相当以前のことです、こんな話が実際にありました。掻い摘んで要約すると、
・自分たちはニューヨークで10億円の資金を投入した結果、為替の動向を100%に近い確率で当てることができるシステムを開発することに成功した。
・今回は特別にこのシステムを使ってお客様の資金運用ができることになった。
・ただし、一人が運用できる資金は2000万円を上限とする。
・毎月の運用報告は書面で通知され、分配金額も確実に振り込まれる。
運用収益率はどの程度だったかは定かに覚えてはいませんが、何人かの知り合いがこの儲け話?に資金をつぎ込んでいた模様でした。結局は詐欺事件として後日新聞紙上を賑わせる結果となりました。
『確実に儲かるのであれば、誰だって“他人の金”を運用したりはしない。“自分自身の金”を運用するはず』(⇒他人に儲けをくれてやることはない!)
資産運用会社のプロと呼ばれる人も同じで、本当に儲けることができるのであれば、誰だってサラリーマンなどしてはいませんよね。
今回は『儲けと価格』のお話です。
世の中、なかなか「儲け話」なんて言うのは落ちていないものです。たとえば、箱根で“温泉まんじゅう”が1個50円で売られていたとします。
そして、同じ“温泉まんじゅう”が東京では1個100円で売られていたとしましょうか。
このような状態を「価格の歪」と言うのですが、この場合誰もが、「箱根で“温泉まんじゅう”を仕入れて、東京で売る」ことを思いつきます。いわゆる『鞘(さや)取り』です。
この「価格の歪」に気付いた最初の1人や2人程度がこれを実践する間は良いのですが、その内100人200人がやりだすと、どうなるでしょうか?
箱根での“温泉まんじゅう”の仕入れ値は上昇するでしょうし、東京での売価は反対に下落するでしょう。双方の価格が同じく75円で均衡する状態に落ち着きます。
次に、時代は遡り、1498年ヴァスコ・ダ・ガマがインド航路を発見したころのお話です。
そのころのヨーロッパでは大切な食糧としての肉が腐るのを防ぐためにアジアで採れる香辛料が珍重されていました。そのころの香辛料はアラブの商人によりラクダなどにより陸路で運ばれていました。途中オスマン帝国による高い関税を課せられるなどして、ヨーロッパに到着する頃には金(gold)並みに高価なものになってしまっていたのです。
大航海時代のスタートにより、貴重な香辛料を船により大量に運ぶことが可能となり、巨万の富を彼らにもたらしたのです。その後、我も我もと沢山の人が香辛料ビジネスに乗り出したのでした。
その結果、貴重なはずの香辛料の価格は値崩れし、誰もが儲けが出ない価格水準にまで下落して行ったのです。
その結果、船乗りたちは、新たな儲けを求めて東へと船を進めました。インドネシアを超えさらに東へ、そして1543年日本の種子島に漂着したポルトガル人が鉄砲を日本に伝えると言う副次的な出来事も起こりました。
自由な競争が可能な市場では、同じモノの価格は同一の価格に収斂して行くという法則があります。これを「一物一価の法則」といいます。誰が取引したって同じ儲けしか得られなくなるというものです。
“温泉まんじゅう”もアジアの香辛料も自由な競争市場では、一つの価格(最低価格)に収斂して行くのです。
「ここだけ」「今だけ」「あなただけ」なんていう美味しい話なんて存在しないと思った方が賢く生きられると思います。
しかし、 「一物一価の法則」が真実であれば、物事には先行者利益しか存在せず、後から参入した者は低収益か無収益に甘んじなければならない運命にあります。
今回の話しは、ここでは終わりません。
もし、「一つのモノに多くの価格」が存在したらどうでしょうか(一物多価)。
「一物一価」の世界では儲け過ぎは許されない社会です。誰もが薄利に耐えなければなりません。そのような時代から抜け出すための方法の一つが「一物多価」というわけです。
「令和は一物多価の時代」と言われるかもしれません。様々なものが多くの値段を持つようになります。
既に、「付帯条件」を変えたり、「消費者の年齢」「消費する時間」「リサイクルやシェアの度合い」などを変化させることにより、様々な価格を実現させることが可能となっています。
たとえば、航空券がそれです。予約の変更の可否、事前予約などの付帯条件の種類によって同じ座席の価格が違います。
さらに、映画館では年齢による割引が、スーパーでは「タイムセール価格」が、既に多価化を実現しています。
まだまだアイデアを搾れば、一つの商品やサービスで多くの価格を実現することが可能なのではないでしょうか。
余多ある需要と供給を様々な角度からマッチングさせることにより、マッチングの条件やその他の環境を変化させることにより「一物多価」を実現させ『儲けの実現』に繋げることが可能となると思います。
結論ですが、
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儲け話は転がっているものではないし、ましてや他人を儲けさせてやろうなんて話は詐欺以外の何物でもない
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一つのビジネスモデルは、先行者利益はあるものの、競合他社が増えるに従い価格は誰もが儲けが取れない価格(最低価格)に収斂して行く(一物一価)
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令和のビジネスモデルは、需要と供給のマッチングを様々な角度から変化(付帯条件・年齢・時間・その他)させることで、需要に応じた価格を提供できる体制を整えることを戦略することも選択肢の一つとなる(一物多価)
商品やサービスの差別化による経営も大切たと思いますが、視点を変えて自社の商品やサービスの「多価化」も考えて見ることも有りかなと思います。どこで買っても同じ値段を続けていても「儲け話」にはなりませんよ。