「先日、新しい美を提案してゆくために力を貸していただけるクリニックスタッフを募集しました。
約60人もの方々にお集まりいただき、説明会を開きました。
それぞれにお話をうかがいましたが、クリニックで働くことに強い情熱を持っている方ばかりで感動しました。

ハッキリ言って、全員いっしょに働いてほしいと思ったのですが、
さすがに60人はクリニックに入りませんので……(笑)。
本当に残念でしたが、一般教養の試験と3度にわたる面接を重ね、
最終的に経営スタッフ全員が集まって選考会を開き、1/10程度まで絞らせていただきました。

きわめてレベルの高い選考会でしたので、残っていただいたスタッフの方々とともに、
これからどんなことができるのか楽しみでなりません。
スタッフの方々にはごく基本的な3つの約束をしていただきました。

●人に会ったらあいさつをする
●天使になって患者様に尽くす
●怒らず働く

池田ゆう子クリニックでは、患者様に愛を与えることを第一に考える。
スタッフの方々にもその趣旨をよくわかっていただけたと思います。
すばらしい看護スタッフに恵まれ、最高のすべり出しになりました」

オープンの準備が整ったクリニックにふらりと池田を訪ねた。
JR渋谷駅をハチ公口から出て、線路沿いに歩く。
若者たちがタワーレコード前で立ち話をしている。
陽気な春休みの雰囲気に足を止め、目の前にあるビルを見上げると、
取材中に池田がこだわりを語ってくれた『池田ゆう子クリニック』の斬新なロゴが目に入った。

ビルの8階。エレベーターの扉が開き、1歩前に踏み出すと、そこにはビルの外観からは想像もできない空間が広がっていた。
ホワイト、シルバー、そして池田のフェイバリットカラーであるディオールピンク。
ほぼ3色で統一された院内は、病院というよりむしろ、マンハッタンあたりのインターネットカフェを思わせる。

昼食にでも出たのか、人の気配がしない。とりあえず、院内を歩き回ってみることにした。
なにもかもが真新しい院内だが、よく見ると、待合室のテーブルは奥深いデザインのアンティークだったりする。
新しいだけでも、古いだけでも満足できない、池田の性格をよく表していると思う。

窓際のほうに足を向けた。3月の柔らかい日の光が降り注ぐ部屋。
窓から眼下に目をやると、線路をはさんで向こう側に、まだ冬枯れの宮下公園。
春休みの子どもたちがサッカーボールで遊んでいる。

さらに奥の部屋に入ろうとしたとき、突然人の気配を感じた。
「先生、いたんだ。誰もいないかと思った。勝手に院内見学させてもらいましたよ」
池田は1番奥にある院長室で、物音もたてずに本を読んでいたのだった。
彼女が手にしている古びた本は、『ジェイン・エア』。シャーロット・ブロンテの傑作だ。

「久しぶりに読みたくなって。もう4回くらいは読んだかな。1番最近読んだのは、父が亡くなったときです。
ジェインは孤児であり、わたしなら耐えられないほどの苦しい人生を歩むのですが、
どんなことがあっても、純粋で美しいままなんです。
それに、ジェインをつねに導く青年セント・ジョンに、父の姿を重ねずにはいられないんです」

かくいうわたしも『ジェイン・エア』を愛読していた時期があった。
ジェインの生き方がわたしたちに提示してくれるものはとてもシンプルだ。それは、「情熱」。
類まれに純粋で、憎むときも、愛するときも、
つねに全力で突き進むジェインという人間の姿にわたしたちは心を動かされる。

池田は「人は人を愛するために生まれてきたんだ」と、よく口にする。
池田がこの本の発刊を、父の命日である4月13日にこだわったのも、愛する人への強い思いからなのであろう。
彼女のひたむきな生き方、まっすぐで飾らない人との接し方を見ていると、
それこそジェイン・エアを思いださずにはいられない。

池田は窓の外を見つめている。公園の向こうの歩道には、人々がせわしなく行き交っている。
あの雑踏のなかに、これから池田と出会う人がいるのかもしれない。
今は見知らぬその人に、彼女はまた身を乗り出して熱い想いを語るのだろうか。

人は人を愛するために生まれてきたのだ、そして何よりも愛されるために生まれてきたのだ、と。
最後にあらためて『池田ゆう子クリニック』が掲げるテーマについてご説明したい。

●NO AGE
「『美』に年齢は関係ないんです。人間の冒険心や探究心はいくつになっても衰えません。
読書、音楽、絵画、ファッション……自分が興味を持てることや価値を感じることを大切にし、
追求し続ける人間はいつも美しい。いわゆる『守りに入る』ことなく生きていくべきです。
わたしは、いつも美しくありたいと思う女性の力になりたいと思っています」

