ネタバレ注意。
主人公の名前は「かな」です。
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私はひとり安土城の廊下を進みながら、深く息を吸った。
(緊張する……。でも、それだけじゃない)
久し振りに安土城へと戻って、「ただいま」と言いたくなっている自分がいる。
幸村と生きていくことを決めた私は、春日山城でお世話になることになった。
京から真っすぐ越後へ向かうつもりだったのだけれど…
(まさか、旅の途中で安土城から遣いが来るなんて思わなかった)
受け取った文は、秀吉さんからのもので…
『ちゃんと一度顔を見せに帰って来い』と書いてあった。
(手紙で怒るなんて、ほんとにお兄ちゃんみたい。って、のん気なこと考えてる場合じゃないけど…)
私は京へ発つ前に、秀吉さん達にもう戻らないと伝えた。
詳しい事情は話さなかったけれど、幸村と並ぶ私を見て、誰も何も聞かないでいてくれた。
(きっと皆、私と幸村の関係も、これから敵側の城へ向かうことも、気付いてるよね…)
顕如を捕えた今、織田と武田上杉の同盟は解消された。
(私はこれから織田軍の敵になる…。許してもらえることじゃない。でも……お別れの前に挨拶させてもらえるなら、しておきたい)
そう考えて、私は越後へと向かう途中で、幸村と一緒に安土へと立ち寄ったのだった。
幸村は、城の外で待ってくれている。
(ちゃんとけじめをつけて、幸村のそばに行こう)
決意を固めて、広間の襖を開くと…
三成「お帰りなさいませ、かな様」
(三成くん…)
待ちかねたように、三成くんが駆け寄ってくる。
三成「よくぞご無事で…。またお顔を拝見できて安心しました」
「っ…三成くんも、元気そうだね」
蕩ける笑みを見た途端、緊張がすっと解けていく。
秀吉「こら、三成。かなをひとりじめするな」
三成「あ…失礼いたしました。かな様、どうぞ奥へ」
「うん…」
広間には、織田軍の武将達が全員揃って、私を待っていた。
光秀「…来たか、小娘。敵将をたらしこむとは、なかなか見どころのある女だったんだな、お前」
「た、たらしこむって…」
政宗「今さら照れんな、かな。お前がさらわれて幸村が顕如のところへ単身乗り込んでった時、さすがに気づいた」
(っ…やっぱり皆、事情を全部知ってるんだ。知ってて……ここへ来いって言ってくれたんだ)
政宗「にしても、いつの間に幸村とそういう仲になってたんだよ、お前」
「ええっと、色々ありまして…」
秀吉「やっぱり俺の勘は正しかったみたいだな。当たったことが残念だ」
(え……)
秀吉「とにかく、ちゃんと顔を見せに来たことは褒めとくか」
腕を伸ばして、秀吉さんが私の髪をぽんっと撫でた。
「勝手に、ここを去ると決めたこと、怒ってますか…?」
秀吉「……いや。ただお前が無事だってこと、確かめたかった」
(それで、わざわざ遣いを……?)
広間を見渡すと、温かな目線が返ってくる。
上座に座る信長様も、黙ったまま、かすかに微笑んでいた。
そういえばいつの間にか、この人を怖いと思う気持ちも消えていた。
(気づかないうちに、私、この人達のことも大好きになってたんだな…)
注がれる優しい眼差しが、私の胸を熱くしていく。
「皆さん、お世話になりました。本当に…」
涙がにじんで、慌てて目元をこする。
「別れる前にご挨拶できて、嬉しかったです」
家康「何、勝手に泣いてんの」
「それは…最後だと思ったら、寂しくて…」
家康「最後にするかどうか、決めるのはあんたでしょ」
「え…?」
家康「幸村は敵だ。気に入らない。でも…あんたは別に、これから先も敵じゃない」
(家康さん……)
「私のこと、仲間だって思ってくれてたんですか…?」
家康「っ……仲間って何…。よくそういう恥ずかしい言葉、平気で言えるね」
(う、手厳しいのは相変わらずだな)
家康「でも、まあ…だいたい、そんな感じでしょ」
「っ…ありがとうございます」
初めて見る家康さんの笑みは、花がほころんだように柔らかい。
(越後へ行ってしまう前に、ここへ来て良かった…)
信長「――…かな」
「は、はい…!」
脇息にゆるりともたれ、信長様が私を見据えた。
信長「幸村には今回、顕如討伐で借りができた。駄賃代わりに、貴様は奴にくれてやる」
(駄賃代わり……?)
