【自分の気持ち】~未咲side~

「未咲って、翔也とどうゆー関係?」
またその質問か…。
聞き飽きた。
「仲良い男友達」
そうとしか答えようがない。
「ほんとー!良かった♪」
この子は確か、千葉美波。
「美波、翔也の事好きだからさ」
別に気にならなかった。
この時はどうでも良かった。
谷川は友達以外の何でもないから。
そう思ってた。
しかもモテる谷川だから、聞かれる事は珍しくなかった。
「そうか。頑張って!アイツ、美波みたいな人タイプやと思うで」
「ほんとー!?頑張っちゃおーありがと!」
タイプ……なのかな?

家に帰って、携帯を開くと噂の翔也さんからメールが。
【俊のアドレス送っていい?】
いきなり何じゃいな?
なんで?…と。
♪ブーブーブー
バイブ音が響いた。
谷川は、返信がキモいほど早いのだ。
【俊にメールしてほしいから!送るで☆shunta-badminton………】
は?
ま、谷川にはいろいろ借りがあるし…
とか思いながら、内心、俊太とメールしたいって思う自分がいた。
【分かった。】
そんだけ、谷川に送って、あたしは新規作成のボタンを押した。
そして、俊太のアドレスを入力した。

来ない。
ドキドキしながら送信ボタンを押してからかなり時間がたったのに、一向に返信は来ない。
シカトされてんのかな?

「なぁ班長」
「あ?」
「メールしたのに返してやぁー」
「まじで?てかお前、誰から俺のアドレス……翔か」
言うまでもないと言う感じだな。
「返してな!」
「あーはいはい」
気の抜けた返事だった。
でも俊太は、絶対メールしてくれる。
その自信があった。
なぜなら俊太は、シャイなだけだからだ。

やっぱり、ちゃんとメールが入っていた。
【今崎。登録したから】
たったそれだけ。
絵文字も無い寂しい一行だったけれど、充分だった。
返信はあえてしなかった。
シャイな俊太はメール上でもシャイなのかな?

そんな事を思い、あたしはつい「かわいいじゃん」って携帯の画面に呟いた。
シャイにはにかむ俊太の顔が頭に浮かんできた。

「未咲は、どっちなの?」
明菜にいきなり言われた。
「へ?なにが?」
「なにがって好きな人。」
「誰と誰?」
「翔也と今崎」
みんな、谷川を翔也って呼ぶ。
でもあたしは谷川だ。
それには、親しみが込められている。
谷川には、もうお世話になりっぱなしだし、根は優しいし誰よりも良いやつだってあたしが1番知っている。
でも俊太は。
俊太には谷川とはまた違う感情があるかもしれない。
自分でわからないだけで。
不器用なだけで、めちゃくちゃ優しくて。
そんな所があるってあたしはわかる。

あたしの気持ちって。
谷川は良い奴だし好き。
でも異性としては全く見たこと無い。
というより今更見れない。
俊太は。
友達じゃない。
友達以外の特別な感情を抱いてる。
最初はめちゃくちゃ嫌いで、本当うざかった。
なのに、こんな感情を抱いて良いのか。
俊太はあたしの事が嫌いであろう。
一方通行の想い。
だとしてもあたしは——
「今崎が好き」
「へぇー成る程ね。面白くなってきたぁ」
明菜は上機嫌。

これがあたしの本当の、素直な気持ち。
俊太に届けるべきなのかな?

【学級委員】~俊太side~

「あっちー」
マジ暑い。
みんなあちこちで叫んでいる。
「せんせぇクーラーは~?」
「そんなものありません。」
それがいつもの授業前のやり取りだった。
セコいよなぁ先生たちって。
自分たちは涼しい部屋でさー。
俺はいつもそう思った。
こんな暑い日の学級委員会は地獄だろな。
「今日は、学級委員会がありますので今崎くんと近藤さんは放課後残ってくださいね。」
はい最悪。

「今崎くん、一緒に行こ」
近藤はまた俺にアタックしてきた。
「あぁ良いよ」
面倒だったから適当に答えると近藤はまた友達の所に戻りキャーキャー騒いでいる。
「班長っ!」
席に着いて顔を伏せてた俺に話しかけてきたのは上谷だった。
「何?俺、ねみぃんだけど」
「谷川が~~~~」
周りがうるさくてちょっと聞こえなかった。
「なんて?」
「だから、谷川が~~~」
もうこうなったら仕方ない。
紙とペンを取り出した。
[ここに書け]
さらさらとそう書いたら、上谷は素直に頷いた。
[谷川が、今日の部活一緒に行こうって行ってたけど、班長、委員会あんねんなぁ?]
[うん、だから言っといて。翔にも先輩にも]
そこまで書いて上谷は了解のポーズをとった。
そして笑った。
俺もつられて笑顔がこぼれた。
「なんなの、上谷未咲、マジうぜぇ」
近藤が呟いていたのは知らなかった。
「こうなったら何が何でも今崎くん奪ってみせる」