●年を重ねるほどナイスバディ
「池田ゆう子クリニックではとくに『脂肪吸引』に力をいれていきます。
身体全体の余分な脂肪を取り除き、脂肪細胞を減らすことにより、脂肪じたいがつきにくい身体を作るのがねらいです。
人間の身体は、年をとればとるほど余分な脂肪が付きやすくなります。
ところがあらかじめ必要のない部分の脂肪を吸引しておけば、自然とバストに脂肪が集中するようになり、
適度な脂肪がつくことでますます女性らしい身体になっていくというわけです。
わざわざ食塩バッグを入れたりする必要はありません」

●環境と愛で美しくなる
「2000年の11月、日本赤軍最高幹部の重信房子容疑者が逮捕されました。
彼女の政治活動の良し悪しはともかく、明日を変えようとして活動していた20代の彼女は美しかったと思います。
しかし、逃亡生活を続けた末に逮捕されたときの重信容疑者、残念ながら見るに耐えない姿でした。
逃げ続けなくてはいけないというプレッシャーは間違いなく彼女の精神をねじ曲げたことでしょう。
逮捕されたときの彼女の目は他人に愛される喜びを捨て去ってしまった人のものでした。

彼女の心の奥底が理解できるわけではありませんが、
『温かい環境』と『愛』を欠いた人間に健全な精神が宿るでしょうか。
はじめに申し上げた通り、手術だけで人生がかわるわけではないのです。
外科医としてもちろん手術はしますが、
美しくなるためには周囲の環境や愛が不可欠だということを説いていきたいと思います」

●装飾も下着もいらない美
「叶姉妹の例をあげてすでに説明した通りです。全体のバランスがとれてこそ人は美しいのです。
巷の巨乳ブームなどに踊らされないことが大切です」

●『ハードかわいい・エキゾかわいい』
「わかりにくい言葉かもしれませんが造語しました。
10代の女のコたちはなにを見ても『かわいい!』と言ってしまうのがクセのようですが、これからは言い直しましょう。
これからは『ハードかわいい』かつ『エキゾかわいい』が主流になります。

説明するのが難しいのですが、『ハード』でイメージされるのはブランドでいえばクロムハーツ、
女性でいえばマドンナです。
同じく『エキゾ』のイメージはブランドでいえばクリスチャン・ディオール、歌手でいえば中島美嘉さんですね。
表面だけでない、深みのある女性にこそ新しい美の形を感じます」

●クロス・ハート・ブーツ
「池田ゆう子クリニックのイメージを表すアクセサリー類です。
クロスは『十字架、天使』のイメージ。ハートは『愛』を表します。ブーツは美しい肉体を包み隠す『魅惑』のイメージ。
わたし自身、クロスやハートのアクセサリーをつけ、ブーツをはくことが多いんです。
これからわたしが出会う多くの人たちに、少しでも美や愛について考えてほしいと思って。
「死の恐怖がセント・ジョンの臨終を暗くすることはありえず、彼の精神は一点の曇りもなく、
彼の胸は恐れを知らず、彼の希望はゆるぐことなく、彼の信仰は堅固であろう」
(C・プロンテ「ジェイン・エア」中央公論社)

「昨年、父が世を去りました。わたしは幼いころから父の生き方を間近で見てきました。
医師になろうと思ったのも、医師にはなりたくないと思ったのも、父の姿を見てきたからこそでした。

昼も夜もなく働き、わずかの合間を縫ってわたしを外界に連れ出してくれた、精力的な父を心から尊敬していました。
父のような医師が身近にいなかったなら、医師の道を歩むことも思いつかなかったと思います。

そのいっぽうで、気の休まる暇がない父の生活を見て、
『わたしにはぜったい真似できない』と思っていたことも事実ですが、
すでにお話ししたように、最終的に医師の道を選ぶことを決めたのも、やはり父の言葉がきっかけでした。

苦しいときも『父ほど責任感の強い医師が、わたしに医学の道を歩めと言うのだから、
わたしには他人の人生を背負うだけの素質があるはず』と自分に言い聞かせて勉強に励みました。

尊敬する人は誰か? と聞かれたら、わたしは迷わず、両親だと答えます。
父はわたしの心の支えであり、人間としての理想像でした。

父が亡くなってから、しばらくなにもやる気が起こりませんでした。
仕事から帰ってきて、ボーっとしながらテレビ画面を眺めていると、『情熱』という曲が流れてきました。
愛する人への情熱を感じたらもうとどまることはできない、そんな内容の歌詞だったと思います。

少しだけ、やる気が出ました。
果菜子を連れて前夫のもとを飛び出し、医師の道を選んだときから、わたしの運命は動き出したんです。
もうわたしだけの人生ではない、弱気になってとどまることは許されない……」