私がこの映画のことを知ったのは、今年3月9日の中日新聞13面からでした。大川小での惨事や裁判のことは、発生直後から「こんなことがあってはいけない」「救えた命だったのではないか」と、心を痛めつつ河北新報などをチェックして承知していたのですが、第2審の判決で安堵した部分があり、その後、関心が薄れていたのは否めません。

 一方、映画についてはTVからのダビングが貯まりに貯まって3000本近くに達するほど、映画好きを自認してきたのに、大川小+映画の組み合わせには、“うかつ”にも全く気づいていませんでした。

 

 これはさっそく観なければ、と探したところ、近くで一番早いのが3/22の刈谷日劇と知り、3/24には当事者の吉岡弁護士が舞台あいさつに立たれるとの知らせもあったため、その日の席をネットで予約しました。こんな映画に妻が刈谷まで付き合うとは思えず1枚だけ。ところが前日になって話したところ、「また物好きに」とあきれるかと思っていた妻が、意外にも「ついてってもいいよ」というのです。市の保育園長を勤めたことがある妻にも多少は思うところがあったのかもしれません。

 最初にチケットを取ったときにはなんと5席くらいしか埋まっておらず、1列目の真ん中(A-5)がすんなり取れました。追加したときも隣のA-4が取れ、ラッキー。しかし、席は相変わらず埋まっておらず、「こんなもんか(=こんなことに関心を持つ人は少ないのかなあ)」と少々驚いたものでした。

 

 上映当日は雨。駐車場もがら空きだったため余裕を持って入場。係の人(支配人?)に写真撮影の許可を求めたところ、「そこも含めてあとでお伝えします」との返事でした。予約時には10席程度しか埋まっていなかった席は徐々に埋まり、このとき、ほぼ満席になっていました。

 

 映画の内容についてはあまり書けませんが、元フジテレビの笠井アナが「TVと違って、映画の描写力はやはりすごい」と羨ましがっていたように、ここでしか観ることのできない場面が数多く出てきます。なかでも遺族が不信感を募らせる原因となった保護者説明会や検証委員会でのやり取りも生々しく活写されています。それもそのはずで、画像のほとんどは遺族自身が撮り貯めてきたものが再編集して使われているからでしょう。

 

 しかし、予告編だけ観ると遺族が一方的に行政側を糾弾するような映画と取られるかもしれませんが、全編を通せば決してそんな映画ではなく、やむなく裁判を起こさざるを得なかった遺族の悩みや苦しみ、葛藤などが冷静に描かれた映画だと思います。

 

 こんなドキュメンタリー映画にもテーマソングがあるんですね。最初、Youtubeで聴いてみても、正直、さほどどうとは思いませんでしたが、不思議なもので、2時間観たあと、「大空の果てから 駆けて来てよ」「もう一度だけでいいから 思い切り抱きしめたい」とエンドロールから流れてくると、改めて、子を失った親の悲しみの深さに打ちのめされてしまいます。

 歌詞は「聞こえてくる あなたの声は 泣いてる私を叱ってる」と続き、タイトルの「生きる」の意味につながっていきます。

 

 上映後、あいさつに立たれた吉岡先生のお話は20分以上にも及びましたが、席を立つ人はなく、法律などに馴染みのない我々にもわかりやすく興味深いものでした。ついでに言えば、パンフレットに印刷された主題歌『駆けて来てよ』の作詞・作曲者の名前は主任弁護士と同じ、つまり、弁護士の吉岡先生が主題歌の作詞・作曲までされていたのです。そのことを指摘された先生は「いやあ金がなかったので僕がやったんですよ」と笑っておられましたが、そうではなく、そうしたご趣味か特技がおありなんだと私は確信しました。そもそも監督に映画のことを持ち掛けたのは先生だったそうで、単に弁護士の仕事だけでなく影のプロデューサーでもあったわけです。

 

 わざわざ映画館へ出かけても、ガッカリする映画が多いなか、この映画は十分に料金以上に価値のある映画だと確信できました。出かける前から地元での「自主上映」を考えていた私は、パンフレットにサインをもらったあと、吉岡先生にそのことを伝え、「それはぜひ」とのお言葉もいただきました。

 私の前でサインをもらった男性は、「新任の校長です。ぜひ仲間にも観てもらいたいと思いました」と伝えておられました。サインをもらったすべての人が何かを先生に伝えたくなる。そんな「映画の力」みたいなものが確かにあるんだ、そう実感した時間でした。

 

 いい映画を観たあとは、何かふんわりとした余韻に包まれて、あまりほかのことはしたくない、他ごとをしていても何か余韻を感じてしまうのは私だけでしょうか。

 

 今、齢七十一にして無謀な道に挑んでいる私の背を押しているのは、強い決意とか使命感などではなく、この時の、ふんわりとした不思議な気分です。

 

 

                    吉岡先生と呼びかけ人

                    2024.3.24 刈谷日劇ロビーで