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たまに更新してます♪

何気に過ごした今日という日。
それは昨日亡くなられた方がどんなに願っても手に入れる事の出来なかった明日という日。

「マナブ。小学校のときに同じクラスだった丸山君て憶えてる?
 あの子、先日病院で亡くなったそうよ。
 今日がお通夜なんだけど、あなたも一緒に来なさいね」

中学校から帰って来た学は突然の母の言葉が理解できなかった。
<丸山が死んだ? 丸山って何カ月か前に駅前で偶然会って話したじゃん>

今まで想像もしたことが無い同級生の死という事実は、学の頭の中を素通りしてなかなかとらえることができなかった。

実際、学は丸山とそれほど仲の良い友達という関係では無かった。
直ぐに思い出せる想い出と言えば小学校6年のときのドッチボールの試合のときのことくらいである。


「丸山って結構ドッチ上手いじゃん。普段あまりやらないから下手なのかと思っていた」
毎週放課後にある自由参加のクラス対抗ドッチボールの帰りに学は丸山と一緒の帰り道でそう話しかけた。

「そんなことないよ。でも勝ててよかったね」

「また来週も一緒にやろうよ」
学は普段あまり遊ばない丸山だったが、ドッチボールでは気が合ったのでなんとなく親近感が湧いていたのだ。

「うん。でも今日は特別なんだ。普段は塾があって放課後は直ぐに帰らないと間に合わないからね。
 今日は運よく塾の先生が休みなのが分かっていたから、母さんがたまには友達と遊んできて良いって言ってくれたから」

「そうなんだ。毎日塾で勉強なんて大変だな。だから丸山は頭良いんだな」

「いや、塾の勉強は受験用で学校の勉強とは違うんだ」

「丸山って中学受験するの?」

「うん、親がその気で4年の頃から勉強させられているんだ」
丸山はそれが普通のことのように答えた。

「僕は中学は公立だから勉強は必要ないけど、やっぱり受験は大変なんだろうな」

「まぁ、あと少しだし入るまでだから。親の期待もあるし頑張ってみるさ」
自分でもまんざらではないような口調で丸山は独り言のように言った。

以上が学が憶えている丸山との小学校での思い出である。


葬儀は近くの公民館で行われていた。
行ってみると同級生がそれぞれの親につれられ散見された。
学区が違うために小学校以来久しぶりに見る顔もあり、学はなんだか同窓会のような気持ちになっていたが、
さすがに周りが神妙な雰囲気のため声をかけることができず、互いに小さく手を挙げて挨拶する程度ですれ違うのであった。


祭壇では大きく引き伸ばされた丸山の写真が笑っていた。
<あれはきっと小学校の頃の写真だな>
学は母親をマネて焼香をしながらそう思った。

焼香が終わると簡単な食事が用意されていると案内されたが、学達同級生は皆外でたむろい、母親達は挨拶だけということで会場へと別れた。

こういう場で会う同級生は、普段街で会うのとは違い各々がちょっと大人びて見え、会話も必然的に小学校時代を懐かしむ話題ばかりが交わされた。


「丸山君、実は自殺だったらしいよ」
家に帰ると母はちょっと気まずそうに学に教えた。
お通夜の席で丸山と仲の良かったママ友がそっと教えてくれたそうだ。
「状況はよくわからないけど、お母さんが発見して直ぐに救急車で病院に運んだけど間に合わなかったんだって」

学はそれを聞くと何も言わずに自分の部屋へ向かった。

部屋に入った学は力なくベッドに座り、ほんの数カ月前に駅前で丸山と会ったときのことを思い出した。


「木村君?」

「あれ?丸山じゃん。久しぶりだね」

「木村が本屋にいるなんて、珍しくない?」

「別に。今日は漫画の発売日だからちょっと立ち読みにね」
そうい言うと学は照れ笑いした。

「丸山は相変わらず参考書でも探しているの」

「僕は塾までまだ時間があるから時間つぶしだよ」

そう言うと丸山は腕時計をちらっと見ながら
「そうだ。まだ時間あるからちょっとマックにでも行かない?」
と学を誘った。

夕方の駅前のマックは学生が沢山いたが、窓際のスタンド席にはまだ少し空きがあった。
二人はコーラを買って並んで座ったが、あまりに久しぶりで共通の話題が直ぐには見つからず、手持ちぶたさに各々のコーラを飲んだ。

