「ここか~」

「シッ、声がでけえよ」

「あ、ごめん」


ターゲットの潜んでいると思われる廃墟に潜入したとき、辺りは水を打ったような静けさに静まれていた。


「ここで間違いないんだな」

「うん。言ったでしょ、俺ちゃんと調べたんだから」


のんきにアクビをする相棒のドンへを横目に、俺はジャケットの中に手を入れて内ポケットに隠した拳銃を確認する。


「…よし、行くぞ」


ドンへに背を向けて気を引き締めた刹那、腰に激痛が走った。


「…ッ……!?」


最後に見えたのは、スタンガンを片手に片方の口角を上げたドンへだった。








「…っ、?」


目を開けたとき、視界に明らかな違和感を覚えた。

薄暗い中に見慣れないものばかり。

ぼんやりとする頭を冴え渡らせ、考えを巡らせる。

ここは、どこだ?






「ひょく、起きた?」

声のする方に目をやると、見慣れた相棒の姿があった。

「ドンへ?」

安心からか、極度の違和感と不思議さからか、涙が頬を伝う。

「ねえ、ひょく なんで泣いてるの?」

徐々に近づいてくるドンへ。

その顔にうっすらと浮かべた笑顔に恐ろしくなって、逃げ出そうとする。

が、体がびくともしなかった。






そこで初めて気づいた。

俺はしっかりと椅子に縛り付けられていたのだ。




「どう?ひょく。こわい?」

「や、だ、ドンへ…なに、これ、」

必死で強がった表情を作るも、恐ろしさのあまりに声が震える。

その震えた声を聞いて満足したように、ドンヘは俺の耳元でささやいた。





「ゲームオーバーだよ、ひょく」




意味がわからず、必死で頭を働かせる。

察したようにドンへが口を開く。


「お前、視界狭すぎ。こんなに近くにターゲットがいるのにも気づかないなんて、



スパイ失格なんじゃないの?」




色のない目で冷たく言い放ったドンへを信じられない思いで見上げる。



こんなに、近くに?



こんなにずっとずっと2人で行動していた大事な相棒が、大切なパートナーが、



ドンヘが、ターゲットだったと言うのか?



「簡単すぎだよ。お前は人を信じやすすぎるの。ここにターゲットがいるよって教えたのは俺だったでしょ?なのに、ろくに下調べもせずにノコノコやってきて。」

俺に語りかけているようにも、ただうわ言のように呟いているようにも見えるが、視点は確かに俺の瞳を捉えていた。

ドンへは俺の体に拳銃の銃口を這わせた。

「や、だっ……どんへ、や、めて、」



尚も頬を伝う涙。

ドンへはゆっくりと顔を近づけ、その涙を舐め取った。

「ひょくの味がする」

こんなの、

「ずっと、永久に俺のものになって」

ドンへじゃない。




俺の頭に銃口を向けて、悲しそうに呟いた。

「お前に溺れさせられた俺の方が、先にスパイ失格だったんだな、」




相棒って、スパイって、なんだったの?

短くて覚めない夢を見ていた気がする。



「ひょく、かわいい、」

「や、めてっ…!ねえ、ドンへ…っ…!」

「ずっとずっと俺のものになって、」




重たくて、不気味で、美しい銃声が響いた。







ひょく、こっち


そう、こっちだよ
いま目があったね

ねぇ…

なんでそんなに悲しい顔をするの?

笑って、

笑ってよ、ひょく






「ずっと黙っててごめん」

ドンヘの突然の告白に返す言葉が見つからなかった。

「そんな悪い冗談やめろよ」

「冗談なんか言わないよ」

ドンヘの綺麗な瞳が真っ直ぐ俺を見据える。

「ひょくにだけは、話しておかなきゃって」


信じない 俺は信じない


だけどドンヘの口はしっかりこう告げた

『俺はもう長くない』

ずっと前から病気が進行していたって。

若年性だから進行も早い。

でも誰にも言えなかった、って。



ねえ神様、
なんでドンヘなの?



俺の大事な人を、俺のすべてを、なんで奪っていくの?


病床でどんどん弱々しくなっていくドンヘ。

こんなドンヘ見たくない。
だけど俺は通い続けた。

毎日弱っていっているけど、そこにいるのは愛しくてたまらない大好きなドンヘだから。

俺が姿を見せるだけで嬉しそうにする。

もともと細い体はほとんど骨のようになっているのに、目は虚ろなのに、その目の端からたまに涙が伝うのに、俺の前では絶対に弱ったところを見せない。

最後まで俺を悲しませないため。

だから俺だって悲しませちゃいけない。

なのに、


ふいに涙が溢れた。




「ばか、ひょく 泣かないで」

「ごめん…っ、急に怖くなった、から、」

「ひょく」

「お前がいない世界考えたら…俺っ…、」

「ひょく、」



ドンヘの手がふわりと、優しく俺の顔を包んだ。



そのまま静かに、唇が重なった。

最初で最後のキス。

悲しくて 幸せな味がした。




「いままで、ありがとう、ひょく、」





それからほどなくして ドンヘは永遠に旅立った。



ドンヘとの約束、俺は守れてる?
俺のこと、ずっと見てくれてる?







『ひょく、ずっと笑ってて』









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