ikeeeeeymさんのブログ

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4月に入社して、早一ヶ月。

研修も後半に差し掛かり、
やっと会社にも研修にも慣れてきた。



私の勤めている会社はIT業界の
所謂大企業と言われるところで。

大学は文系で、情報系の授業なんて
全く取っていなかったけど、
IT、というフィールドも扱うものも幅広く
可能性が広がっているところに魅力を感じて、
この業界に飛び込んできた。



大きな会社なだけあって研修はしっかりしていて。

この業界で働くためには必要な
基本的な知識をつけるための研修は、
レベルごとにクラス分けされ高校の授業みたいだ。




「高梨(たかなし)さん!」

同じクラスの、大学時代にミスコンに出てたくらい
可愛い女の子のひかりちゃんが割と大きな声で呼んだ。

「ん、どうした?」

「ここ、わかんないんですよぉ。
教えて下さい。」


しょうがねぇなぁ、
とか言いつつ丁寧に教えてるのは

うちのクラスの“先生”でもある高梨さんだ。

ちょっと変わってるのかわからないが、
うちの会社では研修の先生は
だいたい7.8年目くらいの現場の社員が行う。

この期間が終わるとまた現場に戻っていく
期間限定の先生である。


高梨さんは今年で7年目になる先輩で、
背が高く、爽やかな印象の見た目だけど
物事はズバズバ言い、それでいて面倒見はいい。

いかにもモテそうなタイプ。


そしてひかりちゃんは
高梨さんにわかりやすくアピールしてる。






----------------



「んー、疲れた~。」

と、伸びをしながら独り言を呟いた。


研修中は毎日のようにテストがあり。

今週末には一つの
大きな区切りを迎えるということで、
まとめのテストがある。


同期の中には全然勉強してない人や
勉強する気のない人も何人かいるけれど、
私は元々何も知識のないところから
スタートした分野だし、

何より勉強しないでテストに挑むというのが
できないタチなので研修終わりに
会社から数駅離れたところにある
カフェで毎日勉強していた。





「あれ、佐伯(さえき)?」


ふと、話しかけられて振り返ってみると
高梨さんが横に立っていた。


「え、あ、高梨さん、なんでここに?」


びっくりしたのもあるし、
勉強中に先生に会うというのはなんか少し
恥ずかしいもので、どもってしまった。


「ここの駅、俺の最寄りでさ。
お前は今週末の勉強?偉いなぁ。」

「元が何も知らないとこからだったので。
それに、どうせやるならいい点とりたいですし。」

「へー、じゃあなんかわからないところが
あったら教えてやるよ。」



…え?


