時々、してはいけないこととわかっているのに無性にしたくなる衝動に駆られる時がある。





信号待ちのおじさんに、強烈なカンチョウをお見舞いしたいという衝動




カップルがセットしたカメラを、思い切りどこかに投げたくなる衝動






くしゃみが出そうな他人の口を全力で塞ぎたくなる衝動






常識を覆す行動をした時、常識にとらわれている周りはどんな反応を起こすか、検討もつかないからである。






考えただけでも既に面白い。






犯罪じゃなければある程度の衝動は、度胸次第ということになる。







そんな度胸はないが。







しかし、私の友人にはそれをやってのける強者がいた。










中学3年の夏、




部活も引退して、受験勉強が流行った。





『周りがしているから』




という理由で便乗する。何とも日本人らしい。







図書館には、50人くらいが入れるスペースを自習室として貸し出していた。





一緒に来た友人とは、今でも親友と言い合えるくらいの仲である。





自ら学ぶ部屋と称するだけあって、部屋は静かで、文字を書く音が聞こえていた。






2人はその環境を壊すことなく、周りと同化した。





最後列の席ということもあり、ふと周りを見渡すことでさらに緊張感を味わえた。






友人も同じことを思ったのか、そこには寡黙に勉強に取り込む姿があった。














2時間くらいはしただろうか、少し背伸びをしながら思ったその時だった。


















ぷ〜〜〜〜〜〜〜〜〜ぅぅぅううう!















!!!??












自習室に響き渡った。
子供の頃、それの真似をしてといわれたら1番に思いつくらいスタンダードなやつが。






 
私はまさかと友人を疑ったが、先程よりも背筋が伸びていて、机に対して真剣な眼差しを向けていた。


が、少し口角が緩んでいるのを確認した時、犯人と確信した。





















友人は豪快におならをしたのだ。











友人はこの自習室という静かな環境で堂々とおならをやってのけたのだ。





しかも、それは眠っていてうっかりとかでもなく、自身の意思で。





そして、一般的なおならに比べると、少し違和感を覚えるくらいの長さからして、出している間も一瞬たりとも躊躇がなかったと言える。








友人はしてみたいという衝動を実行した。









その勇敢さに、一瞬少しかっこいいと思った。











本当に一瞬。
















常識を覆すことが起きた時、常識に囚われていた人達はどうなるのだろう?






囚われていた身ではあるが、驚愕し、一瞬かっこいいとも判断した自分は、犯人と面識があり、どちらかといえば起こした側の人間。










自習室の反応が気になった。








周りは、少し手が止まったようにも見えた。
しかし、誰も振り向くこともなく、疑うこともなくただひたすら机に向き合う様子であった。









いや、振り向けなかったのかもしれない。










堂々と響き渡ったおならに対して、考えることをやめたのかもしれない。











なかったことにしたのだ。












振り向いて、犯人が分かったとしてどうなる?何も解決しない。












そもそもこの件に関して、何が解決かもわからない。








あまりにも大胆すぎるそのおならは、ありえないという常識の壁に飲まれて、なかったことにされた。









話を少し戻すが、実は音がした時、すぐに犯人が友人と確信したのには、もう一つ理由があった。







もうここからは読まないでくれても構わない。














友人は、おならを操ることができた。



だから、『またか』という気持ちが少しあったのだ。




尚且つ、臭いか臭くないか判断をすることができるのだ。




嘘だと思うが、本当に操ることができるといつも隣にいる私が断言する。






『これは臭くないやつ』と言ったら本当に臭くないのだ。







何度もこういうことがあり、彼の能力には信頼をおいていた。










そして人前では臭いおならはしない人だった。













だから臭いに関しては99%の信頼があった。











間もなくして、友人と2人で静かに自習室を後にすることにした。













なるべく拡散しないように。










匂いに関しての信頼を1%欠いてしまったのは、この物語のせいというのは言うまでもない。