キンモクセイの香りが鼻にふわりと霞む季節となりました。

この主張の強い、なのにそれでいて可憐で妖艶ですらあるこの香りをかいでいるということは、私は日本に帰ってきたということであります。

小さな、でも由緒ある最寄り駅の神社の横を通るたびにこの匂いをかいで、そのたびにいつも同じ歌を口ずさみます。

 

 

日本に、帰ってきました。

帰りのヒコーキのことは、今でもよく覚えています。というより、ブリストルの町にさよならをしたあの日も、今ではまだ鮮明に思い出せます。

ただ、この記憶がこの先あとどれくらい続くか知らない。だから、こんな風に稚拙な文章でまとめているというわけです。

これは、私自身が振り返るための「文字のアルバム」のようなものであるから、人様に晒している事実が少し気恥ずかしくも思えます。

でも、書きます。あの風景を、忘れないように。

 

最終日は、6時半に起床いたしました。眠ったのかも眠らなかったのかもというような心持でフトンに入ったので、きっと眠りも浅かったのでしょう。あんなに心待ちにした帰国日でしたが、いざその日となると嫌に冷静になっていたのを覚えています。

朝風呂に入り、肌の保湿をいつもよりちょっと時間をかけてし、(特別な日だからではなく、単に機内の乾燥を恐れたが故です)部屋の片づけをしました。

そういえば、朝少しだけ散歩にも出ました。目的は自室のゴミをファミリーのごみ箱にドカっと捨てるのか申し訳がなく、公衆ゴミ箱に入れに行ったというところなのですが、朝のヒンヤリとした空気は、ちょうど今の日本くらいでした。イギリスの朝は、日差しが強くてまぶしかった。

最後、帰路に好きな場所があったので、その写真を2枚ほど撮り、なんとなく、ホームステイしていた家の前の通りもパシャリとカメラに収めました。

あの時なぜ、家でもなく、あの通りだったのか。きっと、毎日見慣れていた風景だったからこそでしょう。この「何気ない」を、忘れないようにしようと思ったから。

 

 

鍵を返して、まだ家に来たばかりのころ貸してもらった赤い手袋を返して、ファミリーとハグをしました。最後まで優しい笑顔と、強いまなざしの家族でした。

大きいのにコロコロした絵本に出てくるような街並み、そこに似合ったブロンドヘアに青い目の人々。

真夏とはいいがたい空気感の中で、わたしは全部にそっとさよならを言いました。

サヨナラ、ありがとう、ブリストル。

 

空港には大分早めについてしまったけれど、不思議と時間はあっという間に過ぎてしまい、気が付いたら飛行機に乗っていました。

映画の中で『リメンバー・ミー』を見て泣きました。

帰りはフライトを楽しめると目論んでいたけれど、帰りも行きと同じような気持ちになり、ご飯は全く喉を通らず。

でも、空港で待ってくれている人たちを想って、空港にいなくても、私を心待ちにしてくれている人を想って、桃色の水みたいなものが体中を巡ったような気がしました。

 

 

羽田に着いた瞬間、「日本の夏」の空気が私の全身を包み、出迎えました。

本当に暑かったけれど、それ以上に懐かしさが勝って、あの日だけは夏の暑さが好きになれた。

出迎えてくれた人たちを見た時に、恥ずかしくてドキドキしたけれど、触れたらみんな柔らかくて、そのままでした。

 

そういうわけで、今は日本の大学図書館にて、このブログを書いています。

日本に戻ってきて、英語を使うことは本当に無くなってしまったけれど、あの経験と語学は、この先もずっと忘れてはならない。と、心の私が叫んでいます。

そして、帰ってきてから、日本がもっと好きになり、時間をもっと惜しいと思うようになりました。

時間以外のことはあとでどうにでもなる。

私は、戻ってこないあの時間を、きっと謳歌したはずだ。自分にそう言い聞かせて、明日も頑張ります。