「ほんと久しぶりだな。卒業以来だよね?」
学はまたコーラを一口飲んでから、話題を切り出した。

「丸山は何処の中学に行ったんだっけ?」

「宿宿だよ」

「何それ?」

「新宿教育学園新宿中学」

「えっ、そんなの聞いたことないけど、やっぱり新宿にあるの?」

「まぁね」
丸山はちょっと笑って言った。

「やっぱり偏差値高いんだろうな…」
学はどんな学校か解らないけど中学受験していた丸山のことだからきっと有名進学校だと思った。

「木村。進学校ってなんで沢山の東大合格者を出すか知ってる?」
丸山は学の質問には答えず、逆に学にクイズのように質問した。

「やっぱり良い先生がいて、勉強も凄いからなんじゃない?」

「ブー。生徒がみんな頭良いからです」
丸山は笑いながらそう答えた。

「何だよそれ」
学は当りまえじゃんと思い笑った。

「いや、そういう意味じゃなくて。
 受験に合格して入ってくる奴らって本当に頭良いんだ。
 とにかく毎日最低でも5時間以上は勉強してるんじゃないかな。
 もちろん学校以外でだよ。
 あいつら本当に勉強が大好きなんだよ」

丸山は更に続けた。
「逆に、学校ではあまり勉強しないんだ。
 学校の授業だって、確かに進みは早いけどみんな塾で先に習っているから全然追いついていけるんだ。
 だからみんな学校は塾の復習くらいに思っているんじゃないかな。
 学校も通常のカリキュラムを進めて、早く受験用の授業に移したいからその日に終わりきらない部分はみんな宿題にして終りだよ」

「へぇ、そうなんだ。大変そうだな。でも丸山だってその中の一人なんだから凄いじゃん」

「違うよ。僕は受験のために毎日5時間くらい勉強したけど、あいつらは、勉強するために毎日5時間勉強しているんだ。
 僕は受験という目標のために5時間勉強したけど、あいつらは勉強が生活の一部なんだよ。
 僕は毎日の授業について行くために勉強するけど、あいつらはその必要がないから学校は息抜きの場なんだよ」
丸山は呆れたようにそう言った。

「でも丸山だって頭良いじゃん。テストだっていつも満点だったし」

「範囲が決まっている学校のテスト勉強なんて楽なもんだよ。ほとんど暗記すれば良いだけなんだもの」

「その暗記が大変なんじゃん。僕なんていくら憶えようとしても一晩経てばみんな忘れちゃうもの」
学は笑いながらそう答えた。

「それは暗記の仕方が悪いからさ。
 たとえば元素の周期表を憶えようとするだろ。
 だいたい最初の4段くらいが範囲だから、1番目から順番にクラスの人に割り振るんだ。
 木村だってクラスの人の名前くらい直ぐに憶えるだろ?
 それと同じで、クラスメイトの名前が元素記号だと思えば良いんだよ。
 一番前の左が水素。その次がヘリウム。
  顔を思い出しながら『あいつはリチウム君』てな具合にね」

丸山は小学校時代に暗記のためにクラスメイトに付けた名前を思い出しクスッと笑った。

「良いこと教わった。今度からそれ使わせてもらうわ」
学は関心しながらそう言った。


「ところでさぁ、木村ってマクロとミクロって習った?」
丸山は突然学にそう質問した。

「良くわからないけど、多分習っていないと思うよ。それって何?」

「マクロは全体的なことでミクロはその一部って言う感じかな。
 たとえば宇宙全体がマクロならミクロは地球のこととか。
 でも地球をマクロとすれば、そこに住む人はミクロっていうことになるんだ。
 だから宇宙的マクロにみると僕達ミクロな存在は、ゴミみたいなものなんだよ」

丸山は更に続けた。
「たとえば、足元の蟻を踏み潰しても僕らの生活には何も影響無いだろ。
 マクロな地球から見ればミクロな蟻なんてなんてこと無いんだよ。
 たとえそれで生態系が崩れたとしても、マクロな宇宙から見ればミクロな地球の生態系なんて何ら関係ないんだよ」

学は丸山が何を言いたいのか皆目わからなかったが、なんだか教養的な話なので黙ってうなづいて聞いていた。

「何を言いたいかというと、僕らの受験勉強なんてさ…
 宇宙から見ればなんてことないことなんだよ。
 学校だってさ、行っても行かなくても地球の営みにはなんら影響ないよ。
 そう思うと勉強なんてくだらないことだと思わないか?」

「なんだかよく解らないけど、確かに宇宙から見れば僕らはちっぽけな蟻んこに見えるんだろうね」
学は丸山が何か悩みがあるのかと思い調子を合わせてそう答えるのが精いっぱいだった。


