お店屋さんで、お客さん自身が棚に陳列されている商品を直接手に取り、選び、気に入れば買い物かごやショッピングカートに入れ、それをレジで一括会計し代金を決済し、そして持ち帰る。

 

 今では当たり前のスーパー・マーケット等での買い物のスタイルです。

 でも、この当たり前の買い物スタイルですが、今から90年以上前のアメリカでは全く珍しいものだったのです。

 

 その頃のお店屋さんでは、お客さんがカウンター越しに欲しい商品を店員に伝え、その店員が後ろにある棚や倉庫から商品を取り出して、代金と引き換えにお客さんに渡すやり方が一般的だったのです。特にチェーンストア大手のA&Pが1912年から全米展開した「エコノミー・ストア」は、従来の配達と掛売り制度を現金持ち帰り主義に改め、経費の徹底的節減を図ることによって廉価販売システムを採用したものでした。

 

 1929年9月の米国の株価の大暴落に始まった世界恐慌が世界中を席巻していた1930年、ニューヨーク州のジャマイカ市でA&Pの10倍もの店舗規模をもつ、セルフサービス方式を導入した本格的な食品スーパー・マーケットが誕生しました。

 世界経済が大きく動揺する中、考え得る限りの経費を削ぎ取り、より低廉な価格を消費者に提供すべく、小売店のスタイルがその姿を大きく進化させたのでした。

 

その後、この変化を一時的なものと捉え、従来型の小売りを続けたチェーンストア大手のA&Pは衰退の一途をたどり、このスーパー・マーケットスタイルが全米を席巻したのでした。

 

 ※セルフサービスの起源は1916年にクラレンス・サンダースがテネシー州メンフィスにオープンした食品や日用品を販売するグロサリーストア「Piggly Wiggly」とされている(ウィキペディアより)

 

 時代は進み、1994年の米国マンハッタン、ウォール街での出来事。その年の12月のメキシコ・ペソ切り下げと変動相場制への移行をきっかけに通貨危機が発生(テキーラ・ショック)、瞬く間に新興市場国に波及したのでした。

 メキシコへの投資がバブル状態となっていた米国では、過剰な投融資が原因で経済が大きく傷つき、金融の中心地であったウォール街は大混乱を極めていたのです。

 

 この経済危機の中、今では当たり前の、しかし当時としては革新的なビジネスが産声を上げたのです。創業したのは、それまでウォール街でヘッジファンドなどの金融業で金融の業務をしていたジェフ・ベゾス。創業した会社名は「アマゾン」。

 

 米国経済が大きく揺らぐ中、一人の野心家が、インターネットの可能性を直感し、金融の世界から飛び出したのでした。

 

 これまで私たちは幾度となく、今まであったビジネスが、新たに出現してきたビジネスモデルに淘汰され消えて行く様を見てきました。

 ご紹介した例はほんの一部ですが、ビジネスの新たな芽、新たな形、より消費者の心をつかむモデルは、果たして「経済危機の中で生まれ、進化していく」のではないでしょうか。

 

 現在、新型コロナウイルスが世界経済をズタズタにしつつあります。きっときっと、新たなビジネスモデル、それも予想もできないニューモデルが、そこここに芽吹いているものと思いたいものです。

 

 それは、テレワークなどの在宅勤務をより利便性の高いものにするサービスかもしれませんし、また、家に居ながらにして思いもよらないサービスを受けることのできるビジネスかもしれません。

 

 そして、経済社会の新陳代謝がビジネスモデルの進化に繋がり、更なる経済発展が私たちの暮らしをより豊かにして行くのです。

 

 私たちは、新型コロナショックを災いと捉えるのでなく、ビジネスの進化のための試練と捉えるという発想を持つべきだと思います。

 

 平時には何だって進化の歩みを止めてしまうものです。有事の今だからこそ、進化の種、見つけて見ませんか。