ポトスライムの舟
小説というのは、作り物っぽいところがあまり好きではないのだが、「ポトスライムの舟」というのを読んで、なんかとてもリアリティを感じてよかった。
芥川賞をとった津村記久子さんの作品だ。
非正規雇用者として3つの仕事を持つ29歳独身女性が主人公で、そのうちの1つである、契約社員として働く工場での年収163万円と同額で世界一周旅行ができると知り、それを目標に貯金を始める話だ。
この作品自体のストーリー自体は、「今の若い人の生き方、考え方がこんな感じなのかな」と思わせる程度で、私には、現実感覚がないのだが、そこに登場する人々の描写がとても印象的なのだ。
中でも、主人公の友達で、夫のDVのために家出をし、主人公の家に居候する女性の小学校前の娘と主人公の母親との関係には胸が締め付けられた。
こんな描写は誰も考えつかないだろうし、実話なんだろうなと思う。
この小説の全体を読んで、芥川賞の価値があるかどうかわからないのだが、この小学前の娘に関する描写は、やはり芥川賞ものだと思った。
私の文章ではこの小説の中にある切なさは伝わらないのと思うので、ご興味のある方はご一読を。
この少女が、一人でいるときに図鑑をずっと眺めているという描写は、私の琴線に触れてしまいました。私には、そこだけで、もう、「芥川賞!」という感じです。