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昨夜は一睡も出来ないままキャンディは朝を迎えた。 太陽が昇り始めるとキャンディは部屋を飛び出しポニーの丘へと走って行った。 ポニーの丘へ登ってくるとキャンディは縋るように大きな樹に抱き着くと力なくズルズルと崩れ落ちた。 キャンディがポニーの家へと戻ってきてから早二年の月日が経とうとしていた。二年の月日がさせたのか・・・・・・・・・・・・・キャンディの心は大きく揺れ動いていた。 幼き日に出会った『丘の上の王子様』・・・キャンディの初恋の王子さま。 アードレー家の養女として迎え入れてくれたウイリアム王子様・・・アードレー家当主であり大総長もであるウイリアム・アルバート・アードレー・・・キャンディの養父。 自然をこよなく愛し、どんな時も陰から見守り続け助けてくれた心優しいアルバートさん。 3つの顔を持ったその正体はウイリアム・アルバート・アードレー。 キャンディにとって初恋の王子様であり、養父でもあり、また兄のようにしたっていた掛替えのないひとだったが、いつの頃からかアルバートを一人の男性として愛するように変わっていった。 だがアルバートは養父でありアードレー家の大総長なのだから叶う筈もない恋だった。 キャンディは自分の抑えきれなくなってきた気持ちを悟られてはならないと心に鍵をかけ封印した。 アルバートへの思いを自覚したからなのか、キャンディはテリーとの悲しい別れで苦しんだ傷心も、今では嘘のように綺麗に流され、テリーの活躍を一人の友人として陰ながら喜ぶファンの一人に変わっていった。 キャンディは大きな樹にしがみつきながら力なく芝の上へと座り込むと止めどなく涙が流れ落ちた。 昨晩、消灯時間になった子供達を寝かせるために子供部屋へと連立ったキャンディ。 子供達を寝かせつけると足音をたてないように子供部屋を出て行った。 キャンディが自分の部屋へと戻る途中、ふと、食堂に視線を向けると僅かに灯りが漏れていた。 キャンディは消し忘れたのかと思い食堂へと行くとドアの隙間からポニーとレインの話し声が聞こえた。 「レイン先生、とても悲しいことですがキャンディをそろそろ独り立ちをさせねばならない年齢になりました。」ハンカチで目頭を押さえ僅かに肩を震わせた。 レインも僅かに涙を浮かべながら・・「ポニー先生、実はわたくしも同じことを以前から考えていましたのよ。 キャンディを突き放すようで可哀そうに思いますが親としてはこのままにしておくことは出来ませんもの。 キャンディが幸せになる為にも独り立ちをさせねばならないと。。。。。。。近頃ではキャンディの傷心も癒えたようですし何よりウイリアム様がついておられるのですから。」 ポニー、レインは揺れる心を抑えながらも娘の幸せを願いながら胸の前で十字を切ると眼を閉じ両手を胸の前で組んだ。 ふっきたような笑顔を見せ・・・「えええ。。。そうですともレイン先生、あの子なら大丈夫です。 わたくしとレイン先生が手塩にかけて育ててきた自慢の娘ですもの。」 キャンディはいつまでもポニーの家でお手伝いをしながら結婚もせず生きて行こうと密かに決めていた・・・・・・・・・・・・・・が、ポニーとレインの話しを聞いたことで現実を突き付けられたようで身が震えた。 やはり昨夜のことを思いだすとキャンディの澄んだ瞳からは溢れだすように涙が次々と流れ落ちた。 キャンディは涙を拭い空を見上げると・・『アンソニー。。。。ステア。。。。強くなるわ。。だから。見守っていてくれるわよね。。。』・・と呟くように話しかけた。 幻想的にアンソニー、ステアが大空に現れると・・【キャンディには涙は似合わないよ?! キャンディ、強くなるんだ・・・・・・・・・・けして笑顔を忘れてはいけないよ・・・・・・・僕達はキャンディのことを大空から見守り続けるよ。。。】