そんなある日、浩司が研修として大学病院に行っている話をした。
「あのさ、吉川って言う助教授がいて、年齢より若く見える。それから、そいつには彼女がいるみたいでむちゃくちゃ美人なんだよな。」
幸子さんのことだ。私はそう思ったが、反応をしないようにした。
「そうなの?」
「医局にいんだよ。その美人!でさ、俺と同期の菊池がさ、狙ってんだよ。」
菊池先輩は少しやんちゃで、うちの大学の経済学部の三年生だ。私はあまり好きじゃないが、浩司の付き合いで知っているくらいだ。
だが、少し気になったのは、菊池先輩が何をするかわからないところだ。
「菊池先輩って大丈夫なの?」
すると、首を縦に振らず首を傾げるだけだった。私は不安しか感じなかった。
数ヶ月後、事件は起きた。幸子さんが車にひかれそうになったところを、吉川が助けようとして怪我をしたようだ。私は、急いで病院に走った。
「先生!」
と走ってきたので、かなり息切れしていた。
「今、眠っているのよ。」
と言う幸子さんの手にはギブスがされていた。
「幸子さん…手、怪我したの?」
とこれを震わせて言った。
「えぇ、私は左手だったのだけど、私をかばって全身を打ってね。頭だけはお互いにかばったから大丈夫だったのだけど、全治3カ月はかかりそう。」
と幸子さんも声を震わせていた。私は、犯人が菊池先輩なのではないかと思った。
「先生は治るの?」
「手には問題はないから、大丈夫なんだけど、もしかすると足に後遺症が残るかも知れないの。」
「じゃあ、車椅子か杖になるの?」
「かも知れないだからリハビリ次第なのだけど…私はまた人を傷つけてしまったわ。」
と自分を責めるばかりだった。
「幸子さん。私…。」
何も告げられなかった。もしかしたら、菊池先輩が犯人かも知れないとか、私の彼氏も中に入っているかもとか、私は言えなかった。何も確信がないからだ。私はまた来る約束をして、急いで浩司の家に向かった。
「浩司!浩司、菊池先輩って2日前何してた?」
と詰め寄ると浩司は慌てた様子で口ごもった。
「ちゃんと答えて!」
と攻め寄るとようやく口を開いた。
「2日前に、女を攫いに行くって言って、経済学部の三人くらいと車に乗って行った。まぁ、攫うって聞いてたけど、いつものナンパだよなって思った。だけど、事件のこと聞いて…。」
「浩司は関わってないんだよね?一緒に行ったりしてないよね?」
「行ってねぇよ!俺はもしそんな事するって知ってたら止めてる!」
と言った浩司の目の前で私は安心して泣いてしまった。そして落ち着いた後、浩司はコーヒーを淹れてくれた。私は吉川と幸子さんとの関係を話した。
「そうか…止められなくてすまなかった。俺、自首を進めるよ。」
と言った。
それから間もなくして学校に警察が来て菊池先輩たちは捕まった。それは事件が起きてから1カ月が経とうとしていた頃だった。
私は浩司と一緒に吉川のお見舞いに行った。すると、病室にはおらず近くの看護師さんに聞くと散歩に出かけているとのことだった。
私たちは、庭園を探すと、木陰で休む二人が見えた。
「恭輔さん、足、冷えてない?」
「大丈夫だよ。明日からリハビリだからね。こんな事でへこたれてられない。」
「私のせいでごめんなさい。」
「君は変わらないね。あの時も私のせいでって。全部、君のせいじゃないのにさ。」
「貴方だって変わらないわ。貴方はいつも私をかばって。」
「もう、許しを乞うのは辞めないか。二人ともさ。」
「そうね、もし貴方が良いのならそばにいさせてください。」
と言って二人は手を握った。私は何だか嬉しくて泣いてしまった。良い雰囲気を邪魔したくなくて浩司は泣いている私の肩を抱いて病室で待つように促した。
病室に帰ってきた二人にサプライズでお花を渡す。二人は本当に嬉しそうだった。
それから一年以上、吉川は幸子さんの献身的な支えもあって杖は手放せないが何とか生活が出来るようになり、研究室に戻って来ることができた。幸子さんの家の表札には吉川と名前を変えられ、二人は晴れて夫婦になった。私たちもより仲良くなり、大学を卒業後、私たちの結婚式にも出てくれた。
私は高校生からここまで約10年間、この二人とこれからもずっと幸せに暮らしたいと感じた。