「もうこんな時間だ」
丸山は時計を見た。

「なんか変な話して悪かったな。でも久しぶりにともだちと話せて嬉しかった」
丸山は笑顔で言った。
そしてこれから塾だからと、いっしょに店を出て別れた。


これが最後に丸山と会ったときの会話である。

今思えばあの時から丸山は悩みがあって苦しんでいたのかも知れない。

「あのときにもっと悩みを聞いてあげればよかった。きっと僕に同意を求めていたんじゃないかな。
 だったら、マクロな宇宙から見れば学校の悩みなんかくだらないことだと、もっと励ましてあげればよかった」

学は自分に何かできたかも知れないかと思うと悔しかった。
そして取り返しがつかない今、後悔することしかできないのが悲しかった。
普段は忘れていた丸山の存在は、もうこの世に居ないという事実により学の心に重くのしかかっていた。

『なんだよ、死んじゃったら悩みは無くなるかも知れないけど、この先の人生も無くなっちゃうじゃん。
 これから大人になって恋人とかにももう出逢えないじゃん。
 結婚して自分の子供と遊ぶこともできないじゃん』
学はやりきれない気持ちでいっぱいだった。

それは丸山の若過ぎる死を嘆くとともに丸山だけが既に大人になっていたような、
自分がまだ成長してないような取り残された気持が混ざった複雑な気持ちだった。
けっして丸山が大人だとは思いたくは無いが、もう追いつくことができない事実が悔しかったのかも知れない。

『丸山。もし魂になって僕のことを見ているなら、今の気持ちを教えてくれないか?
 死んで苦しみから解放されたの?
 悔いは無いの?
 死を選んだ気持ちってどうだったの?』

学は繰り返し心の中で丸山に問いかけてみた。
でも、いくら考えても本人の本当の気持ちを知り得ることはなかった。
たとえ遺書があったとしても全て正直に書かれているとは限らないし、気持ちはいつでも変化するものだ。
そこに至る考えは解ったとしても、それを実行したとき頭は空白であったかも知れない。
もしかしたら、息絶える時にはその行為を後悔したかも知れない。

結局のところ人の死って本当にそれでおしまいで、
本人の時間はそこで止ったままに残された者の心の中だけに存在し、
残された者はその想い出だけを心で育てるしかできない。
もしそれすら忘れさられてしまえば、本人がこの世に存在したこと自体が自分には無かったも同然になるだろう。
だからずっと心のどこかに持っていてあげて、何かのときに思い出してはこの世にひき出してあげるのがせめてもの供養なのかも知れない。

「今の僕にはそれしか思いつかないよ…」


《おしまい》

なんだかうまく終われなかった(´□`;)
夏って短いよね… ブログネタ:夏って短いよね… 参加中
本文はここから



久しぶり過ぎて書き出しが思いつかなくなっている( ̄▽ ̄;)笑


さて、なんだかここのところ夏らしい日が無くてのこの話題は似つかわしくないけど…

蝉が鳴き出すと思うんだけど、もう東京では『ひぐらし』の鳴き声を聞かなくなったね。

あの「カナカナカナカナ」って鳴き声を思い出すと、決まってあるシチュエーションが浮かぶんだ。

舗装されていない田舎の片側が田んぼでもう一方が林になっている一本道を家路に向かって帰る夕方の暑いけど少し風が爽やかな時間帯。

これは小学生くらいの夏休みに田舎に泊まりに行っていたころの記憶なんだけど、なんだか人恋しいちょっと寂しいような気持ちが甦るんだ。

例えると「祭りの後の寂しさ」みたいな感じ。

そしてそのときって何だか優しい気持ちになれるんだね。

何でも許せるような…

この感じわかるかなぁ…?

だからオイラは辛いときとか『ひぐらし』の鳴き声を聞きたくなるんよ(。・ω・。)ノ

「痛ぇ!」背中に何かがぶつかって思わず大きな声をだした学(マナブ)が振り返ると、教室の後ろの方では山下達がゴメンと手を合わして頭をさげていた。

またあいつらふざけてじゃれあってるのかと思ったが、背中に当たったものが上履きだと分った瞬間に何だか腹が立ってきて、学は拾い上げたその上履きをポイッと近くの窓から外に放り投げ、何事もなかったようにさっきまで話をしていた友達の輪にもどってやった。

しばらくすると『ああぁ。学が及川を泣かせちまったぞぉ』と教室の後ろの方から学を非難する声があがってきた。

よく見ると教室の後ろ、廊下側の席で及川美奈子が下を向いて泣いていた。

美奈子は成績は優秀だがクラスでも目立たなくおとなしい、悪く言えば根暗な感じの子で、ある意味いじめの対象になりやすいタイプである。

だからまたからかわれて泣かされたのだろうと思ったが、それが何故俺なんだ?

