Will and Grace(ウィル&グレイス)日本語訳

Will and Grace(ウィル&グレイス)日本語訳

1998~2006まで放送された米シットコムを翻訳。

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ちなみに “I Hurt, Too”

シーズン7エピソード1



ゲスト出演
Jennifer Lopez ジェニファー・ロペス (本人役)


シーン1:ウィルのアパートメント

ウィルが家に帰ってくると、グレイスがリビングに立って、2人の男が椅子を運び込むところを見ている。

グレイス:ヘイ、ウィル。これ見て。

ウィル:それってレオのマッサージチェアじゃない?

グレイス:もうちがう。彼は浮気したもん。ということは、私には彼が戻ってくるまで待つという憲法上の権利があるの。家に忍び込んでウクライナ人男性2人が運べるだけの物を持ってくる権利も。

ウィル:(2人の男に)彼女がチップをくれるのを待ってるんだったら、ずっと待ってることになるよ。

グレイス:(2人の男に)彼の言ったことが聞こえなかった?

ウィル:まったく、ブルックリンに新しい店がオープンしたみたいだな。『アダルテリー・バーン』。You should shop there sometime.

2人の男はウィルの家から出て行く。

ウィル:グレイス。レオから物を盗むなんて……心が狭過ぎるよ。あさましい。

グレイス:あなた用にロレックスももらってきた。

グレイスはウィルに腕時計を渡す。

ウィル:おおー、これ、ずっと欲しかったんだ! やった! でも……だけどグレイス、盗みは……(腕時計をはめて)僕にぴったりだ……こんなことしたって怒りは消えないよ。

グレイス:怒ってなんかないわ。私は怒ったりなんかしないの。このカバラを見つけて以来ね。

グレイスが左手を上げると、腕に赤いリボンが巻かれている。

ウィル:パンの箱に付いてた紐じゃないか。それはカバラじゃないの。それはカ‐パウンド‐ケーキだ。

グレイス:あなたのいやみなんか気にならないわ。ほらね、カバラがマイナス指向はやめたほうがいいって教えてくれたの。私は彼を信じるわ。

ウィル:カバラは人じゃない。

グレイス:じゃあ、どうやって本を書いたの?

カレンが入ってくる。

カレン:ワオ。あのウクライナ人たちったら、エレベーターで凄いコトをしてくれたわ。

ウィル:それじゃあ、結局チップはもらえたようだね。

カレン:あら、何かがちがうわ。ウィルのアイパッチがないし、グレイスのくちばしが変よ。『海賊の洞窟』に何かあったんだわ。それにここに椅子がある。

ウィル:うん、グレイスがレオから盗んできたんだ。僕は万が一ヴィンスが浮気したときのために、彼のヴィンテージ・ナプキンセットに目をつけてる。ヤツは盗られたことにも気付かないよ。大事にしまい込んでるんだもの。

カレン:あなたたち、盗みは犯罪だって教わらなかったの? ほら、私はこのカバラっていう街から学んだのよ。

カレンは左手を上げる。腕に赤いリボンが巻かれている。

ウィル:それは街じゃない!

カレン:じゃあ、どうやって本を書いたの?

カレンとグレイスはカバラ(パンの紐)を着けた腕を合わせる。

ウィル:こんなにもこの宗教を分かってない人がいたなんて信じられない。

ジャックが入ってくる。彼は左腕に大きな赤いリボンを着けている。

ジャック:シャバット シャローム(良い安息日を)! ワールド・ウィンド・ツアーからもどってきたわ。

ウィル:ワール・ウィンド・ツアー(あわただしい旅)のことだね。

ジャック:”ワール中”を回ったっていうの? ワールドでしょ。

カレン:ジャック、帰ってきてくれてうれしいわ!とっても寂しかった!

カレンは左手を上げる。

カレン:ワンダーツインズ・パワー――

グレイスとジャックはカレンの左手に自分たちの左手を合わせる。

カレン・グレイス・ジャック:アクティベイト!

グレイス、ジャック、カレンは大笑いし、ウィルはあきれている。

カレン:それで、ジェニファー・ロペスはどうだったの?

ジャック:親友になったわ。ええ、一緒にショッピングして、一緒に食事して、それから毎晩ワールド・プールでくつろいだの。

グレイス:私のヘッシュおじさんはブロンクス生まれだって言ってくれた?