「上谷さんちょっと良い?」
「え?はい」
上谷が近藤に呼ばれたから、俺は嫌な予感がして気が気でならなかった。

その後、俺が上谷に
「近藤に何言われたん?」
って聞いてみた。
が、上谷はフルシカト。
俺はイラッとした。
「なぁ上谷?」
「今崎くーん、学級委員行こ?」
「あぁうん、」
俺は上谷が気になったが、とりあえず学級委員に行こうと思った。

「ねぇ今崎くん?」
「あ゛?」
「きゃー冷たぁい返事」
俺はぶりっ子って言うの?めっちゃ嫌い。
しかもなんか地味にスカート短くしてね?
髪型もいつか、俺が上谷に何気なく言ったタイプの「さらさらロング」になってるし。
「用はなに?」
「あのさぁ、上谷さんって冷たくない?」
「うん、あぁ」お前のせいだろって心の中で思いながら。
「ほんと、酷いんだぉ~でも今崎くん上谷さんのこと好きでしょ?」
うっ。
どうなんだよ、俺。
嫌いなのか…?
いや、好きなんだよ。
恋してんだ、アイツに。
「多分、好きなんだと思います……」
俺はついに人に言ってしまった。
「やっぱりぃ。でもね、上谷さん今崎くんに興味ないって言ってたよぉー」
マジでかよ!?゛
良い感じだと思ってたの俺だけなのか?
両想いは俺の勘違いか?
俺の選んだ道は間違いなのか?
ちょっと待てよ……。
「今崎くん?」
「へ?」
「うちね、今崎くんの事好きなんだ。」
別にビックリしなかった。
知ってたから。
「だから?」
「応援は出来ないけど、もしフラれたら次うちね。」
なんだその予約制。
どうでもいっか。
適当に流して俺は窓際の席についた。
バドミントン部の声たちが夕空に響いていた。

「すんません遅れて。」
「おぉ俊!」
みんなそうやって迎えてくれた。
「そういえばさ。」
そして小声で男子部員たち(先輩まで)聞くのだ。
「お前、上谷好きなの?」
ぶっ。
俺は吹き出しそうになった。
顔が赤らんで行くのがわかるくらいだった。
「ほーらやっぱりな。」
「お前ら、絶対みんなに言うなよっ!」
「はいはい分かったって。上谷さーんっ」
春斗が上谷の方に向かおうとしてたのを必死に食い止めながら、時間はたってゆく。

また明日も君の笑顔と共に。


【友達以上恋人未満】~未咲side~

「ほら、もう泣くなって。笑え。笑ってたら、絶対いつかは良くなるから、な?」
俊太があたしの顔を覗き込み、そう言った。
あたしの顔はやっぱり自然に笑顔だった。
「な?大丈夫だから」
俊太はあたしを救ってくれた。
冷たいいつもの俊太じゃなかった。
あたしはにこっと俊太に微笑んだ。
俊太は目を反らし、遠くを見てちょっと照れた。
シャイボーイだな。
「今崎俊太くん?どうしたんですか?照れてるのぉ?」
あたしは少しからかい気味に言ってみた。
「べ、別に照れてねぇけど」

はははと笑って、あたしは立ち上がった。
「とりあえず、今日はありがとう。じゃ、帰るね」
「うん」
俊太はそんだけ言って、立ち上がってあたしと逆の方向に進んで行った。

翌日。
「未咲、昨日大丈夫やった?」
明菜はやっぱり真っ先に心配してくれた。
「うん。まだちょっと痛いけど、班長のおかげで助かった。」
「そっか、良かった。今崎良い奴やな。もしかして未咲の事好きなんじゃない?」
「……いや、それはないよぉ、アハハ」
あたしは一瞬真に受けてしまった。
「お!来たよ、王子様」
もう、明菜ノリノリだし。
「おはよう、今崎♪」
明菜があたしの腹を突いて来る。
アンタもって意味だろう。
ま、言ってみるか。
「おっおはよう」
「おう、おはよう」
俊太は普通に返してくれた。
「あ!水野さん、おはよう」
「おはよう、えーっと…」
「岩瀬!岩瀬春斗。春斗でいーから、俺も明菜ちゃんで良い?」
「あ、うん良ーよー!」
「春斗な、水野の事好きみたい」
「え?」
あたしに俊太がそう囁いた。
そして人差し指を立てて、内緒なっのポーズをした。
あたしは大きく頷いた。
ちょっと嬉しいかも。
なんでかわかんないけど。