困惑と怒りから怒鳴ってやろうとしたら、周りの女子が説明してくれた。

美奈子をからかっていた山下達が美奈子の上履きでキャッチボールを始め、その上履きを最後に学が窓から捨てたので泣き出してしまったらしい。

「ばかやろ、あれは山下達がやったことで俺は関係ないからな」そう言って教えてくれた女子達に弁解をしているところに担任の前田先生が入ってきた。

前田先生はすぐにこの騒ぎに気が付いたようで、美奈子とその周りの人に事情を聞いてまわった。

しばらくして教壇に立った先生は「木村くん。あなたは及川さんの上履きを窓から放り投げたそうね」と学に質問した。

「だから違うって。あれは山下達が及川をからかって上履きを投げ合っていただけで、俺は無関係ですから」学はそう弁解したが、確かに窓から投げたのは自分なわけで、ちょっと声に動揺があった。

「とにかく窓から投げたのは事実なんでしょ? それなら木村くんが責任を持って今すぐ拾ってきてください。それから山下くん達はちゃんと及川さんに謝ってください。それが済むまでHRは始めません!」強い口調で言うと先生は教壇の椅子に座って、無言で当事者達をにらみつけた。

前田先生は特に怖い先生ではなかったがいじめとか喧嘩には厳しい女性だった。
そのためクラスの風潮としてもどちらかと言うと仲良しクラスであり、山下達の行為がほんの冗談であったのはみんなが承知していることであった。
それでも前田先生は、数人の男子が一人の女子を泣かせたことが見過ごせなかったのである。

どうにも腑に落ちない学であったが、山下達は既にバツが悪そうに美奈子に謝っており、学も仕方なく上履きを取りに教室を出て行った。


「確かこの辺りだったと思うんだけど…」学は3階の教室の真下辺りを探していると、風に流されたのかちょっと植木の近く運悪く昨日の雨でできた水溜りに靴底を上に向けた上履きを発見した。

「参ったなぁ」そう言って拾いあげると、確かにつま先に及川とマジックで書いてあった。
少し泥水で汚れた上履きを汚そうに指先でつまみながら学は途方にくれてしまった。


教室の後ろのドアから入ってきた学は「悪いけど黙ってこの上履き履いてくれる?」と片方だけの上履きを美奈子にそっと差し出した。

しばらくその上履きと学の顔を交互にみつめた美奈子は、黙ってその上履きを受け取り静かに前を向いた。

上履きを渡した学は、これで完了とそのまま自分の机に戻って行った。

『どうして私のではなく自分の上履きを私に渡すんだろ?』美奈子は自分の机に戻る学を目で追いながら困惑していたが、これ以上話が大きくなるのは困るので仕方なくちょっと大きめの学の上履きを履くことにした。

「木村くんちょっと帰ってくるのが遅かったわね。用事が済んだらすぐに戻って来ないとだめよ。及川さんは、ちゃんと返してもらったからこれでいいわね?」
学は先生の言葉に『はぁい』と返事をし、美奈子も先生の言葉に小さくうなづいた。

「それでは朝のHRを始めます」そう言って前田先生は何事も無かったようにいつものHRを始めることにした。


授業中は学も美奈子も朝のことは何も無かったように振舞っていたが、それぞれの足には片方ずつが異なる上履きのままで過ごした。
そして休み時間も学はみんなの輪の中で賑わい、美奈子は静かに本を読んで過ごした。


放課後、帰り仕度で自分の下駄箱に来た美奈子は『やっぱりこの靴は返しておいた方がいいかな』と思い、学の下駄箱に片方だけの上履きを戻し、『どうせもう戻ってこないだろうし明日は替えの上履きを持ってくれば良いや』と自分が履いていたもう片方は鞄の中に入れて自分の下駄箱を後にした。


校門を出るところで後ろから「及川さん」と呼ぶ学の声がした。
学は走りながら美奈子を追いかけてきたのである。

「今朝は悪かったな」美奈子に追いついた学は少し息を切らしながらそう言っって横に並んだ。

「これから帰るんだろ。ちょっと悪いけど俺ん家まで来てくれない?」

突然の学の言葉に意味が分からない美奈子は足を止め、一歩離れて学を見た。

「俺の家はいつも夕方まで誰もいないから、気にしなくて大丈夫だよ」

『いったいこの人は何なんだ? 教室でもほとんど話もしたことのない男の人の家に、しかも誰もいない家にどうして私が行かなければならないの? しかも今朝私の上履きを窓から捨てた張本人ではないか』美奈子は思いつく可能性をいろいろと考えてみたが、まったく学の意図する意味が分からなかった。