ジャック:言ったわ。その質問で時間を食ったから、ショーはキャンセルになっちゃったの。

ウィル:ねえ、僕もジェニファーと結婚式で喋ったよ。コート係が彼女にチンチラ毛皮のスカーフを持ってきて、僕が「それは僕のじゃないかな」って言ったんだ。(笑って)彼女は大ウケしてた。そのことは言ってなかった?

ジャック:ええ、彼女はすっごく笑い転げて、脚がつったから映画をキャンセルしなきゃならなかったの。それで、えっと、グレイス。レオのことはとっても残念だったわ。スチュアートとわたしが別れたときも浮気が原因だったのよ。だけどわたしにはどうしてあなたが浮気されたのかわかる、どうしてわたしが浮気したのかも。浮気ってたのしいのよね。

グレイス:レオが浮気したのよ、このバカ。

ジャック:うーんと、彼はほんとに楽しんだと思うわ。

グレイス:あのね、昔のグレイス・アドラーだったらこうしただろうけど……

グレイスはジャックの額をぺチンと叩く。

グレイス:でも、今はミスター・カバラのおかげで新しく平穏を手に入れたから。

ウィル:人じゃないってば! ミスター・ピーナッツじゃないんだから。

ジャック:あー、ミスター・ピーナッツは人じゃないわ、ウィル。

カレン:マメ科植物よね。

電話が鳴る。

ウィル:(電話に出て)もしもし?

ウィル:(グレイスに)あの…… レオ。

ウィル:(息を吐いて)グレイス、いつかは話さなきゃならないんだよ。

グレイス:そうね、あなたが正しいわ。そろそろ向き合うときよね。

グレイスは電話を受け取って、思い切り強く暖炉の中に放り投げる。

カレン:ワオ、だいぶ怒ってるわね。

ジャック:あの子になにが必要? あったかいカバラよ。

ウィル:カバラは飲み物じゃ…… (諦めたため息)お湯を沸かすよ。



シーン2:ウィルとジャックの部屋の前廊下/カフェ・ジャッキース

ジャックはテーブルの上に立って、電話で話している。

ジャック:ごめんなさい。ジャッキースは今日おやすみです。プライベート・パーティがあって予約はできないわ。いいえ、例外はなしよ。あなたが前回ここに来たとき、べろべろに酔っ払ってスタッフにヒドい扱いをしたわよね。

携帯電話で電話しているカレンがエレベーターから出てくる。

カレン:(電話越しに)スタッフに酷いことなんかしてないわよ、マヌケ!

カレンとジャックは電話を切って笑う。

カレン:おお、ジャッキー。あなたが戻ってとっても嬉しいわ。お祝いしましょう!今夜は私のシャワーを覗いていいわよ。

ジャック:できないわ、カレン。ジェニファー・ロペスととっても大事なやくそくがあるの。

カレン:ジャッキー、おいでなさいよ。誰と話してると思ってるの? ジェニファー・ロペスと親友のふりをするのはやめなさい。

ジャックの部屋からジェニファーが出てくる。

ジェニファー:おはよう。赤ん坊みたいに寝ちゃったわ。キッチンフロアのタオルの気持ちよさを忘れてた。

カレン:ケ? キ? ドンテ?  (何、誰、どこ)

ジェニファー:でも、すっごく変な夢を見たわ。私がベッドにいたの。そうしたら、あなたとトビーって名前の男が踊りまわって『セレナ』のシーンを演じ始めたのよ。

ジャック:なにそれ!――わたしたち、上手だったでしょ――変な夢!

ジェニファー:それで、カレン、結婚生活はどう?

カレン:ええ、20分で終わったわ。

ジェニファー:そう。それって短い、よね? あー、もう行かなきゃ。グッズの公表があるの、何人かのブラにサインするって約束するわ。

カレン:おお!ハニー!ほら、私のブラに。ブラにサインしてちょうだい。

カレンは跳び上がって、ジェニファーにペンを渡すと、ブラウスを肌蹴る。

ジェニファー:あー、ブラを着けてないみたいだけど。

カレン:サインおし!

ジェニファーはサインする。

ジェニファー:なんて光栄。シェリル・クロウの隣だなんて。

カレン:私はハードロック・カフェって呼んでるわ。

ジェニファー:じゃあ、ありがとう、ジャッキー。とっても楽しかった。

ジェニファーはエレベーターのボタンを押す。

ジャック:OK、ジェニファー。バーイ!

