「香織先輩、おはようございます」
「おはよう」
いつもの朝。
後輩たちから羨望のまなざしで見つめられ、自分で言うのもなんだけれど男性からの視線も痛い。
そんな私、桐谷香織(独身)(28)。
一流企業『リスペクタス』に勤務し、次期主任の座も間近。
「おはよう香織」
「ああ、おはよう」
この男は同期の篠崎流(28)(独身)。
本社にいる同期はこの男ひとりだけ。
仕事はできるし、顔もいいし、スタイルもいいし、運動神経もよさそうだけど・・・
チャラい。
恋人がいなかったことはないんじゃないかってくらいチャラい。
「どうしたの、ずいぶんご機嫌ね」
「ん?そんなことないよ」
そんなことないよ・・・ってこのクール気取ってる男が鼻歌なんか歌っちゃってますけど。
「なに、彼女とデートでもしたの」
「よくわかったな。昨日やっと今の彼女と初めて遊園地に行ったんだ」
「遊園地・・・ってあんたもう28でしょ」
「28でも男はまだまだいけるんだよ。
香織、そういう考え方するから5年も・・・おっと、なんでもない。
それじゃあお先」
そう言うと篠崎は走ってエレベーターに乗り込んだ。
「・・・・篠崎ぃ~」
そう、わたしは彼氏いない歴5年だ(28歳)。
大学を卒業した春、初めて付き合った彼氏がロンドンへ留学してしまい、それから自然消滅。
彼は去年、ロンドンで出会ったエイドリアンとかいう女性と結婚した。
今年の元日の年賀状で発覚したことだが。
ここまで言うと、なんだかわたしは仕事ばっかりのモテない女みたいだが、決して俗に言う『ホタルノヒカリ』の干物女というわけではない。
と思いたい。
「あっ、香織先輩。おはようございます」
「おはよう」
オフィスに入る。
彼女は事務の吉岡由紀(24)(婚約者有)。
わたしの可愛い後輩で、先月社長の跡取り息子、専務と婚約した。
畜生、可愛い顔して玉の輿をゲットしちゃって。
「香織先輩、今日暇ですか?」
「え?」
由紀ちゃんに入れてもらったコーヒーを一口。
うん、おいしい。
「部長の娘さんが、なんとか医院の息子さんと結婚することになったそうで、そのお祝いに部長がみんな飲みにつれてってくれるって。
先輩どうします?」
「由紀ちゃん行くの?」
目をそらす由紀ちゃん。
「えっ、とぉ、わたしは彼が今日クリスマス前にデートしようって、ディナーに連れてってくれるんです」
えへ、なんて笑っちゃって。
この野郎。
「へ、へー・・・どうしようかな」
「おはようございます」
篠崎が入ってきた。
え、お前あたしより先にあがったじゃない。
なにやってたの。
「あ、篠崎先輩はどうしますか?
今日部長が飲み連れてってくれるそうなんですけど」
早速篠崎にも話をふる由紀ちゃん。
自分は行かないのにこれだけみんなに呼びかけられるってある意味すごいな。
「今日?今日はちょっと都合悪いな。
由紀ちゃんも行かないんでしょ?」
「あー、わたしはちょっと彼と約束あって・・・えへへ」
「だろうね」
篠崎も都合悪いのか。
「あ、でも香織先輩は大丈夫なんですよね?」
またあたしに話が戻ってきた。
「あー・・・暇だし行こうかな」
「だろうね」
「なっ」
だろうねってなんだ、だろうねって。
おい篠崎!
「いいね、由紀ちゃん。専務とデートなんて」
「えー、そういう篠崎さんだって彼女とデートなんでしょ?」
「ばれた?」
「ばれますよぉ」
なんか向こうで余裕の会話が繰り広げられてるし。
余裕なひとたちはいいね。
あ、そうだ。
―――昼休憩――――
「あっ、もしもし?詩織?」
『お姉ちゃん?どしたの?』
今電話してる相手はわたしの妹の桐谷詩織(16)。
私たちは両親がニューヨークに住んでるからわたしと詩織の二人暮らしだ。
「今日、ちょっと遅くなるから先に何か食べて寝てて」
『あっ、うん。わかった』
・・・なんか声弾んだな。
「ごめんね」
『ううん、全っ然大丈夫』
「・・・・むしろ嬉しい、的な」
『そんなことないよぉ。
あたしのことは気にしなくていいからねっ。
じゃ、バイバイ』
ブチッ。
ツ―――――――――。
・・・まったく、色気づいちゃって。
あーあ、部長の飲み会・・・ってことは遅くなりそうだなあ。
やっぱ断ればよかったかも。
ふぅ。
――つづく。