・・と、言い残しアンソニーとステアは大空から薄らと消えていった。 『アンソニー。。。ステア。。ありがとう。。。強くなるわ!』・・遥か遠い空を見上げると思い立ったように風を振り切りながらポニーの家へと走って帰って行った。 ポニーの家へと戻ると起きているだろうポニーとレインが居る部屋へとキャンディは入って行った。 「ポニー先生、レイン先生、おはようございます。」・・キャンディは暖炉の前に行くと、膝を抱えながら座った。 「まあ、キャンディ....こんなに早く起きてどうしたんですか?」目を見開き驚いているポニーにレインも首を傾げた。 「ポニー先生、レイン先生、お話があるんですが今、大丈夫ですか?」いつになく笑顔で言った。 「えええ。。。子供達もまだ起きてきませんから。」ポニーとレインは顔を見合わせた。 すっとその場を立ち上がると・・「ポニー先生、レイン先生、長い間お世話になりました。 ポニーの家を出ようかと思います。」真剣な眼差しで2人を真っ直ぐに見詰めた。 赤ちゃんだったキャンディが今、大人の女性へと成長し、チャームポイントだったソバカスも今では薄らぎ、可愛い面影から綺麗な顔立ちになった娘をポニーとレインはただ見詰めた。 だが、明らかに泣きはらしただろう顔を見てポニーとレインは胸を痛めた。 レインはポニーの心情を図り・・「キャンディス・ホワイト・アードレー!マリア様に誓い、本心から述べたのですか!」ぴしゃりと言った。 強い眼差しでレインを見詰めると・・「はい!マリア様に誓い、ポニーの家を出ます!」・・レインの目を真っ直ぐに見詰めながら背筋を伸ばした。 「分かりました。 キャンディ、一週間の猶予を与えます。 それまでに仕事、住む家などを探すのです・・・・・ポニーの家を巣立つ日にロザリオを返却なさい!」・・僅かに顔を強張らせながら言った。 「はい、分かりました。」・・我慢していた涙が流れ落ちた。 「キャンディ、あなたはわたくしとレイン先生が手塩にかけて育ててきた、可愛い娘ですよ。 たまには顔を見せなさいよ。」・・ポニーは溢れる涙を拭いもせず、キャンディを抱きしめた。 しんみりとする中、キャンディが涙を拭うと再びポニーとレインに視線を向けた。 「ポニー先生、レイン先生、もう一つ、お話があります。 黙っていようかとも思いましたがいずれお耳に入ってしまうのであれば、わたしの口から話した方が良いかと思うので・・・。」 「まあまあ、キャンディが改まった話しだなんて今度はどんなことで驚かされるのかしら・・・?」レインは不安げな表情でポニー視線を移した。 「実は、アードレー家の養女を解いてもらおうかと思うんです。」一瞬寂しそうな顔をしたが直ぐに笑顔になった。 「キャンディ、何を言っているんです? ウイリアム様からは何も聞いていませんよ? いつそのような話しになっていたんですか? それとも、ウイリアム様と喧嘩でもしたの?」レインは慌てる様に一気に捲し上げると身を乗り出した。 「違うんです! アルバートさんは、何も知りません! それにアルバートさんと喧嘩だなんてするはずがないじゃないですか。 ただ、私が勝手に決めたことなんです。」・・僅かに視線を泳がし唇を噛みしめた。 ポニーとレインは突拍子もないことを言い出した娘を見てアタフタと取り乱していた。 「ねえ、キャンディ? 落ち着きましょう? キャンディきちんと理由を教えてくれないかしら? 理由も聞けないのでは答えようがないでしょう?」・・子供をあやすようにレインが語りかけた。 キャンディは部屋を出て行くと自分の部屋へ行き幾つかの新聞を持ち外へと出るとポストからも新聞を取り、再び部屋へと戻ってきた。 