫してください。
(There Is No Exit From COVID-19, Only Containment)
リベラル自由主義のスウェーデンと正反対の方向でコロナ対策をやっているのが中国だ。
中国では1月末から武漢市や湖北省を中心に全国的に厳重な都市閉鎖を実施した。
2月の最盛期には13億人の中国のうちの4億-9億人が閉鎖状態で暮らしていた。
3月後半に新たな感染者が減って閉鎖が解かれていったが、2月以来の都市閉鎖の過程で中国当局は、各地の公共機関や交通機関、ホテルや病院、企業、スーパーやマンションなどの入り口に検問所とQRコードの看板を設け、通行人が所持するスマホでQRコードを読み取って「健康コード」のアプリを表出させて「緑コード」を提示しないと通行させない制度を確立した。
緑コードは自由行動可能、黄色コードは1週間の外出禁止、赤色コードは2週間の外出禁止もしくは入院を義務づけられる。
地下鉄は各車両の壁にQRコードが貼ってあり、乗客はそれをスマホで読み取らねばならない。
健康コードは、アリペイやウィチャットなど、中国のほとんどのスマホに入っているアプリの追加機能として作られている。
スマホ保有者は外出時に各地のQRコードを読み取っていき、GPSや、ネット使用時にどこのモバイル通信基地局を使ったかという位置情報と合わせ、全人民の行動軌跡が自動的に当局のサーバーに集積される。
誰かのコロナ感染がわかると、その人が過去2週間にどこに行ったか、その時に近くに誰がいたかが自動的に調べられる。
近くにいた人は感染の疑いがある状態と認定され、黄色コードに格下げされる。あとで感染が判明した他人と偶然同じ車両に乗り合わせたりした場合、その他人の感染判明後、自分のスマホの健康コードが黄色に変わっていて驚き、その時から1週間外出禁止になる。
マンションの玄関で管理人が検問しているので黄色コードだと出ていけない。
マンションの管理組合に「黄色者が出た」と連絡が行き、同じ階の住人に黄色者への監視が要請される。玄関の扉を開けるのもはばかられる。
(China rolls out software surveillance for the COVID-19 pandemic, alarming human rights advocates)
日本などリベラル諸国では、コロナ感染者と接触した人々を感染者への聞き取り調査で特定するので時間と当局者の労力がかかる。
聞き取りに応じない人もいる。
だが、中国の健康コードシステムは迅速で問答無用だ。
中国ではどこの病院でもPCR検査を受けられる。黄色コードになったら病院でPCR検査し、陰性を確認して緑コードに戻してもらう(もしくは陽性を確定してしまう)こともできる。
中国は以前から、全人民通信簿(タンアン)制度や、それを電子化した社会信用制度があり、個人のプライバシーを当局にすべて明け渡すことを人民に慣れさせてきた。
健康コード制度に基づき、中国は人々の国内旅行を自由化していく過程にある。
新たな感染者は少ないが、感染者の大半は無発症なので、いつどこで運悪く感染者の近くに居合わせて黄色コードに格下げされるかわからない。
人々は外出に慎重だ。繁華街や飲食店が再開されているものの客足は急増しない。
(How China is attempting to prevent a second wave of infections)
他の諸国でも、スマホの位置情報を使った感染者の追跡は試みられている。
だが、全国民のすべての外出情報を顕示的・積極的に集めて、恒久的な全人民の行動追跡システムが確立しているのは中国だけだ。
スマホのGPSと通信基地による行動追跡はどこの国でもやれるが、中国のQRコード検問システムはそれをはるかに超えている。
コロナ対策で、スウェーデン式はリベラル、中国式はイリベラルの極致だ。
(In China, This Coronavirus App Pretty Much Controls Your Life)
中国は、集団免疫を形成する前に都市閉鎖によって感染拡大をいったん止め、今の事態になっている。
健康コード制度によって、国内の感染拡大は抑えられている。
人々は少しずつ外出し、国内経済は成長を再開している。
だが中国は、外国との人的な交流を、今後もずっと大幅に制限し続けることが必要だ。
外国から無症状な感染者を入れるわけにいかないからだ。中国は今後ずっと鎖国的な経済発展を続ける。
他の世界が集団免疫に達する2023年かそれ以降ぐらいまで、人的な鎖国が必要だ。
中国もそのうち集団免疫を意識した政策に転換するかもしれないが、今はまだその兆候がない。
中国のマスコミはスウェーデン式に批判・中傷的だ。
武漢市の免疫保有者の比率は3%にすぎない。
(Sweden’s herd immunity strategy coldblooded, indifferent: netizens)
(Wuhan Tests Show Coronavirus ‘Herd Immunity’ Is a Long Way Off)
スウェーデンの集団免疫策は、軍産マスゴミと中共の両方から呉越同舟の誹謗中傷を受けつつも、成功している(ちなみに最近の日本の言論界では、軍産と中共の両方のプロパガンダを率先して鵜呑みにするのがスタイリッシュ! だ。日本は米中両属だからね)。
集団免疫策は成功しているものの、それは隠然としたものにすぎない。
集団免疫の形成を確定するには、広範な抗体検査をやって抗体保有者が住民の60%以上であることを確認するだけでなく、抗体保有者が再感染しないことを証明したり、広範な抗体検査を何度も繰り返して免疫の有効期間を確定したりせねばならない。
検査で抗体保有が確認された人に免疫カード(免疫旅券)を渡して自由行動させる策も同様だ。
これまでコロナは一度発症して治癒してPCR検査で陰性になっても、しばらくすると再び陽性になったり再発症する例があるとされてきた。
抗体を持っても再感染しうるのであれば抗体=免疫にならず、集団免疫に抜け穴があることになる。
再感染の可能性と、免疫期間の不明は、弱者を見殺しにする政策だというのと並び、集団免疫策と免疫旅券制度に反対する人々の最大の根拠だ。
('Immunity passport, please': Should antibody testing be the ticket out of lockdown?)