「上谷ぃ」
後ろから気の抜けた声が聞こえた。
「あ、谷川」
その声の持ち主は谷川翔也。
小学生から仲の良い、男友達だ。
男嫌いだったあたしが普通に戻れたのは翔也の存在のおかげだった。
呼び方はお互い名字だけどある意味特別な存在だ。
「どした?」
「どう、新しいクラス?」
小学生の時はずっと同じクラスだった翔也と未咲は中1で初めて違うクラスになった。
「んーまぁまぁかな」
「俺もぉ」
「やんな」
談笑をしていると、他のクラスに遊びに行っていた俊太が帰ってきた。
「あー俊!おはよん♪」
「おー!翔、おはよ」
翔也もバドミントン部である。
「お取り込み中?」
「いや、全然」
「あれ、翔と上谷ってどゆう関係?まさか…」
俊太は小指を立てた。
「んな訳あるか。」
翔也が言った。
「友達以上の関係はありませんので」
あたしはプッシュした。
「ふーん」
俊太は鼻で笑った。
翔也と付き合ってるの?とか翔也の事好きなん?とかは良く聞かれる。
もう慣れた。
きまって答えるのが、
「仲良い友達。」
だった。
幼馴染とはちょっと違う。
だから、そう言うのが妥当である。
翔也の方もそう言っているみたいだし。
「じゃ、戻るか。上谷、今日漫画貸してやるから家着いたらメールな。」
「ふぁい」
あたしは脱力した声で返事した。
俊太はもう席に着いていた。

「未咲、未咲」
唯があたしを呼んでいる。
「うん?」
「うん?じゃなくてさ、ほら、大掃除だよ、今日」
もう七月の暑い日差しにもなれた頃、あたしは暑い日の居眠りにも慣れていた。
また俊太がプッと笑った。
「ほら、居眠り女、掃除、何すんだ?」
「ん?何でも良いよ」
「お前が決めろって」
「んじゃ、窓拭きぃ

昨日の俊太は夢だったのか?
でも俊太はこっちの方が良いかも。
下敷きでパタパタ自分を扇ぐ俊太を見て、あたしはまた微笑んだ。


【涙と笑顔】~俊太side~

気づけば俺は田島に飛び掛かろうとしていた。
だが、そうはしなかった。
助けに来たのに暴力を奮ったらいろんな人に迷惑がかかると思って寸前で止めていた。
田島は俺の方を見て笑いながら、言った。
「あの女の新しい彼氏か?」
俺は何ともいわなかった。
田島が続ける。
「アイツはやめとけ。最低な奴だ。アイツのせいで俺は…」
「最低なのはどっちだよ」
俺はボソッと呟いた。
「は?なんだって?」
「最低なのはどっちだよっつってんだよ」
「あっちに決まってるだろうが」
逆ギレか。
自分がした事を正当防衛だとでも?
俺の苛々は最大に達する。
「自分がしたこと分かって言ってんの?」
「ああ」
こいつ。
開き直りやがった。
「アイツがどういう気持ちでいるか分かってんのか?」
「未咲が悪いんだよ、俺の事振ったりするから」
は?
「おかげで同時期に付き合ってた奴にも浮気がバレてもう最悪」
ありえねぇ。
「あの女が俺の事振ったりしなければ、今でも俺は……」
こんな奴が上谷と付き合ってたなんて…
「あんな女存在価値がない。アハハハハ」
元カノの存在価値がないだと?
「……………んな」
「は?なに?」
「ふざけんなぁ!」
ついに堪忍袋の緒がキレた。
「お前は関係ないだろ」
「あんだよ、関係」
「まさかお前未咲が好きなのか?」
好きなのか?
俺、上谷が好きなのか?
「正直、好きか分からない」
「じゃあやっぱり関係ねぇじゃん。」
また田島が声をあげて笑った。
「でも……!」
一つ言うならば。
「好きじゃなくったって、」
俺が上谷に出来るならば、
「救ってやりたい」
「?何言ってんの?」
「お前から救ってやりたい」
その言葉はごく自然に俺の口から出た。
「だから俺は──」
「頼む」
田島の声を遮った俺はまた自然に頭を下げていた。
「は?」
「頼むから、もう暴力なんてみっともない真似しないでやってくれ」
「………なんで、」
田島が口を開いた。
「なんでそこまでやんだよ……訳わかんねぇ」
田島はそう吐き捨て、立ち去った。

「は、はは」
俺は一人で呆れて笑って、
「ふざけんな」
一人で八つ当たりして、
「………なんでだよ…」
自問自答した。
「ほんと、なんでなんよ?」
はっ
俺は声のした方を向いた。
「なんで…?班長はそんなに優しいの…?」
泣きじゃくる上谷がいた。
「そんなにボロボロになっちゃって…田島のせいやんなぁ?…ごめんっ」
「なんで謝んの?」
「え…?」
「上谷なんも悪くねぇじゃねぇか」
俺はつくったぎこちない笑顔で話しかけてみた。
「班長」
涙で目が潤んだ上谷が、こっちをジッと見てきた。
「ん?」
「……がと」
「なんて?」
だいたい聞こえたがもう一度聞きたくて聞き返した。
「ありがとっ」
とびきりの笑顔で俺にそう言った。
「うん、良い笑顔だなっ」
「へ?」
「あ、なんもない。」
涙より笑顔が似合うなんて言ったら、上谷は笑ってくれんのかな。
やっぱ俺好きかも。
良くわかんねぇや。


