2026年1/10に行われたシリア全土への米軍空爆に関する法的・政治的正当性の検証 アメリカ合衆国が実施したシリア全土への大規模空爆「オペレーション・ホークアイ・ストライク」は、現代の国際秩序における「武力行使の正当性」を根底から揺るがしている。本件が国際法という建前の上でいかに正当化され、同時にいかに蹂躙されているかについて、事実関係に基づき分析する。 アメリカ政府が主張する正当性の根拠は、主に二つの論理に集約される。


第一に、国連憲章第51条に基づく個別的自衛権の行使である。2025年12月にパルミラで米兵が殺害された事案を、国家に対する武力攻撃と定義し、それに対する直接的な対抗手段であると位置づけている。トランプ政権のピート・ヘグセス国防長官は、これを「米兵に対する攻撃への断固たる対応」と呼び、自衛の権利を強調した。

第二に、シリアのシャラ暫定政権による同意の存在である。他国領土での武力行使を禁じた国連憲章第2条4項には、当該国の正統な政府による要請や同意があれば介入が可能という例外規定がある。アサド政権崩壊後のシリアを統治するシャラ暫定大統領が、テロ掃討を名目に米軍の介入を容認したという体裁が、形式上の合法性を支える最大の盾となっている。 


しかし、これらの主張を精査すれば、国際法上の重大な瑕疵が浮かび上がる。 

まず、自衛権の行使に不可欠な「必要性と均衡性」の原則からの逸脱である。数名の犠牲に対し、全土35拠点に90発以上のミサイルを投入する行為は、脅威の排除という防衛的枠組みを超えた懲罰的攻撃の性格が強い。国際法において、報復を目的とした武力行使は厳格に禁じられている。 

次に、自衛権の前提となる「差し迫った脅威」の欠如である。自衛権は現在進行中の攻撃を阻止するためのものであり、過去の事件に対する仕返しには適用されない。ヘグセス国防長官が公式に「復讐(Vengeance)」という言葉を用いた事実は、これが法的な自衛ではなく、感情的な報復、すなわち違法な武力行使であることを自ら露呈させた形となった。 

さらに、シャラ暫定政権の代表性という問題がある。国際社会が完全に承認しきっていない段階の暫定政権による同意が、国家主権を委ねるに足る正当性を持つのかという疑念は拭えない。テロリスト出身とも評される指導者が、かつての敵対勢力である米軍に空爆を依頼する構図は、主権国家という概念そのものを形骸化させている。 



結論として、今回のアメリカの行動は「法の支配」ではなく、自らに都合の良いルールを抽出して利用する「法の利用」である。ベネズエラでの強硬策から続くこの傾向は、他者の主権を自国の利益で上書きする法的な植民地主義を加速させている。ISIS掃討という正義の皮を被ることで手続き上の違法性を不透明化させる手法は、力こそが正義であるという現実を突きつけている。シャラ暫定政権がアメリカの暴力に依存し始めたことで、シリアの主権は守られるどころか、別の形で切り売りされる段階に入ったといえる。この偽りの正当性が導く先には、国際規範のさらなる崩壊が待っているだろう。