ジェニファー:待たなくていいわよ。

ジャック:ううん、気にしないで。ぜんぜんいいの。

気まずい間。

ジェニファー:アイラブユー。

ジャック:こちらこそ!

気まずい間。

ジェニファー:あなたは親友よ。

ジャック:一生の。

ジェニファーはぎこちなく笑う。

ジェニファー:(小声で)ちくしょう、いつになったらエレベーターが来やがるの。

エレベーターのドアが開く。

ジェニファー:おお!やっと!

ジェニファーはエレベーターに乗る。

ジェニファー:さよならエンジェル!

ジャック:さよなら、スウィーティー!

ジェニファー:(小声で)もう、さっさと閉まれ!

エレベーターのドアが閉まる。

カレン:(ジャックに)ハニー、彼女ったらあなたに夢中じゃない!あなたはJ.ロー(ジェニファー・ロペス)のJ.モー(ジャック・ホモ)よ。

ジャック:そう。彼女はわたしが大好きなの。彼女が寝てる間に動画まで撮った仲なんだから。

カレン:なんて素晴らしいの。それで、私の新曲は渡してくれた?

カレンはジャックに譜面用紙を渡す。

ジャック:何? いつから作曲なんてするようになったの?

カレン:えーと…… フィニーと別れてからかなり落ち込んでたの。それで、ロジーと一緒にハワイに飛んで、ハレクラニにチェックインして…… わからないけど。ある夜、自分の気持ちを紙に書いてみたら。ほら、ロジーよ。彼女はどこにでもウクレレを持っていくでしょ。気付いたら、私は歌を書き上げてたってわけ。『ちなみに:私も傷ついた』

カレンはジャックに楽譜を見せる。

カレン:J.ローにぴったりだと思うわ。

ジャック:うーん、どうかしら、カレン。だって、たしかにわたしたちは友だちよ。でも、ただ歌のためなんかに、彼女との仕事と友情を失いたくないの。

カレン:わかったわ。(歌って)ちなみに、私はもう泣かないわ、おお――

ジャック:これはヒット曲になるわ!!

カレン:でしょ!!



シーン3:ウィルのアパートメント

ウィルはソファに座って雑誌を読んでいる。

肩にゴルフバッグとランプと大きな鞄を掛けたグレイスが入ってくる。

ウィル:ヘイ。今日はどこで買い物したの? アマーサー・チーター(浮気)? (マーサー・シアター) エクストラマリタルセックス不倫・フィフス・アベニュー? (サックス・フィフス・アベニュー) クレイト・アンド・バスタード(人でなし)? (クレイト・アンド・バレル)

グレイス:あなたが何と呼ぼうとも、ファイヤーセール(処分市)だったわ。だって全部の物がなくなったときが、ファイヤーになるいい機会だから。あなたにもいい物を持ってきたわ。おめでとう。あなたは今からNYUメディカルスクールの卒業生。

グレイスはウィルに卒業証書を渡す。

ウィル:おお!

ドアのノック音。ウィルは覗き穴を覗く。

ウィル:(グレイスに)レオだよ。

グレイス:はあ? レオがここに?

グレイスはテーブルの上の携帯電話を床に叩きつける。

ウィル:ちょっと!それ無料じゃないんだよ!電話ばっかり壊すんだったら、それも盗ってきてよ!

グレイス:盗ったわ!鞄の中!どうして彼が来たの?

ウィル:たぶん君と話すためだろうね。

グレイス:何、彼は私を待ち伏せしてるの? どうして電話してこないのよ?

ウィル:たぶん君が電話を盗んだからだ。

グレイス:いや。だめ、だめ、絶対会わない。そんなに簡単じゃないわ。彼に話す準備ができるまでは話さないわ。私たちは、「私が」準備できたときに話すの。

再びノック音。

グレイス:追い返してよ。

ウィル:グレイス、僕は……

グレイスは電話を手に取る。

グレイス:これはあなたのケータイよね? 壊れやすそう。

ウィル:わかった、わかった!

ウィルはドアを開ける。

レオ:よう。

ウィル:やあ。

レオ:あの、俺は本当に彼女と話したいんだ。それに、あー、ちょっとパニクってる。家が泥棒に入られてね。

ウィル:聞きたまえ、あー…… 彼女は君に会いたくないそうだぜ。

レオ:「だぜ」?