【救いの手】~未咲side~

明奈と登校中、遠くに俊太たちの姿が見えた。
下駄箱でちょうど俊太と会ったので、ちょっと話しかけてみようと思って口を開いた。
「班長っ」
「あ゛?」
「お、おはよっ」
「……?なんかあったんか?お前が俺におはよっだなんて!また悩み事?」
「違うしっ!」
また空回り。
「キモいで、ハハハ」
冗談っぽく俊太は笑ってみせた。
「あ、今崎おはよー」
「おう、おはよ!」
明奈のおはよーには応えるクセに……
あたしは気づけば親友にまでヤキモチを妬いていた。そんな事、この時は思っていなかったのだけど。

ふぁぁぁ
また大欠伸が出た。
眠い、眠すぎる。
今日はマジでやばい。
先生すいません、今日は睡魔に勝てる気がしません。心の中で、先生に断りを入れてあたしは顔を伏せた。あっというまに爆睡してしまったみたいだ。

夢は少ししか覚えていないのだが、大切な何かを失いそうになった夢だった。
あたしの手からすぅーっと消えて行ったのだ。

「みーさーき?」
明奈の顔が覗く。
「ふぁい」
「もう全部の授業終わったよ?今日、明奈掃除だからちょっと待ってて、部活行くの。」
「うん」
あたしは体操服に着替え、荷物を持って準備万端で明奈の掃除が終わるのを待っていた。
ボーッとしてたら教室のドアがガラガラっと開いて、ひょこっと二つの顔が覗いた。
「俊~!」
「部活行こぉ」
同じバド部の男子達だ。
「あー、俺学級委員の集まりあるし、先行ってて」
「わかった~!」
岩瀬春斗が言って、二人は顔を引っ込めた。
「あ」
俊太がわざとらしくあたしに向かって言った。
「どうしたん?」
あたしはちょっと面倒っぽく言ってみた。
「春斗と悠に先輩に遅れるって言ってって言うの忘れたぁ」
「あたし言っときましょか?」
「さすが!よろしく」
なんじゃそりゃ。

「あの、先輩」
男子の先輩に話しかけるのは実に嫌だ。
しょうがない、バド部は男女一緒なのだ。
「ん?」
「今崎が遅れるって言ってました」
「ああうん、ありがとう。にしても……」
あたしは小首を傾げて見せた。
「あの今崎が女子に何か頼み事って珍しいなと、な?」
もう一人の先輩に振る。
「確かに、上谷さん相当信頼されてるな」
あたしはただ、照れるしか無かった。

部活は普通に始まった。

先輩の信頼されてるってのがなんか嬉しかった。
しかも相当って。
ほんとだったら嬉しいかも……
って、別に俊太の事好きじゃないのに。
自分で自分に言い聞かせる。
そんな事思ってると、俊太が現れた。
俊太はこっちへ向かって来る。
そしてあたしの前で止まって、あたしにだけ聞こえるくらいの声で
「田島が、部活終わったら待っといてって言ってた」と言った。
あたしは目眩がした。
田島って名前聞くだけで気分が悪くなる。
あたしは頭を抑えた。
でも何をされたってちゃんと利弥に気が無いって事を伝えなきゃ。
自分に言い聞かせ、あたしは大きく頷いた。
俊太は少し不安そうな顔を見せた。

あたしは利弥に指定された場所に一人で向かった。
すぐに利弥はやってきた。「あ、未咲」
未咲ナンテ呼バナイデ。
「あのさ……」
利弥はあたしに近寄ってくる。
ヤメテ近寄ラナイデ。
そんな言葉は出る事もなく、利弥はあたしの事を力いっぱいに壁に押さえ付けた。
「え、ち、ちょっ…」
利弥の息がかかるくらい顔が近くに来た。
ヤバイ唇ガ触レソウ。ヤメテヤメテヤメテヤメテ。
あたしの中で叫びがこだまする。
あたしは咄嗟に声にならない声をだして、俯いた。
すると利弥が離れて、
「そんなに嫌?」
って言った。
嫌ニ決マッテル。
「俺より、アイツの方が良いの?」
アイツってのは絶対俊太だ。
あたしはゆっくり頷いた。俊太の方がマシかと思ったから。
「ふ、ハハハ」
利弥は不気味な笑いを起こした。
そしてすぐに笑いはおさまって、あたしが
「あたしは田島の事好きじゃない」
って事を声を振り絞り、呟くように言ったら再度利弥はまた近寄ってきた。
「ははは……」
逃げなければと勘づいたが足が動かない。
「ふざけんな」
利弥は思いっ切りあたしの顔を殴った。
鈍い音がしてあたしの口から赤黒い血が出てきた。
「お前は俺のモノだ」
ずっと殴り続けられる。
気を失いそうだ。
「俺のモノじゃないお前はいらない、死んでしまえば良い」
そう言って蹴りも飛ばしてきた。
ずっと殴られ続けて、ずいぶんたっただろうか。
本当に死にそうだった。
でも、いつの間にかあたしの事を殴る鈍い音と痛みが消えて行った。
それは気を失った訳じゃなく現実だったと知ったのはこの事件から少したった頃だった。

