将来的に、わが国の人口減少がクローズアップされていますが、それに関連して2015年5月に空家等対策特別措置法が施行されてから、「空き家問題」という言葉を耳にする機会が多くなっています。

 

 また、空き家の中でも特に問題として私が挙げたいのは「特定空家」というものです。

空家等対策特別措置法では、『特定空家等とは、そのまま放置すれば倒壊等著しく保安上危険となるおそれのある状態又は著しく衛生上有害となるおそれのある状態、適切な管理が行われていないことにより著しく景観を損なっている状態、その他周辺の生活環境の保全を図るために放置することが不適切である状態にあると認められる空家等をいう』とされています。

 

 このような問題を解決するための一つのアイデアとして思いついたのが国際会計基準や国内の大会社などで、会計処理として認識され使われている「資産除去債務」という考え方の採用です。

 

 工場建物や機械などの固定資産を新たに取得する場合、将来発生するであろう資産除去のための費用を、予めその対象資産取得時に見積もり、債務として計上して置くというものです。人の人生設計で日常の生活費だけでなく、最後の葬儀費用まで見積もって計画してキャッシュフローを考えるようなイメージです。

 

 あくまでも私の思い付きなのですが、たとえば、「特定空家対策」として、持ち家を新築等した場合、将来必要となる解体のための費用を見積り、その必要額を分割し毎年固定資産税に上乗せする形で市役所に収めて置くというアイデアはどうでしょうか。

 もし、途中で誰かに売却したり、自分で取り壊したりした場合には、積立金額が還付されるルールです。

 まあ、様々なご意見はあるとは思いますが、今後このくらいは建物を所有する者の責務として負ってもらうことも必要なのではないでしょうか。

 

 ここで「資産除去債務」の会計処理をご紹介します。とても合理的な考え方ですので、頭の片隅にでも置いておかれるとよいと思います。

 

 では、事業用定期借地契約のケースで考えて見ましょう。

 以下のような設定を想定してみます。

 誰かから土地を定期借地契約で賃借し、その上に建物を5000万円で取得し、30年後には全てを取り壊して土地を返還する契約です。その際の建物除去費用は1000万円だとします。ただし、建物除去費用は今使うお金ではなく、30年後に必要となるお金です。定期預金などで30年後に1000万円になる預金元本は幾ら(30年後の1000万円の「現在価値」)?という問題を解かなくてはなりません。しかし、情報が一つ足りません。それまでの預金金利はどのくらいで評価?

 

 ここで、想定するのが割引率というものです。簡単に言えば30年間の予測金利みたいなものです。ここでは3.0%と想定しておきます。30年間の3.0%の金利で預けた場合1000万円にするための元本は4,119,868円となります(下図参照)。

 会計処理は以下のようになります。

 

 

 30年後の費用の見積もりという点では不確実な部分は多いのですが、会計処理上30年で確実に債務の積立ができる仕組みとなっていることには合理性を感じます。(※資産除去債務に係る費用は税法上損金の取り扱いはできません。)

 

 相続税法が改正されて以来、相続税の節税目的でのアパマンブームが目立つようになってきました。街を歩いていても新築アパートが増えてきているように見えます。人口減少社会で空き家が問題視される中、賃貸住宅が異常な増加を見せるおかしな状況が進行しています。

 「家賃保証」を武器に、賃貸アパートのサブリースシステムを売込むアパート管理業者の営業が上手いのか、土地オーナーの経済リテラシーが足らないのか、理由は何にせよ経済学の原理原則を無視したかのようなアパートが乱立しているかのように見えます。

 そのような近視眼的思考の土地オーナーにこそ、将来的な空きアパートの放置を防ぐためにも、地方自治体による「資産除去債務」を意識した解体費用の強制的な積立徴収が必要なのではないでしょうか。彼らは、単に名目の収入金額から通常のランニングコストを差し引くだけの初歩的な会計でアパート経営を考えているわけですからね。

 

 今回は、資産を取得したと同時に発生する資産所有者の責任というものに対し、会計がどう対処しているのかの話をいたしました。空き家問題を耳にするにつけ、「資産除去債務」という会計処理が思い出されるのです。