ウィル:僕は怒ると男らしくなるんだ。

レオ:頼むよ、ウィル。助けてくれ。

ウィル:そうはいかねえぜ、あんちゃんよ。

レオ:ウィル、彼女はお前の言うことなら聞くだろ、頼むよ。

ウィル:悪りぃな。そうはいかねえってもんでえ。

レオ:いい加減それやめてくれる?

ウィル:そうしたいがな、ジョニー、あの犬っころは役に立たねぇ。

レオ:何?

ウィルは少し考える。

ウィル:……フットボール。

ウィルは部屋の中に入っていく。

ウィル:(グレイスに)僕が何とかしたよ。彼にはちょっと厳しかったかも知れないけど、びびって逃げたと思う。本当に、僕が脅したからレオはもう顔を見せられないよ。

レオが入ってくる。

ウィル:おお!

レオ:(グレイスに)話を聞いてくれよ。

ウィル:あの、僕が席を外すよ。その前にちょっと、この……

ウィルは携帯電話を取る。

ウィル:タイタニックのテーマソングに着メロに変えたばっかりだから……

ウィルは寝室に入っていく。

レオ:さて…… 聞いてくれ、君が怒ってることは分かってる、だけど…… 信じてくれよ。君が俺を憎んでる以上に俺は今俺を憎んでるんだ。本当に、俺は最低な最悪なことをした。言い訳はできない。だけど、君が恋に落ちた男を思い出して。その男はまだ俺のはずだ。愛してるよ、グレイス。喧嘩もせずに別れるなんてできない。

グレイスはレオの方へ歩いてくる。

グレイス:へえ、喧嘩したいの?

レオ:その前に他のことも言ったけど。おい、あれは俺の卒業証書?

グレイス:ちがうわ、うぬぼれ屋!ドクター・レオ・マーカスはニューヨーク市にあなた1人じゃないのよ。何考えてるの? 私にばれないとでも思ってたの?

レオ:俺が言ったから君が知ったんじゃ……。

グレイス:自分で気付いたかもしれないわ。知り合いが多いもの。

レオ:カンボジアに?

グレイス:ええ、そうよ、カンボジアの浮気者!

レオ:わかった。

グレイス:あなたがどれだけ私を傷つけたか分からないの? 私はここに座ってあなたのことを待ってたの。毎晩毎晩毎晩。別に誘いがなかったってわけじゃないわ。ほんとよ!ドッグフードの缶詰を開けたときみたいに、男達が群がってきちゃってもう大変ったら!だけど私は何もしなかった。どうしてかって? これのためよ。

グレイスは指輪をはめた指を見せる。

グレイス:これは信頼と貞節の象徴だから。だけど考えてみれば、私にはもう必要ないわ。もうあなたを信用してないんだから。こんな指輪いらない。

グレイスは指輪をレオに投げつける。

レオ:頼むから返さないでくれ。愛してるよ、グレイス。聞いてくれ、俺たちはきっと乗り越えられる。俺がやったことは最低だったと思う。だけど、ひょっとしたら、ひょっとしたらやり直せるかもしれないだろ? つまり、少なくとも話し合う義務はあると思わないか? ほら、グレイス。チャンスをくれよ。

グレイス:私には何の義務もないわ。出て行って。

レオはウィルのアパートメントから出て行く。



シーン4:ニューヨークの電車の中。

電車内は満員。ジャックは優先者席に座っている高齢夫婦のところへ歩いていく。

ジャック:ハーイ。すみませんけど。ここは障がいがある人のための席よ。悪いけど。

高齢夫婦は席を離れる。

ジャック:(老夫婦に)ありがとう。ありがとう。(ジェニファーに)ヘイ、ジェン、席があったわよ!

ジェニファー:おお、助かった!