『まだ学校の前だし、下校する沢山の人が周りにいるうちに早く逃げよう』そう思って美奈子は学を無視して少し早歩きで歩き始めた。

「ちょっと待ってよ」そう言いながら学は美奈子についていった。

「まだ怒ってる?」学はなるべく優しい口調で言ったが、美奈子は聞こえないふりをしてそのまま足を止めなかった。

「俺、あれが及川さんの上履きだって知らなかったんだ。及川さんの上履きだと知っていたら絶対そのまま返していたよ。だからそれを謝るためにも家に来て欲しいんだ」

『何で謝るのに家まで行かなければならないの? まさか私のせいで先生に怒られたことを根に持っての仕返しでもするの?』そう考える半面、学の言葉には誠実さが見え、嘘を言っているような感じではないようにも思えた。

それでもやっぱり誰もいない男の子の家に行くことには抵抗があったため「木村くんが悪かったと思っている気持ちはわかったから、もうこれでいいよ。もうあのことは気にしてないから大丈夫。だから今日はこれでさようならしよ」少し柔らかな表情でそう学に言って美奈子は軽く会釈してまた歩き出した。

「ちょっと待って。もしかして何か警戒してる? 別に家に連れ込んで及川さんに何かしようなんて考えているんじゃないよ」学はそう言って引きとめようとしたが、このまま強引にしてもだめだなと何か良い方法が無いか考えながら後を追った。

「そうだ。今、携帯持ってない?」学は良いことを思いついたとばかりにそう美奈子に聞いてみたが、美奈子は「携帯は学校では禁止されているから」とぶっきら棒に答えた。

「へぇ、やっぱり及川さんは真面目なんだね。それじゃこれ貸してあげるよ」そういうと学は自分の携帯を取り出し、少しボタンを操作してから「ここを押せばすぐに警察に繋がるから」と美奈子に差し出した。

よく見るとモニターには『110』と打ち込んであった。

「ねっ。これで何かあったらすぐに通報できるから安心だろ? だからちょっとだけでいいから家まで来てくれない?」

美奈子は携帯を受け取ってしばらく学を上目使いに見たが、学の押しに負け家までついていくことにした。


家は住宅街の中にある普通の一戸建ての家で、その前についた学は「世田谷区上馬1丁目2番地。十字路の角にある木村という家です。そう警察に言えば直ぐにわかると思うから」と送信ボタンに親指をかけたままの美奈子の右手にある携帯を指差してニコッと笑って言った。

学のその言葉も表情も、普通の仲良しなクラスメイトの冗談交じりな会話のようであり、それが美奈子の警戒心を良い方向に解いていった。

そして美奈子は学に先導されるように玄関の中に入り、誰に向うでもなく「おじゃまします」と言って玄関内を一回り見まわしてみた。

「それじゃこっち」と学は階段を上がり、自分の部屋に案内した。

警戒心よりも好奇心が勝ってきた美奈子は『へぇ、これが男子の部屋なんだ』と部屋を観察するように見まわしながら入った。

「ちょっと何か飲み物持ってくるからそこに座って待っていて」と言うと学はそのまま部屋を出ていった。

一人部屋に残された美奈子は、ちょっと後ろめたいような、それでいて何かわくわくするような落ち着かない気持ちであったが、座りながらぐるりと部屋を観察してみた。

学の部屋は、普通の女の子が想像するようなアイドルいっぱいの部屋ではなく、逆に散らかった汚い部屋でもなく、どちらかというと大学生のお兄さんの部屋のように、本が思ったより沢山ある程度でこれといった特徴の無い部屋であった。
唯一つ違和感があるとすれば、それは机正面にあるコルクボードにぶら下がっているダッフィーのぬいぐるみのストラップであった。
それをみつめながら美奈子は、なんとなく見てはいけないものを見てしまったような罪悪感と、意味のわからない嫉妬感を抱きながら『彼女に貰ったものかなぁ?』と思った。

しばらくして学はペットボトルの炭酸ジュースを二つ抱えて部屋に戻ってきた。
「こんなのしか無かったけどいいかな」そう言いながら抱えていた一つを部屋の真ん中にある小さなテーブルに置き、自分は机の脇のベッドに腰かけながらシュッとキャップを開けてゴクゴクと飲んで一息ついた。

