俺達を乗せた車は左へ曲がると…直ぐに信号待ちで止まらされたから人影を見失いそうになる
風間さんに…走って追い掛ける?と言われた俺は頷きながらシートベルトを外す
扉を開けると車から降りて見失いそうになる小さな人影を捕まえる為…俺は全速力で駆け出した
「にの!」
大きな声で呼びながら走る。
「にのっ!!」
俺の前を歩く人達の隙間から見えた後ろ姿は、やっぱり、見間違えじゃなくて、にのだ。
知らない男が細い手首を掴み、連れ去ろうとしているから、叫ぶ様な声を出したのに止まってくれない。
捜し出すのに時間が掛かってしまうだろうと思っていた分、予想よりも早く…見付けられたのは良かったけど、にのが危険な状況って事は変わらない。
「にのっ!待てよ!!!にの!何処に…行くんだっ!!」
音響信号機のメロディや楽しそうに笑う口達に掻き消されて俺の叫び声は、にのに届かない。
「にのっ!!!」
徐々に…近付く後ろ姿を追い掛けている俺の視界の先に見えたのは、涙を拭う様な仕草だったから煩くなる心臓の音。
泣かせた訳?
怖がらせたの??
にのに何をした!?
今すぐ…にのの涙を止めたいのに俺は知らない男との距離を瞬時に縮まらせる事が出来ず、もどかしい。
「にのっ!!!」
一秒でも早くにのの側にいける様、全速力で走り…声の限りに叫ぶと小さな頭が此方を振り返った。
「にのぉっ!!!」
俺の声が聞こえたの?
俺の姿が見えた??
多分…そうなんだろうと思えるのは、にのが知らない男の手を振り払ったから。
「にのっ!!!!!」
絶対…離さない様に拘束されていただろうと思ったが、簡単に、逃れられたにのは俺の方へと走ってくる。
「にのぉっ!!!」
にのが泣いていたから知らない男は油断した?
分からないけど危険な状態を脱した訳じゃないのは…直ぐに、にのは追われているから。
泣きながら走っている、小さな子を簡単に成人男性が逃すなんて…ある訳ないんだよ。
だから…俺はにのを追い掛ける知らない奴よりも早い速度で走る。
にのの涙を止める為に息苦しくても叫びながら…俺はスピードを上げた。
「っ!!!」
にのの元に全速力で走る俺の視界の右端から現れるトラックにドクンッと大きな音を鳴らす心臓。
プァーップァーーッ!!!!!
耳を劈く様なクラクション音が辺りに鳴り響いて背筋が凍り付く。
泣きながら此方へと走って来る小さな子には気にする事も出来ないだろうトラック。
激しいブレーキ音を響かせて急停止するトラックが俺の視界からにのの姿を消してしまう。