ジャックとジェニファーは座る。

ジェニファー:おお!電車って大好き。私の『On The 6』っていうアルバムは On the 4にインスピレーションを受けて作ったのよ。

ジャック:ジェン、あなたの暴露話って好きよ。あなたのベントレーで聞くと もっと面白くなるわ。

ジェニファー:ダメよ、ジャック。ニューヨークにいる間は庶民でいることにしてるの。電車に乗って、スティックボールをやって、夏には消火栓を金梃子でこじ開ける。サツがうるさいけど、目をぐるっと回して「ありゃジェニファーだぜ」っていうだけよ。

ジャック:ニュージャージー出身の男たちが車からわたしに缶を投げつけてくるって訴えるときも同じ反応をされるわ。「ありゃジャッキーだぜ」って。

カレンが歩いてくる。

カレン:こんなところで何してるのよ? こんなにたくさんの移民を見たのはモーリタニアがエリア島を支配して以来だわ。

ジェニファー:ヘイ、カレン。

カレン:おお、ハハハ。こんにちは。

ジェニファー:ねえ、私のおじいちゃんはエリス島を通ってきたのよ。侵略されてロペスオルティスが省略されたの。くだらない噂話はいっぱいあるのにこれは知らないんだから、勘弁してよ。

カレン:そうね。えーと、あの、私たちはばったり会ったことだし、偶然に。これをコピーして……

ジャック:(遮って)あの、ジェン、私はちょっと友だちと話があるの。それはこの手に持ってる楽譜とはなんの関係もないことよ。

ジェニファー:構わないわ。私にはこの『アンナ・カレーニナ』の本があるから。オプラのブッククラブに追いつかないと。

ジェニファーは本を取り出して読む。

ジャックがカレンを脇に引っ張っていく。

カレン:ハニー、何をするの? 私の曲をJ.ローに渡してくれるって言ったじゃない。

ジャック:カレン、彼女はしょっちゅうだれかに曲を渡されてるの。いい雰囲気になるまで待つのが秘訣よ。

カレン:OK、ジャック、あなたを信じるわ。

ジャック:ええ、いいタイミングまで待ちましょ。

ジェニファーは本を読んでいる。

ジェニファー:(独り言で)ああ、傑作! 私がこれにオプションをつけるわ。アンナが最後に自殺しないバージョンよ。彼女はバンドを結成するの。

通りがかりの男性がそれを聞きつける。

男:自殺する? 600もページ先の話を喋るなんて。

ジェニファー:ごめん。

男:まあいいや。ねえ、次のアルバムはいつ発売?

ジャックとカレンがジェニファーの隣に戻ってくる。

ジェニファー:(通行人に)ああそうだ。私が早く着くほどいいCDができるのよ。イライラが溜まってる。何か新しいものが必要よ。

カレン:(ジャックに)ハニー、チャンス到来よ!

ジャック:まだよ。

ジェニファー:(通行人に)私がいろんな人にどんな曲を掴まされてるかあなたは知らないでしょうけど。

カレン:ハニー、曲なら持ってるわ!

ジャック:まだよ。

ジェニファー:(通行人に)どうして歌の歌詞っていつも男目線なの? 女の視点からっていうのはないわけ? だって、言わせてもらうと「私だって傷ついてる」わ!

カレンはジェニファーに楽譜を見せようとするが、ジャックがそれを遮る。

ジャック:まだよ!

ジェニファーの携帯電話が鳴る。応えて。

ジェニファー:(電話に)もしもし? 何? なんてこと!そんな!人生最悪!ああ、もう駄目。

ジェニファーは電話を切る。

ジャック:今よ。

ジャックはジェニファーの膝に楽譜を置く。



シーン5:ウィルのバスルーム

ウィルは泡風呂に入浴している。アロマキャンドルがあちこちに置かれ、ウィルはバーブラ・ストライサンドのCDを聴きながら、ワインを飲んでいる。

(歌)ただ座ってだらだら生きろだなんて言わないで/人生はキャンディで太陽はバターなんだから♪

グレイスがバスルームのドアを開ける。

ウィルは慌てて音楽を消す。

ウィル:ヘイ、スウィーティ。

グレイス:ワオ。ウィッグとネイルを付けずに口パクしてるとこを目撃したのは初めてだわ。

グレイスはバスルームを見回す。

グレイス:素敵ね。

ウィル:君のために用意した。色々辛かっただろうから。だけど良くできたから試してみたくて……

グレイス:私を思いやってくれてありがとう、結局自分で楽しんじゃうまではね。

ウィル:友達だもの、当然だよ。

グレイス:そうだ、聞いて。質問。レオにもう一回チャンスをあげるのって……間違いだと思う?

ウィル:ワオ。

グレイス:でしょ。

ウィル:ワオ、僕に答えられるかどうかわからないな。

グレイス:あなたがやらなきゃならないわ。だって私にはどうしたらいいかさっぱりわからないんだから。

ウィル:もし僕に言えっていうのなら……

グレイス:言えって言ってるの。

ウィル:わかった、彼のところには戻るべきじゃない。

グレイス:わかった、彼のところに戻るわ。

ウィル:どうしてそんな? いつも僕を騙すんだから!