「未咲」
明奈の心配そうな顔。
保健室の天井が目に入る。
「大丈夫?…じゃないよね」あたしは起きて鏡を見た。
そこには痣や赤黒い血の痕などで生々しい傷だらけのあたしの顔。
「何これ……」
「応急処置は一応したけど、完治にはちょっと時間かかるかもしれない」
保健の先生が言った。
「すいません、ありがとうございます」
あたしは一礼した。
「未咲、ちょっと」
あたしは明奈に呼ばれてさっきのベッドの場所に行った。
「本人には言うなって言われたんだけど、伝えとく」ちょっと傷を気にしながら頷いた。
「ここに未咲を連れてきた、ってか未咲をあのDV男から救ったの、」
今崎。
やっぱり俊太だ。
「アイツ、上谷が自分のせいであんな目になったってなんて言って、助けに行くとは一言もいわずそっち行ったの」
俊太、ちょっと期待しちゃうな。
先輩が信頼されてるって言ったことを思い出した、
「班長……今崎俊太は?」
「え、今まだあっちおると思うけど……」
「まじでっ」
蹴られた腹部が痛むが、あたしは腹部を抑えながら外に向かった。
「こら、安静にしときなさいっ」
なんて言った保健の先生を無視して、あたしはまたさっきの現場に向かった。

俊太と利弥の姿が見えた。


【幼馴染とアイツ】~俊太side~

俺は無性に苛々した。
ストーカー、聞き慣れた単語だが、本当にされたなんて初めて聞いた。
未咲がそんな事されてるなんてもっと想像できなかった。
アイツは強くて暴力的だから。それは俺にだけ?
酷いなぁ~。
ちょっと話それたな、って俺誰に話してんだろ。
「お~い、俊?」
「何ぼーっとしてんの?」
「あ、ごめん春斗、悠。」
「どしたの?俊」
悠が聞いてくる。
「なんもないよ、それより何?」
「国語辞典貸してって」
今、俺ん家で宿題中である。
悠も春斗も成績優秀。
今勉強してる課題は、塾のだ。
悠と春斗と俺の中でも俺はぶっちぎりで頭が良い。
俺はいつでも成績トップで80点以下は取ったことが無い。
この塾の課題もとうの昔に終わらしてある。
だから今はコイツらの先生役といった所だ。
時計は6時を指していた。
「もう、塾行く時間だぞ」
俺が言う。
「俺、まだぁ」
マイペースな春斗が言うと「春斗、怒られるな~」
悠が突っ掛かっていく。
「悠、お前おちょくってんだろ?」
「さあね、ハハハ~行こ、俊ちゃん!」
そう言って悠は俺の手を引っ張って自転車を取りに行った。
「まてー!!」
春斗の声が響いている。

その日の授業は全く集中出来ず、小さなミスを繰り返していたため、他のメンバーに「今崎、なんかあった?」とか色々聞かれた。
適当に大丈夫って応えていた。
だが、一人違っていた。
「しゅんた。」
「あ、何?」
「どした?」
「何にもねぇよ」
未咲のストーカーの事ずっと考えてる、なんて恥ずかしくて言えるわけがない。「何にもないことないでしょ。」
萌華は本気で俺の事心配してるみたいだ。
「萌華は関係な———」
「ある!」
珍しく強気だ。
「とにかく」
俺が切り出した。
「お前に心配かけたくないんだよ、でしょ?心配かけてるんじゃない、勝手に心配してるだけ。」
「なら、なおさら…」
「電話」
「は?」
「明日学校終わったら電話して」
「う………ん」
俺が言い終える前に萌華は帰ってしまった。
「電話なんてラブラブですねぇ~♪」
「俺も彼女ほすぃわぁ」
悠と春斗がおちょくりで言ったが、俺は無言で自転車を漕ぎつづけた。