「あの……その言い方、もう少しどうにかなりませんか、信長様」
信長「細かなことを気に病むな、かな。そもそも…幸村とともに行くのは、貴様の意思なのだろう?」
(それは……)
「……はい、私の意思です」
射るような眼差しを、私は真っ向から受け止めた。
(寂しいけど、迷いはひとつもない)
信長「ならば行け。どこで生きようが、貴様が俺にとって、幸運を運ぶ女だということは変わりない」
(信長様……)
信長「息災でいろ、かな」
「……はい」
私は広間の皆を見回し、深く頭を下げた。
こぼれた涙に気づかれないようにと願いながら。
皆と別れ、城の外へ出ると…
幸村「……よー、お帰り」
(幸村…)
石垣にもたれて、幸村が私に手を振った。
「……うん、ただいま」
寂しかった気持ちが、幸村のひと言に、優しく包まれる。
駆け寄ると、幸村は当たり前のように私に指を絡めた。
真っすぐ外へは向かわずに、少し遠回りして、城下町を歩く。
幸村「……泣いた?目、赤いけど」
-選択肢-
ちょっとね ◎
「…ちょっとね」
幸村「……そうか」
そっと繋いだ手を引き寄せ、幸村が身体を屈める。
(あ…)
幸村「これから泣く時は、俺のそばで泣け。……約束な」
「うん…」
幸村の温もりを感じるうちに、涙はすっかり乾いた。
(寂しいけど、寂しくない。私は、色んなものを手離すことにしたけど…それよりもっと沢山のものを手に入れたから)
ふたり並んで町を巡りながら、思い出が胸に溢れだす。
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幸村「そんなに食いたいのかよ、金平糖」
「いや、そうじゃなくて…」
幸村「しょうがねーな、口開けろ。これで許せ。美味いか?礼はいらねーから」
「お、お礼なんていうわけないでしょ!恋人でもない相手にこんなこと…っ」
幸村「何怒ってんだよ、お前」
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商人1「恋人かい?ずいぶん可愛い女子じゃねえか」
幸村「は?」
「えっ」
商人2「こんなにめかしこんで逢いに来るとは、けなげだねえ」
幸村「っ…な、ちげーよ!」
「そ、そうです、そういうんじゃないですから!!」
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幸村「お前はほんと、変な女だよな。変で、バカで、たまにイノシシみたいで…で、時々なんか、すげー眩しい」
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幸村「ったく、はぐれんなつっただろ」
「だって…」
幸村「来い。……手、離すなよ」
「うん…。絶対、離さない」
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この町のいたるところに思い出が溢れている。
その全部に、幸村がいた。
「……ねえ、幸村」
幸村「んー?」
「私、幸村に出逢えて…本当に良かった」
幸村「は…?っ…んだよ、急に」
(照れてる…。こういうとこ、恋人になっても相変わらずだな)
横顔を見上げながら、嬉しくて、微笑まずにはいられない。
幸村「……お前、強がってねーだろうな?」
「え?」
幸村「俺にとってこれから、織田軍は宿敵で在り続ける。だけど…お前と出逢った今は、刀を振るって戦う以外の未来もあると思える。お前にとってあいつらがどれだけ大事かは、わかってるつもりだから。……そばを離れて寂しいってお前が思うのも、当然だ」
「……うん、寂しいよ」
幸村「…………」
「でも、寂しくてもいいの。私は自分で、幸村と一緒にいることを選んだの」
幸村「かな…」
「これからは、幸村のいる場所が、私の帰るところだよ」
幸村「……そうだな」
足を止めて、幸村が大きな手のひらで私の髪を梳いた。
少し乱暴だけれど優しい仕草が、寂しさをどんどん、埋めていく。
(こんなに幸せなことって、ない)
幸村を見上げていると自然と笑みがこぼれ、自分の気持ちを伝えたくなった。
「……幸村」
幸村「ん?」
「大好き!」
幸村「っ……ったく……」
幸村は耳まで真っ赤にして、笑って…
(わ……っ)
背中から、私の身体をたくましい腕の中に閉じ込めた。
「な、なに」
幸村「お前は…こーいうとこで、そういうこと言うな。抱きしめるだけじゃ足りなくなるだろうが」
「ええ…っ、駄目だよ、何いってるの」
幸村「冗談だ、バーカ」
肩越しに私を覗き込む幸村の顔には、力強い笑みが浮かんでいる。
幸村「これから言うこと、忘れんなよ」
(え…?)
幸村「お前を幸せにすんのは俺だ。だからお前は俺を幸せにしろ。隣で笑ってくれてればいい。お前は、それだけでいいんだ」
(幸村……)
囁かれたひと言ひと言が、胸の奥の深くまで響いて溶けた。
「うん…」
幸せに満たされて、幸村の頬にそっと口づけする。
応えるかわりに、抱きしめる幸村の腕に優しく力がこもっていく。
(きっと私は、何があっても笑っていられる。幸村と一緒なら、いつだって)
唇を離したあと、幸村の頭の向こうに高い高い空が見えた。
晴れ渡って果てのない青空を見上げながら、私は…幸村とふたりなら、どこまでだって、行けそうな気がした。
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なんか一生ほのぼのして終わったwwww
色々つっこみたいけど、もうなんか、いいや。笑
間あけすぎててすみませんー!!
秘密ENDはいつも通りアメ限にします!