それから学は学校の鞄を開きその中から白い体操着のTシャツにくるんであった上履きを取り出した。
Tシャツはそのままベッドに広げ、その上に上履きを置き、次にベッド脇にあるカラーボックスの棚からドライヤーを取り出して足元のコンセントにつなげてスイッチを押した。
学は濡れた美奈子の上履きをドライヤーで乾かそうとしているのだった。

「あっ、そんなことしなくて良いよ。そのまま返してくれれば大丈夫だから」学の行動の意図が分かった美奈子はそういって止めさせようと立ち上がろうとした。

学は立ち上がる美奈子を制しながら「これをさぁ、このまま及川さんが持って帰ったら、きっと自分の家でこうやって同じように靴を乾かすだろう? 当然、一人部屋で家族に見つからないようにひっそりとするだろう? そのときにきっと今日のことを思い出してまた嫌な思いするんだと思うんだ。俺さぁ、そういう思いして欲しくないんだ。だからこうやって俺が乾かしてそれを及川さんが持って帰ったら、きっと今朝の嫌な思いのままでは無くなって、その後にちゃんと乾かして返してくれたっていう思いに変わるんじゃないかと思うんだ」といって美奈子に説明した。

『そういう風に考えていたんだ』美奈子は学の思いやりが少し嬉しかった。

「そういえば、今朝上履きを取りに行ったとき帰りが遅かったけど、あれって上履きを洗っていたからでしょ?」

「そうだけど、なんで洗ってきたってわかった?」

「だって、どうして上履きを交換したのかが不思議だったから、昼休みに教室の下に見にいったの。そしたら泥混じりの水溜りがあって、きっとここに落ちたから靴交換したんだって思ったから。でも洗ったのは自分が履くのに汚いからかなと思っていたけど…、もしかしてそれも私を気遣ってのことだったの?」美奈子はしゃべりながらそのことに気がついて聞いてみた。

「んっ、最初は洗ってそのまま返そうと思ってたけど、濡れたままじゃやっぱり同じかなと思って交換した。でも俺の上履きを黙って受け取ってくれて助かったよ。あれで騒がれるともっと話が長くなっちゃうものな」そういって学は美奈子に同意を得るように微笑んだ。

美奈子もニコッと笑ってうなづき返した。

『木村君ってやっぱり優しいんだ』美奈子は、少なからず好意を抱いていた学が思っていた通りの人だったことが嬉しかった。

学は秀才タイプでもスポーツマンタイプでもないが、運動がそこそこ得意なよくある人気者タイプであり、美奈子にとってもちょっと気になる存在なのであった。それだからこそ、今朝窓から自分の上履きを投げ捨てられてことがショックで泣いてしまったのだ。

「ところでさぁ、もう携帯持ってなくてもよくない?」なんとなく打ち解けた雰囲気になったので学はおどけたようにいってみた。

「あっ、ごめんなさい」美奈子はあわてて手に持っていた携帯を机に置いた。
学から受け取ってからずっと送信のボタンに親指をかけたまま持っていたことをすっかり忘れていたのだ。

「いつボタン押されるかとヒヤヒヤしたよ」と学が笑うと、美奈子は両手を腿に揃えて申し訳ないと頭を下げた。
その行為が可笑しくてお互いに噴き出すように笑いだした。

「ねぇ。ところで変なこと聞くみたいだけど、及川さんって昔からいじめられタイプだったの?」

「いじめられ子って程ではないけど、あまりみんなとワイワイすることは無かった。どちらかというといつも一人でいることの方が多かったから、小学校のときからクラスでは存在の薄いタイプっだたと思う」普通なら引いてしまうような質問だが、美奈子は会話の続きのように明るい口調でそう答えた。

「それって、一人が好きな子ってこと?」

「そういうわけじゃないけど、人の会話に自分から入っていくのが苦手なの。なんだか私がみんなの会話に参加したら悪いかなって…」

「なんで?及川さんっておとなしそうだけど、そんなに嫌われる雰囲気じゃないし、全然そんなこと気にすることないのに」

「でも、楽しそうに話しているとこに急に私が割り込んだら『何、この子突然に』って思われるんじゃないかなぁって思うから」

「そんなことないのに。それって気を回し過ぎだよ…」学はそういうと少し考えるように黙ってしまった。


そしておもむろに「そうだ、及川さんさぁ、ちょっとスカートめくってみて」といった。

突然の言葉にきょとんとしている美奈子に学は続けた。

「別に変な意味じゃなくて。それにどうせ下は体育の紺パンでしょ?」

学のクラスでは、中学生といっても男子はまだまだ子供で、いまだにスカートめくりをしては女子をからかったりするし、ときには女子同士でもふざけてスカートをめくるため、ほとんど全員の女子はいつもスカートの下は紺パン着用が当たり前になっていた。