夢を見た。

俺がひとり、草原に立って、風に吹かれていた。

東に行こうとすると、東から西へと風が吹き、俺の行く手を阻み、

西に行こうとすると、西から東へと風が吹き、俺の行く手を阻む。

右や左に向かおうとすると邪魔をされる。

だが、進める方向があった。

ただひとつ。


「俊にぃ!」

「朝だぁ!」

「あ゛?」

俺の上でぴょんぴょん跳ねてるのは一番下の妹と弟。

小3の妹・雪乃と小2の弟・尚太だ。

「わぁった、わぁったからどけって、重い・・・」

「俊にぃ時間、大丈夫?」

「あ!そうだったっ」

もうそろそろ、時間がピンチだった。

「お前らも学校あんだろ?ほら、ご飯食べに行かないと」

チビ二人を脇に抱え俺はリビングに向かった。

「おはよう、母さん」

「はい、おはよう!早く食べなさい!もう、彩乃は行ったよ~!」

「早・・・」

「雪も尚も俊も、早くはやく!」


「俊おっそぉ~珍しいなぁ」

「ああ、チビ等の相手してたから」

「彩ちゃん、みたよ?」

「あいつはチビに入んね」

「もう小6だしね、俊よりしっかりしてんじゃないの?」

「ははは、そーかも」

俺はため息まじりで言った。

春斗と悠は、下に兄弟がいない。

春斗は兄がひとり、悠は姉が二人。

「お前らには分かんねえよぉ」

「そうかもな~」

すると、春斗が顔色を変えた。

「あ、あの子ってたしか・・・」

「ああ、上谷。」

「隣の子は?」

「え・・・?あ、多分、水野明奈」

「ふぅ~ん」

その春斗のふぅ~んには深い意味がありそうな気がした。

春斗は明奈の方を向いて少し笑った。

ちょっと気になったのが、二人の遠く後ろの方に田島利弥がいたことだった。


この日の放課後、俺はとんでもない行動を起こすこととなる。







【彼氏と班長】~未咲side~

眠気に襲われる4時間目、国語。
「ふぁ~」
思わず欠伸をしてからおもっきり伸びをした。
するとちょうど後ろを向いた俊太と目が合った。
俊太はプッと笑って視線を前に戻した。
一人でまた膨れて、あたしも授業に戻った。

「あのさ、上谷?」
「え?はい?なに?」
「俺達、付き合ってんだよね?」
ああ…めんどくさい。
あたし、こういう男子本当苦手。
どうしよう……
「ね?」
その時は適当に笑ってごまかした。
そんなあたしは自分が大嫌いだった。
ごまかしてばっかりで。
でもどうすれば良いのかわからない。
………
明奈に相談してみよう。

「うーん」
明奈は悩んでくれた。
でもすぐに答を出してくれた。
「素直な気持ち、伝えなよ!」
そうだよな。
やっぱりそうだ。
「ありがとう!」
「あ、ちょっと未咲ぃ!」
あたしは走り出した。

「ごめんなさいっ」
「は…?」
「本当にごめんなさいっ」
あたしは田島利弥の前に立ち、そう言った。
「……わかった。だけど俺諦めないからね…?」
ぞく……
背筋に悪寒が走る。
あたしはそれだけ伝えて、逃げ帰った。

自分のほんとの気持ちを伝え、スッキリしたあたしは家に帰ってぼーっとしてた。

次の日。
部活が始まった。
「班長ぉ~!」
「はい?」
「シングルスしよー」
シングルスと言うのは一対一で戦う、バドの試合方法だ。
「お前、俺に勝てる自信あるんやな?俺、そう甘くねぇぞ?」
大丈夫!と言ってあたしと俊太のシングルスは始まった。
結果はボロ負け。
さすが、優勝経験者……
「まだまだだな!」
そう言われ、あたしは悔しかったが笑ってみせた。

俊太と喋ってると自然に笑顔になれる。
あたしはその事を知ってまた俊太にドキッとしてしまった。

それから、あたしは必要以上に俊太が気になって、どうしようも無かった。
仲悪いはずなのに……

その時はまだ知らなかった。
田島があんな凄い事をおかすなんて。

普通に家に帰って来た、はずだったけど後ろから見られてるような気がしていた。
度々後ろを振り向くあたしに一緒に帰ってた明奈は、「どうしたの?」
って何度も聞いてくれたのだがあたしはなんでもないとまたごまかした。
明奈に心配かけたくなかった、ただそれだけで。

「おーい?」
俊太があたしの顔を覗きこんで話かけた。
「え?何?」
「掃除、もう終わって良いって」
「あ、うん」
「お前、何かあったろ?」
「え、なんも無いよ…」
「いい加減、嘘つくのもしんどいだろ?俺にだけでいいから、言って」
「だから、何にも……」
「涙。」
「え…?」
「出てる」
俊太の指が伸びてきた。
「大丈夫だからっ」
あたしは突き返した。
「心配なんだって、俺」
「え…?」
「あ、今のは流して!学級委員としてだから!」
「何それ?」
ふふふっと笑ってあたしは俊太にだけなら打ち明けようと思って、一切を打ち明ける決意をした。
「前付き合ってた人が…」
田島利弥の事を全ていった。
「なるほど。」
俊太は一人ごとのように呟き、箒を片付けた。
「帰る時は、なるべく誰かと一緒に帰れば大丈夫。」そりゃ、そだよね。
当たり前だけどちょっと元気になった。
「ありがとう、じゃ、また」