グレイスはウィルから目を逸らす。

グレイス:あー、あなたの潜水艦を氷山で隠した方がいいんじゃない?

ウィル:おお!

ウィルは泡で体を隠す。グレイスはバスタブの縁に座る。

グレイス:ねえ聞いて。レオがやったことは間違ってるわ。絶対に。大罪よ。間違いなく。でもそれが結婚生活を投げ出すほどの大罪かどうか、私にはわからないの。つまり、私が彼を許す方法を見つけられるかもしれないんじゃない? 少なくとも試してみるべきじゃない?

ウィル:どうかな、スウィーティ。だって、君は相当怒ってるよね。

グレイス:そう。でも、気が済んだ。

ウィル:ああ、壊す、盗む、叫ぶでね。カバラの3本柱だっけ?

グレイス:それで今は全部の怒りが消えて、ただ悲しいの。彼が恋しいわ。

ウィル:スウィーティ、あのね。君がどんな結論に至ろうとも僕は君を支えるよ。

グレイス:ありがとう。あなたとはどんなことでも分かち合えるわ。

グレイスは便器の蓋を開ける。

グレイス:ちょっと失礼して……

ウィル:君のトイレは一階!



シーン6:中華レストラン

ウィル、ジャック、カレンがバーで待っている。

ジャック:ジェニファー・ロペスがわたしをクビにしたなんて信じられないわ。なにをしくじったのかしら。あたまの中で何回もシミュレーションしたのに。彼女の犬が死んで、わたしがミッドテンポのバラードを渡すとこ。

カレン:ハニー、ハニー、これを飲んで。私がご機嫌を直してあげるわ。

ジャックは飲む。

ジャック:どうしてこんなに胸が痛いの?

ウィル:たぶん君がプラスチックの剣を飲んだからだ。

ジャック:そもそもどうしてわたしたちがグレイスとレオと食事なんかしなきゃならないの?

ウィル:聞いて、グレイスは彼にもう一度チャンスをあげることに決めたんだ。だから、僕たちが味方だってことを示すためにこの食事会をセッティングした。でも、完璧にカジュアルだよ。6コース、シャンパン、控えめな装飾。ああ、絶対に自分の指定席に座るように気を付けて。はは、何言ってるんだろう、招待状に全部書いたのに。

ジャック:彼にどんな態度とっていいかわからないわ。好き? きらい? わたしのものまねはちゃんとウケるかしら?

ウィル:何でもいいから、ただ普通の人間らしくしてて。

レオとグレイスが入ってくる。

レオ:やあ、君たち。

ウィル:ヘイ。

ジャック:(アイルランドのアクセントで)おはよう、レオ!それにグレイスったら。めずらしくイイカンジじゃない。

カレン:(イギリスのアクセントで)男っぽいけど私も好きよ。

レオ:あの、みんな本当にありがとう。こんなに気まずくなった理由は明白だけど、今夜は奢らないよ。ハハハ!

誰も笑わない。

ジャック:あら、きまずくなったのはあんたが浮気したからだと思ってたわ。

グレイス:ねえちょっと、やめてよ。

レオ:いや、いいんだ。大丈夫。俺は大人だ。

カレン:ウーウー。アダルトって意味ね。

ジャックとカレンは笑う。

カレン:ウケたわ。

ジャック:おもしろかった、クマさんみたいな声を出すんだもん。

ウエイトレス:テーブルのご準備ができました。

ウィル:(グレイスとレオに)君たちが先に。僕らは後から行くよ。ちょっと話したほうがいい。

グレイスとレオはテーブルのほうへ歩いていく。

ウィル:(ジャックとカレンに)何やってるのさ?

ジャック:わかってるわ、わたしのものまねが面白くなかったのは。

ウィル:僕のいうこと聞いてなかった? 僕たちはグレイスを支えるために来たんだよ。大人らしく振舞って。

ジャック:ウーウー。クマだぞ~!

カレン:ジャック、ウィルの言うとおりよ。私たちはグレイスとレオの結婚生活を支えなきゃならないのよ。

ウィル:それだけ? 何? 真剣に言ってるの?

ジャック:だけど、質問があるわ。あなたは認めてるの、ウィル? だって、ほんとにこれがグレイスにとっていい決定だって思ってる?