「いつも体育のときは紺パンでみんな一緒に運動しているんだし。だから全然なんてことないじゃん。それでも嫌なら、こっち向かないでそっちの壁に向かってでもいいからしてみなよ。それなら恥ずかしくないだろ?」そう言って学は自分の向かいの壁に指をさした。

『嫌だ、なんで突然そんなことい言い出すの?』と学の言動に半信半疑になった美奈子は、さっき置いた机の携帯を目で探した。

それを察した学は慌てて真意を説明しだした。
「なんていうかさぁ、きっとやってみるとなんてことないことだと思うんだ。大体、スカートめくりだって女子が恥ずかしがるから面白がってやるわけで、別にスカートの下の紺パンが見たいわけじゃないし。それと同じで、及川さんが話の輪に入っていくことだって相手からすればなんてことないことだし、逆にそれを躊躇する態度の方が嫌に感じるんだと思うよ。だから家に帰ってからでもいいから一度鏡にでも向かってスカートめくってみな。当然それはなんてことないことだし、平気だろ? それと同じことなんだよ」

美奈子には学の言いたいことが分かる気がした。
いや、それは以前から自分でも分っていることだった。
でもそれが出来ないから、もしできるなら既にそうしていると言いたかったがその言葉は出せなかった。
同じ境遇にいない人にはやっぱり分って貰えないことだと、そう思った。

学はちょっと言い過ぎたかなと気まずい気持ちになったがその後を繕う言葉が見つからず、ドライヤーをかけていた上履きに目を移し「そろそろ乾いてきたかな。後は自然乾燥で明日は大丈夫だと思うよ」といってドライヤーを止めた。
そしてその上履きを美奈子に渡した。

「ありがとう」と言って上履きを受け取った美奈子はそれを鞄にしまった。
そしてしばらく二人は言葉も無く、次のタイミングを探るように下を向いていた。


「それじゃどうもありがとう。今日は何だかいろいろあったけど、でも悪い思いは無くなったよ。逆に良い一日だったと思える」美奈子はそう切り出して立ち上がった。
学もそれに応えて「今日はゴメンな」といって玄関まで送っていった。
別れ際はお互いに笑みで挨拶を交わしたが、互いに何か気まずい思いを抱いていた。


家に帰った美奈子は自分の部屋の机に向かい、学の乾かしてくれた上履きを見ながら『今日は意地悪もされたけど、木村君と少し親しくなれたし、家にも行ったし、優しくあつかって貰えたし、何だか良い日だったなぁ』と今日一日を思い起こしては、少し胸の奥がキュンとするのを楽しんだ。
でも直ぐに、学に最後に言われた言葉がまた自分をいつもの美奈子に戻すのだった。
その気持ちの繰り返しが嫌で美奈子は上履きを机に置き、部屋の姿見の前に立って自分のスカートをまくってみた。
『そんなこと分ってるよ』と呟きながら鏡を見ていた美奈子は『これをあの時木村くんの前でやったらどうだったろ』と考えたとたんに顔がかぁっと熱くなり、一人真っ赤になってしまった。
慌ててスカートを下して自分の机に戻った美奈子は『馬鹿らしい。何恥ずかしい想像をしているんだろ』と自分を恥じてみた。

でも、そんな自分を他の人が見ていたらどう思うだろと考えてみた。
(馬鹿らしい)(恥ずかしい)(幼い)(くだらない)・・・
『あれ?どれもちょっと違う。もし私が第三者なら恋焦がれている乙女みたいで可愛らしいと思うかも』
自分では馬鹿らしいと思ったことが、他の人のことと思ってみたら可愛らしいと思えた。

『そうか。これが木村君の言いたかったことなのかも知れない』美奈子はそう思った。
あまりにも自分を意識し過ぎて気持ちが狭くなっていたんじゃなかったか。
自分を意識しなければ本当に何でも無いことなんじゃなかったか。
自分から人の話題に入ることなんか、もし他の人がそうして来たなら全然普通のことじゃないか。
そうだ、きっと木村君はこのことが言いたかったんだ。
美奈子はそう確信した。


明日自分から周りの子に話しかけてみよう。
そう、私が話すんじゃなくて及川美奈子という子がそうするんだと思ってみよう。
それは私にとって全然普通な光景に見えるはずだ。
それにもしそれで変な顔されたって、それはいつものことじゃないか。