俊太って意外と良い奴だなって、あたしは思っていた。


次の日の放課後、俊太があんな行動をとるなんてまだ予想だにしていなかった。

【学級委員】~俊太side~


「俊、おっはよ~♪」

「遅い!春斗!」

「メンゴメンゴ。許してよ~学級委員さん♪」

「お前、完璧バカにしてんだろー!」

「まぁまあ、二人とも落ち着きなって。」

仲裁に悠が入る。

朝から賑やかに岩瀬春斗、松嶋悠、そして、俺・今崎俊太は、真新しい制服で学校に向かう。

「ところで。」

切り出したのは悠だった。

「今日は仮入部ですね♪」

「バドミントンだろ?」

「うん!俺らそれしか出来ないし。」

俺らは小学校の時、小学生バドミントン大会で優勝している。

「春斗は、テニス?」

「う~ん。どうしよっかなぁ~」

「どっちも行ってみなよ~!じゃあ今日は俺と俊で行ってくるから、とりあえず今日はテニス見てきなよ!」

「ん、じゃあそする。」

そんな話をしてると、すぐに学校に着いた。



靴を履き替えていると、俺の下の靴箱を使う上谷が来た。

「班長、邪魔」

「うっせ、絶対どいてやんねえ」

「う~わ、ほんまそんな男子大っ嫌い。」

「嫌いで結構!」

「まじ、うざい!ふんっ」

俺は高笑いをしながら、教室に向かった。

「なになに~?俊、知らない間に女の子と仲良くなっちゃってぇ~」

「仲良くねぇし。」

「てか、誰あの子?」

「上谷未咲。バド部入るって言ってたけど。」

「へぇ~」

春斗は、意味ありげな生返事をした。

「お前3組だよな?じゃ、またな。」

「ふぁーい。」

あくびをしながら春斗は自分の教室に向かった。

俺も自分の教室に向かった。


入ってすぐに近藤理絵に話しかけられた。

「おはよう、今崎くん」

「え、あ、おはよう」

「先生があとで来てって言ってたから、一緒にいかない?」

「え、なにが?」

「学級委員の仕事。」

「あ、うん」

近藤は俺にすごく自然に何度もボディタッチしてきた。

俺はそういうのにすごく敏感である。

しかも、近藤は友達のとこに戻ってきゃあきゃあ騒いでいた。

だいたい察しが付く。

「俊、あいつ俊の事好きらしいよ?」

悠に言われてはっきりした。

「うん。」

別に興味はない。

適当に返事をした。

「そっかぁ。俊の事だからね。」

「てか、悠、お前5組だろ?やばいんじゃね?時間」

「だいじょぶ!隣やし」

悠は自由人だ。


「班長ぅ~!」

「あ゛?」

「何その返事!?」

「別にいいじゃねぇか、そんで用件は?」

「班長は、仮入部何処行くん?」

「バド部」

「やっぱ優勝したもんなぁあたしの小学校は2位だったから」

「お前もバド?」

「うん。」

「う~わ、嫌やあ」

「だまれぇぇぇええ」

「ははは」

そんないつもどおりのやりとりを上谷としてたら、近藤が来た。

「行くよ、今崎くん」

近藤は俺の腕をぐいっと引っ張って連れて行った。

その時、一瞬上谷の方をにらんだのは俺にも分かった。


学級委員のあつまりの時ホントに暇で、俺は生徒会ノートに落書きをしていた。

下手な絵をぼんやり欠伸しながら見てたら、長かった生徒会が終わった。

まだ冷たい風を浴びながら、俺はバド部に向かった。


仮入部は結構楽しかった。

先輩もみんな優しかった。

筋トレとかは大変だけど、続けて行けそうだと根拠もなく思った。

そして次の日、入部届けを出し、晴れてバド部の一員となった。


ある日、携帯が震えていた。

【着信:林 萌華】

「ふぁい」

『俊太ぁ~!』

「何?」

『元気?』

「元気だけど?」

『うちね、バド部入ったよ!』

「おぉ。」

『俊太もバド部?』

「うん。」

『じゃ、大会とかで会えるかなぁ~?』

「そうだな。」

『岩瀬とかマッツーも?』

「悠は入ったけど、春斗はまだ」

『ふぅーん』

「用ないなら、切るよ」

『つめたぁ!ま、そこが良いんだけど』

「それ、聞き飽きた。じゃな。」

『あのな俊太、うちやっぱ俊太好きやから!』

「はぁ。」

『じゃ!そんだけ』

ブチッ───

切れた。

萌華に告られんのは通算200くらい。

幼馴染の萌華を俺は気になったこともない。

200回中200回NOである。



たくさんの女子と関わることで俺の運命が変わってゆく。


【はじまり】~未咲side~

「おっはー!みさっきー♪

明るく元気なあいさつの発信源はもちろん明奈である。
「あ、おはよ。明奈ぁ」
「何何?入学そうそう浮かない顔して~!?」

「あ、いや、何でもないよ、本当に」

あははと笑ってごまかしたのだが、明奈の目は節穴ではない。

「うっそだぁ~何かあるでしょ、完璧」

「なにもないよ~!?」

そんなやりとりをしていたあたしたちにもクラスの紙が配られる。

「えっと・・・水野・・・・あ!あった、6組だ~!!」

