ここから先、数回、義母と嫁であるiku-sas の

全く美しくない関係性を書かねばならず、猛烈な遅筆癖がある私はなかなか取り掛かれなかった。


ユメ子とiku-sas は、もともと出会い方がアレであった。

熟年婚活で出会って半年のiku--sasに結婚を前提に考えている、早めに親に会わせたいと言った長男。その後、右目の白内障手術で失明したら障がい者になって迷惑をかけるだろう。会社の業績が伸び悩んでいて、失業するかもしれない。逆に繁忙期がスゴくて落ち着いて親に説明できない。日が悪い。親が体調崩した。尻がかゆい(これは無かったか?)。等々、あらゆる言い訳と野良猫のような不機嫌発動を駆使して、なんと4年も、親との対面を引き延ばした。その間にiku-sas は、婚活を始めるきっかけとなる母との死別から3年目に、総胆管癌の発見から4年生き延びて力尽き、実家仕舞いまで済んでしまった。

変なところが異常に辛抱強いiku-sasも(神奈川と北海道を行き来する遠隔介護と昇格試験浪人もあり、じっくり考えられなかった時期も終わり)、さすがに「これはダメだ」と思い至った。

勤め先の社有社宅の廃止時期の退去勧告を盾に、長男に関係の見直しを迫る。「本当に結婚する気なのか、ここで別れるか?こちらも住む場所を探す手間もある。早急に判断されたし。」

苦悩する長男。こちらはさっぱり意味が分からないわけだが、50代の男が長年婚活を続けて見つけた相手を親に紹介するのはそんなにハードルが高いのか?

退去期限の3ヶ月前、物件探すなら、ギリギリだ。

すると長男「結婚するために親に会ってほしい。」

おせえよ!これから会って、同居結婚まで持っていくのは厳しかろ?せめて親とは近所別居で徐々に馴れてから同居の判断だよな?まずは、挨拶だ、挨拶。

ところがだ。挨拶の日程が決まらない。「うちの母が週末に用事入れていて」「前々からの友人約束がずらせない」

「仕事の緊急対応が」結局、顔合わせは退去期限の1.5ヶ月前の、天気の良い日曜日であった。


緊張して家の前に立つiku-sasに対し、長男は、いつもより化粧が濃いことをからかった。神奈川西部の一軒家、

呼び出しチャイムに「はぁい」と言いながらユメ子登場。綺麗に染め上げた栗茶の髪に赤い口紅を差した口の口角をキュッと上げて、小柄な若見え自慢の後期高齢者はiku sasを迎え入れた。


こだわりの洋食器のカップ&ソーサーで紅茶を出しながらユメ子はさりげなくiku sasを観察する。(息子は母と比べて他の女性の足りない所を指摘するわりに、この子、以前『カノジョ』と言い、太っている女の子が好きなのよね) iku-sas もその前例に漏れず、むっちりと肥えていた。顔は、まあ割りと根性は良さそうね。ぼーっとした顔だけど、受け答えはちゃんとしてるわね。大きい会社にお勤めと言っていたから、その辺はしっかりしてるのかしらね?


ユメ子は話す。「この子(長男)、昨日になって突然、連れてくるのは女性、結婚の挨拶に来る。なんて言うのよ。もう、びっくりしちゃって。うふふ。」

iku-sas は驚いた。まさか前日まで『誰に』会わせるかも言わずにアポ取っていたのか!それで、ただの(同性の)友達を連れてくると思い、日程調整を後回しにされた?


ユメ子「でも、良く聞いたら、もう4年もお付き合いしているんですって?なんで早く紹介しないのよ、この子ったらぁ」

iku-sas はぐるぐる考えを巡らす。いや、これも好機、こんなに突然の突撃、落ち着いて慣れる時間が欲しいと、結婚も、ましてや同居も無理となり、お付き合いを継続する上で、この近所に引っ越しすると言うことで、引っ越し代のいくらかを長男にカンパしてもらおう。交際事態が、懸案になるようなら、「私の時間を返してよ!」でマンションの頭金ぐらい賠償もらっちゃえ。


ユメ子「社宅の退去が…え?来月末?もうすぐね。たしかにうちの2階はひとつ客部屋があるけれど…。」

思案げに頬に手を当てた。これを拒否したら、息子が結婚することは生涯無くなってしまうだろうか。

「じゃ、来月末に引っ越してくると言うことで、部屋を片付けておくわね!」


iku-sas の想定の斜め上を行く回答だった。

大学入学時のアパート探しのような急転直下の進展。しかしiku-sas も40代半ば。「何言うてまんねん!」と断れば、納まるところに納まるチャンスは、もう来ないかもしれない。


iku-sas 「ありがとうございます!よろしくお願いします。」


ユメ子とiku-sas 、初対面1時間弱の会談を経て、健やかなるときも病めるときも同居することを決断する。


この家には、自分の都合でしか動かない男と、ふたりの女博打打ちしか居なかった。