そうだ、木村君にもお礼が言いたいとメアドを聞いてみよう。
それだって決して変なことじゃないし、木村君だってきっと普通に教えてくれるはず。
そんなことを考えていたら明日が待ちどおしくなってきた。

美奈子は机の上の上履きをしまいながら『学校に行くのが楽しみになるなんていつ以来だろ?』と思った。

<おしまい>


最後の方は長くなってきたのでちょっと端折り気味になったけど(笑)

最後まで読んでくれたひと、どうもありがとうございました(*´□`*)





またひとつ歳をとってしまったが…

プレゼントは幾つになっても嬉しいものですヾ(´▽`)ノシ


どうもありがとうございました

m(__)m






今シーズン、雪は見た?ブログネタ:今シーズン、雪は見た? 参加中

私は見た




しばらく更新しない間に、ハロウィンが過ぎ、クリスマスが過ぎ、そしてお正月が過ぎてしまいましたなぁ( ̄▽+ ̄*)

そしてもう今週末はセンター試験の時期となります。

受験生の皆さん、自分を信じて頑張ってくださいねヾ(^ω^*)

とにかく健康管理に気をつけて、絶対合格だぉ!


それから、試験当日は「もう後がない」と自分を追い込まず、開き直って落ち着いて挑んでください。

今までの努力が必ず自分を導いてくれますからね。

ブロ友さん、合格お祈りしていますヾ(´▽`)ノシ






すっかりご無沙汰してます
( ̄▽ ̄;)笑

とうとうオイラの最低月1更新記録も途切れてしまいました(笑)


さて、昨日のニュースではもう北海道で雪が降ったそうで…

なんだか今年は夏を満喫しないままにもう冬が来てしまう気がします(´□`;)

先週の日曜日に今年初めての金木犀の香りを嗅いだばかりだというのになぁ(TωT)


実を言うと、この春から勤務地が変わって、地下鉄の駅から外に出ないで会社まで行けるようになりました。

だから外を歩くのは、自宅から最寄り駅までの区間だけなんです( ̄▽+ ̄*)


おかげで、夏の猛暑も台風の嵐もほとんど影響を受けなくなったけど…

その代償として、季節感を無くしてしまいました(^◇^;)


便利なのも一長一短ですねぇ。。。




秋っぽいことした?ブログネタ:秋っぽいことした? 参加中

私はしてない








いじめはいじめられる側にも問題、どう思う?ブログネタ:いじめはいじめられる側にも問題、どう思う? 参加中




いじめられる側にも問題があるとか、そういうことを言う人がいるのが信じられないよ。

たとえいじめられる側に少なからず原因があって、それがいじめに発展したとしても…

元々いじめ自体が悪いことなんだってことをどうしてもっと言わないんだろ?


たとえば「いじめ」を「殺人」と置き替えたら、殺される側にも原因があるなんてことを問題にする人いるんだろか。

確かに正当防衛や敵討みたいな情状酌量を考慮させられる事件もあるだろうけど、それでも「殺人」までしたら当然その罪を問われるのにね。

それは「殺人」が悪いことって大前提があるから。

なのにどうして「いじめ」は悪いことって大前提がうやむやにされているんだろ?


まったく、この問題は本末転倒なこと聞いてる気がするなぁ。









代わり映えしない毎日なのでとりあえずブログネタでも…



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やっぱり夏と言えばサーフィン映画でしょうヾ(´▽`)ノシ


今やっている『ソウル・サーファー』は絶対観たいなぁ
あとは、往年の名作『ビッグ・ウェンズデー』もお薦めです(`・ω・´)ゞ









もう過ぎてしまったけど…

土曜日にガガ行って来ましたヾ(´▽`)ノシ


bat


アリーナスタンディングの後ろの方だったから、ほとんど観られかった(TωT)


まぁ臨場感だけは味わえたからいいかぁ( ̄▽+ ̄*)




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最近は月一回更新もギリギリになってきたなぁ

それでも2008年の3月から数えてもう400件以上の記事を書いているらしい(・o・)ノ

そしてこれが410件目

まぁ、そのうちの何割かは「ふとし」に手伝ってもらったものだろうけど…

単純計算で、年100記事

我ながら凄いなぁってビックリしていますσ(^◇^;)


そしてここからが重要。。。。

GWから先はペタ返しがままならない状況になりそうです(T ^ T)


これが今一番の不安かなヽ( ̄▽ ̄)>






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