ウィル:何、君も真剣なの? どうなってるわけ? ちょっと前までクマの真似なんかしてたじゃないか!

カレン:ウーウーウー!

ジャック:ガオー!

グレイスとレオのテーブルにカット。

レオ:えーと。

グレイス:ええ。

レオ:なんだか変だな。初デートのときみたいだ。

グレイス:確かに、初デートのときみたいね。最後にあなたと寝た人が私じゃないってところが。(ぎこちなく笑って)ごめんなさい。

レオ:いや、いいんだ。許すよ。これでおあいこだろ。(笑う)

気まずい間。

レオ:おあいこじゃないってね。全然。ぜーんぜん遠い。

ウィル、カレン、ジャックがやってくる。

レオ:やっと来た。あんまり遅いからレスキュー隊を呼ぶところだったよ。

ウィル、カレン、ジャックは無理やり大笑いする。

ジャック:(笑って) レスキューだって。

レオ:笑ってくれてありがとう。全然面白くなかっただろ。

ジャック:ええ、ちっとも。

カレン:(笑って)くだらなすぎて忘れられないわ。

ウィル:(笑って)おなか減った。もう愛想笑いしなくていいかな。

グレイス:よし、食べたい物決まった。四川風牛肉。

ウィル:あー、どうかな。前回食べたときは酷い目に遭っただろ。

グレイス:注文しないほうがいいと思う?  

ウィル:うーん、君次第だよ、グレイス。

グレイス:あなたの意見を聞いてるの。

ウィル:もし僕に言えっていうなら……

グレイス:言えって言ってるの。

ウィル:それならわかった。前回あんな酷い目に遭ったのに、また四川風牛肉を頼むなんて馬鹿らしいと思う。

グレイス:うーん、まあそうよね。

ジャック:このフライド”チキン”の甘辛酢あえはだれ? チキン以外にしようとは思わなかったのかしら。(笑って)おお、スタンダップ・コメディやってたころがなつかしいわ、カレン。

カレン:あなたはたくさんのチキンをちょっとずつつまんできたものね。私たちみんなが心の中では思ってるわよ。でも、あなたはそれを口に出すの。

ウィル:(グレイスに)それで、今度は食べても大丈夫だと思ってるわけ?

グレイス:もしかしたら、わからないわ。

ウィル:ふむ。

グレイス:牛は変わるかもしれないでしょ。

ウィル:本当に? 本当に一度痛い目にあったものをまた同じように注文する気?

レオ:北京ダックがいいんじゃない? 何の比喩もなさそうだから。

グレイス:牛に2度目のチャンスをあげて、また痛い目に遭うかどうかは試してみないとわからないもの。

ウィル:わかったわかった、牛肉にしなよ。でも、僕に取り分けてもらおうなんて考えないでよ。

レオ:あの……牛肉から一言言っていいかな。

カレン:ソラジンに浸ってたらいいわよ。昔ロンドン・ブロイルと一緒に食べたら最高だったわ。彼は本当に……

ジャック:カレン、ちょっとちょっと。牛肉っていうのはだれのことかはっきりしてるでしょ。牛肉には聞いてもらう権利があると思うわ。

(ジャックは立ち上がる)

ジャック:今日わたしはジェニファー・ロペスにクビを言い渡されたの。ここにいる全員が落ち込んでることはわかってる。でも、あなたの結婚生活や、あなたとウィルの結婚生活とほとんど同じような関係にもダメージを与ちゃうとは思わなかったわ。(声が割れて)ごめんなさい。みんな今日はわたしのために集まってくれてありがとう。牛肉からのおはなしでした。

ジャックは座る。

カレン:おお、ハニー。あなたは世界一のおバカよ。

レオ:ウィル、俺に言いたいことがあるならはっきり言ってくれ。

ウィル:わかった。僕は我慢できない。できると思ったけど、できないよ。僕は彼女を頼むって君に引き渡したのに、君のほうはそれを台無しにしたじゃないか。申し訳ないけど、何もなかったことにするなんてできない。君が外出するたびに、どこに行ったか気になって仕方ない。君が他の女性を見る度、「また同じことがあるんじゃない?」って心配になっちゃう。もう信用できない!そう!怒ってるの!(女性らしく怒っている。)