韓国の研究者が最近、コロナの再感染は感染原理から考えてあり得ないことで、再感染だと言われた症例はすべて、PCR検査の不確定さに起因するものだろうとする研究を発表した。
いったん陰性になった時の検査が偽陰性だったか、再感染したとされた時の検査が偽陽性だった、ということだろう。
この新研究も確定的でなく、軍産側からの突っ込みどころは満載だ。
しかし、今後しだいに「再感染でなく偽陰性」という話になっていきそうな観はある。
他方、免疫期間の確定は、広範な抗体検査を繰り返していくしかない。
(Scientists conclude people cannot be infected twice)
欧州には、オランダやドイツ、英国など、集団免疫策をやりたいと思いつつ公言していない国がいくつもある。
スウェーデンも、ある程度広範な抗体検査をやっている可能性があるが、その実施や結果を発表しておらず、隠し気味だ。国内外の軍産系勢力など、妨害してくる敵が多いからだろう。
今後のシナリオとしてありうるのは、ある程度の免疫保有率になったと判断されたら、各国で広範な抗体検査を開始しつつ、再感染の疑惑に対しても結論を出し、集団免疫の形成を宣言し、政治的な議論を経て免疫旅券制度を発足するというものだ。
ドイツ政府は先日、免疫旅券(免疫カード)の制度を検討していると発表した。
一部の州(Nordrhein-Westfale)では間もなくアプリを使った免疫カードのシステムを試行的に開始する。
(Bundesregierung will Immunitätsausweis einführen)
(Germany Considering "Coronavirus Cards" To Allow Immune Citizens Freedom Of Travel)
EUは、世界の中でも特に強く集団免疫策を希求しているはずだ。
なぜなら、いま世界各国がやっている都市閉鎖の政策では、中国のように、国内での人的交流は再開できるが国際的な人的交流を再開できない。
都市閉鎖策だと、各国は今後何年も鎖国し続けねばならない。
市場統合と国家統合の政策の成果物であるEUは、加盟諸国間の国際的な人的交流の自由な体制(シェンゲン条約体制)が必須だ。
EUの加盟諸国はコロナ危機がひどくなった3月中ごろから国境を閉鎖している。
今後、数か月間かせいぜい1年ぐらいまでなら、コロナ対策として今の国境閉鎖を続けることが許容できるかもしれない。
しかし、それよりずっと長く、これから3年も4年もEU諸国間の国境が閉鎖されたままだと、各国の世論や政界が「もうEUなしでバラバラの諸国に戻ることで良いのでないか」という論調をつよめ、EUや国家統合体制の存続が危うくなっていく。
EUを維持するには、独仏やベネルクスや北欧や南欧が、できるだけ早く集団免疫を獲得し、それを顕在的な政策として確定し、EU加盟諸国間の国境を再開放してEUの根幹であるシェンゲン体制を蘇生する必要がある。
ワクチンがないのだから、国境再開のためには、国境の両側で集団免疫を形成するしかない。
(Germany Closes Border To Europeans, But Migrants Still Allowed In)
米国の恒久覇権を狙う軍産複合体は、多極型の世界機構であるEUが嫌いだ。
EUは、隠れ多極主義者だったレーガンが、英国や軍産の反対を押し切って冷戦を終結した後、ドイツとフランスに急いでやらせた国際事業だ。
中国も、欧州が国家統合された強い存在であるより、バラバラで弱い方が良い。
ギリシャやイタリアはすでに中国の軍門に下っている。
軍産と中国は、EUの再統合を阻止できるので集団免疫策を誹謗中傷して妨害するのだろう。
イタリアが死因の歪曲によってコロナの死者数を誇張して危機を扇動したのも、今のイタリアの政権がEUを敵視しているからかもしれない。
EUの主導役であるドイツは、自国が集団免疫策をやると目立ってしまい、軍産・米国側からの攻撃が激しくなるので、まずスウェーデンやオランダにやらせたのかもしれない。
オランダは途中で政治的に維持が困難になり、集団免疫策を引っ込めた。
スウェーデンも、首都のストックホルムは集団免疫に近いが、それ以外の地方はまだまだで、田舎に行くほど免疫率が低くなり、集団免疫までに要する期間が長くなる。今の調子だと、スウェーデンの全土が集団免疫に達するまでに2年以上かかる。
それまで国境は再開できない。EUは存亡の危機にある。