令和元年12月に金融庁の「金融検査マニュアル」が廃止されてから三年が経ようとしています。この「金融検査マニュアル」は平成11年度の金融機関の検査から使用されてきたもので、バブル崩壊に伴う不良債権の増大により。従来の金融機関の資産査定中心の検査から、リスク管理重視型の検査への切り換えが行われたのでした。

 

 その頃から日本国中で、『借入金の返済原資は、利益+減価償却費』と言われ出しました。原因は、今から考えれば、この「金融検査マニュアル」の解釈間違いだったという説が正しいのかもしれません。ただ、今の若い金融マンは、『借入金の返済原資は、利益+減価償却費だぞ!』って先輩から教わって来ていることでしょうがね。

 

 では、ここで簡単なビジネス・モデルを使って説明してみましょう。

 web上で絶対ヒットするであろうと思える標品を見つけたとします。そして、その商品の仕入れ値は100万円だとします。

 綿密な事業計画書を作成し、銀行の担当者に融資の申し込み行います。そして、銀行からその商品の仕入れ代金100万円の融資を受けて①、ネット販売を開始します。販売価格は120万円です②。予想通り、その商品は瞬く間に完売し、販売代金120万円が入金されました③。

 

 この商売でゲットした利益は20万円です。

 では、銀行から融資を受けた借入金の返済財源は何でしょうか?

 答えは『売上代金から返す』ですね。おそらく銀行に提出した事業計画書にも返済原資は『売上代金』と書いているはずです。

 

 ビジネスにおいては、仕入れに係る借入金の返済原資は、利益ではなく、『売上代金』とするのが正解なのです。それを、金融検査マニュアルが幅を利かすようになってからは、その解釈が歪められてしまったということです。

 

 ただ、仕入れに係る借入金を売上代金で返してしまうと、手元資金が残りません(正確には利益部分が残ります)。次の仕入れをするための資金が不足する状態となり、再び次のビジネス継続のための資金を銀行から融資してもらわなければならなくなります。その度毎に事業計画書を作り...なんてしていたら大変です。

 

 金融検査マニュアルが施行される前までは、上記のような仕入資金(運転資金)の融資には、短期の手形借入金が使われていました。「短期継続融資」と称して、手形借入金を期日ごとに書き換えて継続した融資を続行し続けていたのです。これを「短期転がし融資(通称短コロ)」と言っていました。

 

 もう一度おさらいすると、「仕入」⇒「在庫」⇒「販売」⇒「回収」という営業サイクルの中で、「在庫」から「回収」までの間、資金は寝てしまいます。ここの部分から仕入の未払金(仕入債務)を控除した残額が『運転資金』であり、この『運転資金』を金融機関からの借入金で賄った場合、その借入金を返済する原資は、「売上代金」となるわけです。算式で示すと以下のようになります。

 この『運転資金』の返済財源である「売上代金」は、次の販売のための仕入れと金として費消されてしまいますから、当初の借入金の返済はできません。ですから、「短期継続融資」という融資が必要となるわけです。

 

 そして、融資には、もう一つ大切な融資があります。それは、モノを製造したり、販売したりするための設備を購入するための資金を確保するための融資です。所謂「長期設備資金融資」というものです。この融資の返済財源こそが「利益+減価償却費」なのです。ここを混同してしまっているわけです。

 

 借入金の返済原資には、2つの種類があることがお分かりになられましたでしょうか。

 ・運転資金の返済原資は ⇒ 売上代金

 ・長期設備資金の返済原資は ⇒ 利益+減価償却費

 

 これが真実です。