「手紙」「郵便局」「台湾映画」で連想ゲームをしたら、まず思い浮かぶのは魏徳聖監督の「海角七号」(2008年)だろう。しかし、今後はその中に「1秒先の彼女」が加わってくるかもしれない。
何をやっても人よりワンテンポ早い楊曉淇と、逆に何でもワンテンポ遅い阿泰。冴えない30女の楊曉淇は郵便局勤め。ある日出会ったダンス教師の劉文森と恋に落ち、七夕情人節にデートの約束をするが・・・。ここまでが前半。
情人節というのはバレンタインデーのこと。台湾には年に2回バレンタインデーがある。いわゆるバレンタインデー(西洋情人節)とは別に旧暦の七月七日の七夕の日もバレンタインデーだ。そのバレンタインデーのデートを楽しみにしていたが、楊曉淇が目覚めるとバレンタインデーは1日前に終わっていた。
原題は「消失的情人節」。「消えたバレンタインデー」という意味だ。ちなみに私が邦題をつけるなら「バレンタインデーが消えた」にするかな。
映画の後半はその1日が消えた謎にせまっていくラブストーリーだ。
見る前は実は「陳玉勳+ラブストーリー=???」で心配だったが、前半は陳玉勳カラー爆発でぶっ飛んだゆるい笑い(矛盾してるか)満載のコメディだ。台湾映画と言うと侯孝賢と楊徳昌しか知らなかったから、「熱帯魚」(1994年)や「ラブゴーゴー」(1997年)を始めて見た時の衝撃は忘れられない。その期待を裏切らない陳玉勳映画になっている。
ところが、後半は前半ではちょい役だった阿泰が主役に変わる。ここからはラブストーリーのカラーが強くなって、コメディでありながらもしっとりと心に沁みる作品になっている。「陳玉勳+ラブストーリー=???」の心配は杞憂に終わったが、実は「陳玉勳+ラブストーリー」の2本立てだった。
阿泰を演じるのは台湾映画ファンなら最近一番気になっている役者劉冠廷だ。「ひとつの太陽」(陽光普照)や「無聲」「同級生マイナス」(同學麥娜絲)での演技が印象的だ。「無聲」ではすごくいい人、「ひとつの太陽」ではどうしようもないワル、「同級生マイナス」では人から少し馬鹿にされる不器用な奴と全く異なる役を演じ分けている。今回の役は「同級生マイナス」の時とよく似ている。彼の演技なくしては阿泰にリアリティを持たすことは不可能だっただろう。
台湾映画のファンには「星空」の林書宇監督や「KANO」の馬志翔監督がゲスト出演しているのも嬉しい。大阪アジアン映画祭あたりで上映したら会場がざわつくこと間違いなしだ。
台湾映画にしては珍しく大手の配給会社がついている。ヒットしてほしいものだ。