グレイス:ウィル、それは言い過ぎよ。

レオ:いや、彼の言うとおりだ。俺は彼の信用を失うようなことをしたんだから。台無しにしした。彼にがっかりされても仕方ない。みんなをがっかりさせたよな。

ジャック:(小声でカレンに)レオったら急に自分が主役みたいに思っちゃって、やーね。

レオ:聞いてくれ、ウィル。どうしようもないけれど、元に戻せる方法があればいいと思ってる。君が目に付けていた俺のロレックスをあげようと思ったけど、もう着けてるみたいだな。

ウィルは腕時計を着けた腕を隠す。

レオ:俺が言いたいことは、グレイスを傷つける気はなかったっていうことだ。君のことも。頼むから信じてほしい。

ウィル:いつかは許すよ。

グレイス:ねえ聞いて。この全員に共通してる目的があると思うの。全員が私のことを愛してくれて、幸せを願ってくれてる。でしょ?

短い間。



カレン:ふむ。

ウィル:まあ。

ジャック:注文しない?

グレイス:ウィル、私はレオといて幸せなの。それに私はやり直したい。だから、友達にはそれを応援して欲しいの。お願いだから、ね? お願い。

ウィル:頑張るよ。この時計を返さなくていいなら。



シーン7:レオとグレイスの寝室

レオとグレイスがベッドに入る準備をしている。

グレイス:ねえ、今夜は楽しかったわ。

レオ:ああ、俺もだ。最初は危なっかしかったけど、終わり良ければすべて良し。ジャックのスタンダップも面白かったよ。彼の言うとおりだ。白人は確かに他人種のこととなると神経質だよな。

グレイス:ええ、ジャックは観察眼が鋭いユーモアをパクるのが上手いの。だって、「どうして私たちはパークウェイでドライブ(運転)してドライブウェイでパーク(駐車)するの」?

レオ:元に戻れて嬉しいよ、グレイス。

グレイス:私も。

レオ:それに、みんなが認めてくれてよかった。いや、どっちらにしろ他の奴らがどう思おうが関係ないよな。大事なのは俺たちの意見だけだ、だろ?

グレイスは静かに振り返ってレオを見る。



シーン8:ウィルのアパートメント

ウィルはベッドに入る用意をしている。ウィルがリビングの電気を消すと、ドアのノック音が聞こえる。

覗き穴を見てドアを開ける。廊下に大きなバッグを持ったグレイスが立っている。

ウィル:グレイス?

グレイス:やっぱり無理。終わったわ。

ウィル:そう。

ウィルは泣いているグレイスを抱き締める。



シーン6:電車

カレンとジャックが電車に乗っている。

ジャック:あなたがもう一度電車に乗りたいっていうなんてビックリよ。

カレン:あら、だってこの前乗ったときにとってもいい大麻――(警官が通りかかる)タイマーのお店を見つけたんだもの。

ジェニファー・ロペスが入ってくる。叫んでいる。

ジェニファー:ちょっと、その銃は さあ、取りなさい!はやく!私はジェニファー・ロペスよ。ゴミは嫌い!

ジャック:ジェニファー!

ジェニファー:ジャッキー!おお、会えて嬉しいわ!

ジャック:わたしも!

ジェニファー:とっても会いたかった!また一緒に踊ってよ。

ジャック:またわたしを雇ってくれるってこと?

ジェニファー:いや、まさか。そんなふうに受け取ったの? 悪いけど駄目よ。一度クビにしたら、もう二度と雇わない。それが私のポリシーよ。

カレン:でも、ポリシーは単なる行動の指針で、絶対じゃないわ。

ジェニファー:それって、あなたの歌詞よね。そこが一番ダサかったわ。(ジャックに)とにかく、あなたのために仕事を見つけてあげたわ!ジェネット・ジャクソンと踊るのよ。

ジャック:ジェネット・ジャクソン! なんてこと! それってもっとスゴイ!!…… じゃなくて、まあしょうがないわね!

電車が停車する。

ジェニファー:やっと!ここで降りるわ。じゃあね。

ジェニファーは電車のドアが開くのを待つ。

ジェニファー:会えてよかったわ、ジャック。

ジャックはジェニファーに手を振る。

ジェニファー:元気でね、カレン。

カレンはジェニファーに手を振る。

気まずい間。

ジェニファー:ええ。(ため息)またね。

ジャック:じゃあね。

ドアが開くが、すぐに閉まってしまう。

ジェニファー:悪夢よ。