ひろしはその夜、いつもなら残していたラーメンのスープを飲み干した。
なぜかひろしにはある予感があったからだった。
あまりのスープの濃さに何度もむせてしまったが、それでも飲み干さねばならない理由があった。
ひろしは食器を洗い、台所をはい回るゴキブリを叩き潰し、理由を考えた。
すると、ひろしの頭の中に昔あったある出来事が思い出された。
夕日が真紅色に染まった、ある夕暮れのことであった。
20年前に生き別れた双子の兄弟ボブが現れた。
ボブと再び生き別れた。
実は3つ子だったことが発覚した。
ひろしは兄弟を見つけるために旅に出た…
そして自分の名字が『野原』であることを知った。
それに加えて、ひろしの祖先は昔、野原の広がる遠い異国から来たということも知ったのである。
まず、ひろしは単身アメリカに向かった。
しかし、ひろしは英語がしゃべれない。
ひろしはスペイン語を話せる。
そこで、ひろしはスペイン語の通じやすい南部へ向かう。
すると何か懐かしいにおいのする人物に出会った。
しかし、ひろしはにおいオンチなのでそれは間違いだった。
その人物は「カルロス」という名前のみすぼらしい“おっさん”だった!!
しかし、その人はひろしの祖先の出身地をなぜか知っていた。(情報流出か?)
カルロスはひろしの父の生き別れの兄だった。
カルロスに招かれた夕食は、ひろしにとって久々のまともな食事であった。ひろしのHPがちょっと上がった。久々にひげをそり、さっぱりしたひろしにカルロスは打ち明けた。
「ひげをそったのか…昔と変わってないな。
俺もお前の父さんと生き別れる前、よく面倒を見たものだ」と言って、急に泣き出した。
すると、ひろしもつられて泣き出してしまった。
ひろしはようやく起きた。コップが倒れて顔が濡れていたのだ。ひろしは恥ずかしくなって即座にラーメン屋をとびだした。勢いあまって転んだ。ひろしは井上康生もびっくりの前回り受け身をして、それがスカウトマンの目にとまり芸能界に入った。
そうして数年が過ぎて今のひろしに至っている。「さて、そろそろ仕事に行こうか」と思って席を立った。
ひろしは数年前に見た、あの摩訶不思議な夢はなんだったのかここ数日ずっと妙に気になっていた。馴染みの信号の前で足を止める。と、次の瞬間、ひろしをある衝動が襲った。
ひろしは信号を迂回して歩道橋をわたり、先程の信号の方を見ると…
信号はある青年により盗まれている所であった。

ひろしは激怒した。友人のセリヌンティウスを信号に残し青年を追いかけた。
青年はひろしに気付き、信号を投げ出して一目散に逃げた。
ひろしは青年を追い続けた。みんなが小説を書かない間、ずっと走り続けていた。がんばるね。そしてとうとう青年に追いつき、取り押さえた。ひろしは青年の顔を見て、はっとした。
なんとその青年はカツナリだった!カツナリはなおも暴れ、逃げようとする。
正直カツナリにかつての面影はなかった。ショックでひろしの力がふっと抜ける。
するとカツナリはポケットから卓球のラケットを取り出し、ひろしに向かって投げつけた!!
ラケットが腹の辺りに接近してくる。すると、ひろしはマトリックス風に避けた。体から力がみなぎる。なんなんだこの力は…!!
…避けた。カツナリの買って1ヶ月ほどのラケットはケーキ屋さんの壁に当たって、粉々に砕けた。そこで、カツナリは振り返り、「さすがだなひろし。同い年だとしても弟に負けるのは…不覚だな…」と微笑み、ポケットから紙を取り出し、紙飛行機を作り、「おまえの探していた兄弟はこれで見つかっただろ。あとは父さんと母さんを探しな。これがヒントだ。おまえならすぐに見つけられるだろう」と言って飛行機を飛ばした。それから「さらば、愛しの大統領…じゃなかった、弟よ」と言って、川へ身を投げた。カツナリは3つ子の3人目、長男だったのだ。
すると、ひろしは背後の人かげに気がついた。
それは人ではなくひろしそのもの…
ひろしの自我同一性の崩壊が始まる…
ひろしの混乱が始まる。自分は一体何者なのか、どこから生まれてきたのか。そして、どこへ向かうのか…ひろしはつぶやいた。
「ひろしです。もうこれ以上ガマンできないとです。」
と昔流行ったネタを言ってみる。そういえば、昔「野原家」は野原の広がる国から来たんだったよな。と思い、日本に向かった。まず、大阪城公園にある我が家に帰る。そして秋の穏やかな日差しの中散歩を楽しむ。
すると、ロープがついている木を見つける。近づいていくと急に目の前が真っ白になった。霧に包まれていた。前方にかすかな光が見える。その光をたよりに歩いていくと、大きな桜の木が満開に咲いていた。よく見ると、先程見たロープがついている。それには女性と思われる死体がぶら下がっていた。遺書が足元にあった。そこに書いていた名前を見てはっとした。 「カツナリ、ボブ、ひろしへ」とあり、「私には保険金6000万円がかかっています。このお金を3人で分けて暮らしなさい。 野原 向日葵」と書いてあった。涙がこみ上げてきた。母は命を削ってまで自分たちを守ろうとしてくれたのに、僕はカツナリ一人すら守れなかった。自分が情けなくなった。桜の根元にロープが落ちていたのが目に入った。自分の生きる意味が分からなくなり、手にとって見た。
……………ひろしは母の隣で深い眠りについた。 (完)