明奈は、6年で仲良くなった。

違うクラスだったのだが、共通の友達を通して知り合った。

今も普通に仲が良いといった感じである。

「上谷未咲」

6組の6番目にあたしの名前があった。

「明奈!一緒の組~!やったぁ☆」

「わ!ほんとだ~!よろしくね☆」

未咲と明奈は共に1-6の並ぶ所に向かった。


前から6番目に、ピカピカのセーラー服で未咲は立った。

前の前、4番目には同じ小学校で仲の良い「唯」がいてちょっと安心。

唯と喋ってたら、未咲の前に可愛い顔した男の子が入った。

目がおっきくて、全体的に可愛い顔。

未咲は少しドキっとしたが、別に気にならなかった。

その頃未咲には彼氏と言う感じの存在がいたから。

向こうから告白されて、オッケーするつもりなかったんだけど

なんか付き合ってることにされている。

少し良いなと思ってたから、適当に返事したら

あっちが喜んじゃって、何も言えないままこうして中1の春を迎えたのだった。



未咲は誰とでも仲良くしたいって考えを持っている。

だから、ちょっと前にいる童顔の少年に話しかけてみた。

「あ、あの」

「え?俺?」

その少年は未咲の目を見た。

改めてみると本当に可愛い。

これにおさげとか付けたら、周りの子より可愛くなるのではとか

考えてまじまじと見てしまった。

「ん?なに?なんか恥ずかしいんだけど・・・」

「あっごめんなさい」

「いや、敬語じゃなくていい」

可愛い顔してるのに口調は低く、冷静って感じだ。

「えっと・・・名前!名前は?」

「は?変な奴だなお前。」

「あ、すいませ──」

「敬語やめろってば」

怒らせちゃったかな・・・。

「あたしは上谷未咲ですっうえたにみさきって読みます。」

「ふん、なるほど。上谷か。」

「あ、そっちは?」

「言わないと駄目?」

「いや、別にいいけど」

「んじゃ、自分で名簿でも見たら?」

そう一言言って彼は立ち去った。

・・・・愛想、悪。

最悪な人。これが第一印象。

ちょっと一人でぷぅーっと膨らんで、名簿を開いた。

『今崎俊太』

これは、『イマサキシュンタ』でいいのかな?

ふぅん。

なかなかカッコイイ名前。

顔に合ってないけど。



クラスに入って自分の席に着く。

初めは名前順でさっきの今崎って人もおんなじ班。

他の班員は伊村唯、小野祐也、天野マナ。

出身小学校が同じなのは唯だけだった。



「班長だれする?」

唯はこういうとき先陣切って喋りだす。

「うち、めんどいからパスで。」

マナはそう言って、体勢を崩し眠ってしまった。

「唯は仕切れる自信ないから、ぱす~」

言い出しっぺの唯もマナの真似して体勢を崩した。

崩しながらこっちを見て、

「未咲ぃ~やって~」

「え?いややぁ~めんどくさいもん」

「頼むって~!」

「んじゃ、小野くんは?」

「誰がやるかっ!めんどいって」

「え~・・・じゃぁ・・・」

と言いながら、俊太の方を向く。

「は?俺ぇ?」

うんうん、とみんなで首を縦に振る。

「・・・・。しょうがねぇな」

「やったぁ!ありがとー!イマサキくん!」

「・・・・と。上谷だっけ?」

「え?うん」

「イマサキじゃなくて、イマザキな。今崎俊太!!」

「そ~なんや、ごめんっ班長っ」

「何それ、おちょくってんの?」

「違うよ~なんか、班長って感じやから」

「おお!いいね~未咲!今から、今崎くんの呼び名は班長にけってぇ~!

「ふーい!頑張れ、班長!((笑」

「小野まで・・・・。」

大きな笑い声が響き渡った。



これが、未咲と俊太の出会いだったのだ。



「学級委員は・・・」

しーん。

「しょうがねぇな、俺やろっか?」

おおっ!

「班長やるやん♪」

「うっせ、馬鹿上谷」

「はぁ?」

また笑いが起こる。

「・・・あの。女子学級委員、あたしが行きます」

「んじゃ、学級委員は今崎俊太君と───」

近藤理絵。

すごくまじめそうな女の子だったが、この子も未咲の運命を左右する大きな存在だった。




君の目に映るあたしはどんなんだったのかな?


あたしの目に映る君はいつでも輝いて───


恥ずかしいけどホント。


ずっと言えなかったけど、あたしは幸せでした。


君といた毎日が幸せで。


しょうもない喧嘩たくさんして、君を怒らせたことだって


今思えば幸せで。


何もかもって表現はちょっと違うけど


本当に何もかもが幸せでした。


ありがとう、俊。


今、幸せですか?


今、笑っていますか?


今、大切な人と過ごせてますか?


幸せなら、笑えているなら。


それであたしは幸せです。


もう一度笑ってほしいな。


俊。


照れた顔も見せてほしいな。


俊。


神様、いるなら聞いて下さい。


ずっと、ずっと俊と一緒に居たかった。


そんな願いは届く事もない。


今日も澄んでる青空に。