キャンディは同一記事が見える様に新聞をテーブルへと並べた。 「ポニー先生とレイン先生は、私の目に触れないようにと気を使ってくれていたことは知っていました。」 ポニーは胸に手を置き、レインは額に手を置いた。 「誤解しないでください。 確かに私とアルバートさんは一緒に住んで居ました。 ですが、ここに書かれているようなことはありません!! この記事は架空に作られた記事です!! それにアルバートさんを変わり者だなんて。。。酷過ぎます!!!」唇を噛みしめながら瞳に涙を浮かべた。 「え、ええ。。。も、もちろん、分かっていますよ、キャンディ・・・・・・ウイリアム様は本当にお優しいお方ですもの。 ですがキャンディ? ゴシップにすぎないようなことで養女を解くなど間違っていませんか?」・・ポニーはキャンディの頭を優しく撫ぜた。 「ち、違うんです!! 確かに養女を解いてもらえれば少しはって気持ちもあります! アニーから聞いたんです・・・・・・・・アルバートさん、お見合いを断り続けて受け入れようとはしないみたいなんです。・・・・・・・・・・・そのこともあって更に輪をかけたように変わり者と言われ。。。。女に興味がないんじゃないかって言われているみたいなんです。。。だから養女さえ解けば変に言われなくなると思うんです。 ポニーとレインは無言のまま視線を落とすと、ポニーが思い立ったように顔を上げるとレインに向かい頷いた。 「わかりました、・・・キャンディの思うようになさい。 あなたも立派な大人なのだから、よくよく考えた上で出した答えでしょうからね。」キャンディの肩に手を置くと、にっこりと笑った。 話しが一息ついたころ、ドタバタと廊下をかける足跡が聞こえた。 3人は深いため息をつくと、キャンディがドアを無造作に開け・・「静かに、しなさ~い~!廊下は走ってはいけません!」・・子供たちはキャンディの登場にビクッと顔を強張らせると、ピタッとその足を止めた。 「いいこと? 廊下で走ってはいけないの。 もし、人が部屋から出てきたときに、ぶつかったら怪我をしてしまうのよ。 元気なのは、とても良いことだけど.走るなら外で! 分かった?」・・一人一人の頭をなでると、にっこりと笑って自分の部屋へと戻って行った。 ポニーとレインは、キャンディの姿を見て安心したように笑みを浮かべた。 「さあ、さあ、朝食の時間まで、それぞれのお手伝いを早く終わらせなさい! そろそろジミィが来る時間よ? ジミィが来て怒られても知りませんよ。」 子供たちはレインから言われ、急いで分担されている手伝いを始めた。 「もう、げんきんなものですわ・・・ジミィの名を出すだけで・・・」・・口元に手を添えて笑った。 キャンディは部屋へ戻ると急いで薄く化粧を施し、ドレスに着替えるとポニーとレインの元へ行った。 「これからシカゴに行ってきますので心配しないでください。」 「わかりました。気を付けて行くんですよ。」 「頼んでしまって悪いんですがクリンとミーナのことを宜しくお願いします。」 「もちろんですとも、早く行かないと日が暮れてしまいますよ。」 「では、行ってきます。」 キャンディが外に出ると、クリンとミーナが勢いよく走ってきた。 「あちゃ~、見つかってしまったわ。 クリン、ミーナごめんね。 これからシカゴに行かなくちゃいけないの。 クリン? ミーナ? お留守番お願いね。」 クリンがキャンディの足に纏わりつき離れようとしなかった。 「もう、クリンたら~、今日はね? 仕事とかを探さなきゃいけないのよ。 だから今日はお留守番して、ね? 次はクリンもミーナも一緒に行きましょう・・・」 理解したようにクリンは、キャンディから離れた。 キャンディはクリンとミーナを撫ぜると、急ぎ足で駅に向かった。 |