いや、あの、と否定する前に高梨さんは
私の前の席に座った。




そして、やはり有難いことにいてくれると
勉強は捗り、気付けばほぼ毎日
カフェ勉強には高梨さんが付き合ってくれた。





「佐伯はさ、彼氏とかいねぇの?」


ふと、勉強が休憩モードに入ってる時に聞かれた。

「えっと、いないです、はい。」

「じゃあ、俺とこうやって2人で会ってても
問題ないわけね。」


なんていうか、
高梨さんは先生って意識があって。

男の人と2人で会ってるって考えたことがなかった。


けど、改めてこう言われると…。



「なぁ、佐伯。
テスト終わったら2人で打ち上げしよーぜ。
なんか奢ってやるよ。」

「え、でも、それ私だけだとずるいというか、
クラスのみんなに申し訳ないですし…。」

「んな、全員に奢ってやる金は流石にねーよ。
それにいいの、俺はお前と行きたいんだから。」


「えっと。

それって、デート、みたいな感じになりませんか。
私と高梨さんは、先生と生徒、ですよ…。」


自分でも語尾が小さくなっていくのがわかった。


そして、高梨さんはその後コロッと話題を変え。
それ以上その話には触れてこなかった。





----------------




「じゃあテスト返すぞー。」


週も開け、
先週末にやったテストが返ってくる。


高梨さんのお陰で、手応えもある。



「返す前に1位だけ発表するな。

一位は…………



来栖(くるす)。」



きゃーーーっと、ひかりちゃんが
嬉しそうな悲鳴をあげた。



あー、一位は無理だったかぁ、
と割とショックを受けながら
答案用紙を受け取り、愕然とした。


「…回答が、途中から1個ずつずれてる。」


1つ、あとで解こうと思ってた問題をあけて
続きを解いた時に、その後の回答欄が
ズレてしまったみたいだ。


答え合わせをし、
これがなかったら一位だったのに、
と自分が悪いとわかりながらも愚痴が溢れる。






ひかりちゃんが、答案用紙を自慢気に掲げて、

「高梨さーん、私頑張りましたよね!
これなら彼女にしてもらえますか!」

と、笑顔で駆け寄っていった。


「まあ、頑張ったけどなぁ、
馬鹿言うなって。
俺らは一応、先生と生徒、って関係なわけ。」

「えー、でも学校じゃあるまいし
いいじゃないですかぁー。
ってか高梨さんって
どんな人がタイプなんですかぁー?」


うわぁ、これは聞きたいような聞きたくないような。


「んー、そうだなー。
負けず嫌いで、努力家で、
本当は誰よりも努力してるのに
そういうところは見せなくて、
しっかりしてるんだけどたまに抜けてて、
回答を一つずつずらして書いちゃうような
ちょっとドジなところがある子。」


って、それって。



びっくりして思わず視線を向ければ、
ニヤッと、悔しいくらいかっこよく笑って

「覚えとけよ」

って口パクで言った。


そりゃあ、同期がこれだけ集まる
研修も楽しいけれど、

ドキドキが止まらない心で
研修早く終わらないかなぁ、
と願わずにはいられなかった。





「うわぁ、すごい。」

と、咄嗟にそれ以外の言葉が
出てこなかった自分がいやになる。

とはいえ、すごいものはすごい。

私のやっているテニスとは
競技が違うんじゃないかとさえ思えてくる。


大学入って試合に出てみて
まずびっくりしたことは、
サークルのテニスだと観客がとても近い。

たまに選手の邪魔になるんじゃないか、
とも思えるくらい。


でも慣れてしまえばこんなに近くで
応援できるのもいいなぁ、と思ってみたり。





「応援来たよ、頑張ってね。」

チェンジコートの時に試合に出てる
同じサークルの早瀬(はやせ)に声をかけにいく。

「おお、美緒(みお)、おせーよ。」


早瀬とは同じサークル、同じ学部、
おまけに同じ路線を使ってて。

自然と仲良くなった。


普段は目立つことならなんでもやり、
みんなのムードメーカー的な存在なんだけど、
こうやってテニスをやってる時は
上手くてかっこよくて、今だって決勝の舞台にいる。

そうなると要するに、モテる。

 




「1ブレークされてるんだね、次大事じゃん。
頑張って、絶対キープしよ。」

「おお、任せろよ。
俺美緒が見てると更に上手くなる気がするんだよね。」

「またふざけたこと言って、本当に決めてよね。」

「だから任せとけって。
なんならサービスエース決めてきてやるから見とけよ。」

って、ちょっとピンチのこの場面を
楽しんでるみたいに
早瀬は笑ってコートに入ってった。

美緒が見てると、なんて
冗談でもそんなこと言われると
乙女心に響いてきてしまう。





そして、早瀬のその直後のサーブは。

もの凄いスピードどエグいコースに入り、
相手の選手は全く反応できなかった。



そして決まった瞬間早瀬が
斜め後ろで見てた私に振り返り、

「な、言っただろ?」

なんて、自信満々の顔で言うもんだから。


しかも、更に少し近づいてきて、

「美緒がいると俺は無敵だよ」

なんて、いたずらっぽく笑って言うもんだから。



私はドキドキした心臓を抑えられずに、
しばらく真っ赤な顔で応援していた。