五輪もワールドも終わり、残すところはジュニアとシンクロワールドのみとなった頃。思えば2017-18シーズン前のオフシーズンにフィギュア沼に落ちて四年、オリンピックサイクルをちょうど一周した記念ということもあり、こんなブログを始めてみました。


選考理由については完全にわたしの個人的な独断と好みです。ご了承下さい。



1.ガブリエラ・パパダキス&ギョーム・シゼロンRD "Made to love/U move, I move


https://youtu.be/HtMsnbYwozA


オリンピック個人戦で90.83, 世界選手権で92.73。異次元の記録を次々と打ち立ててきた、まさに絶対王者のリズムダンス。


今季RDテーマはアーバンストリートダンスで、それに合わせてワッキングという70年代アメリカのLGBTコミュニティがルーツのダンスがメインコンセプトに据えられています。男性のギョーム選手がカミングアウトをしていることもこのテーマを選んだ理由の一つでしょう。


https://youtu.be/4wRrXcKJeco

プログラムに込めた思い、ワッキング、ギョームのカミングアウトなどについて二人のインタビュー。3:55~から


プログラム中にはワッキングの特徴である、ムチのように腕を振り回す動きがエレメンツ各所のいたるところにちりばめられています。特に終盤のミッドラインステップ(動画2:41頃~)のストップ部分、そしてフィニッシュ前の振り付けは圧巻です。

パパシゼといえば圧倒的なスケーティングスキル、そして一部の隙もないシンクロから生まれる人外じみた空間支配というイメージが強いですが、このプロのストップパートでは敢えて同調性を二の次に置いて、二人それぞれが心のままに踊ることをより大切にしているような印象を受けます。それでも成立するのは彼らが有するコネクションが単に"動きをピッタリ合わせられる"それ以上のものであるからに他ならないでしょう。9~10歳でカップルを結成し、実に17年ものキャリアを共に戦ってきた二人だからこそ出来ることです。ベストプロはモーツァルト14番だけど一番好きなのはDuet/Sunday afternoon、というわたしのパパシゼ観にはドツボのプロでした。



2.宮原知子EX "リラ・アンジェリカ"


https://youtu.be/-7AJ-92b7uQ


毎シーズン名プロしか生み出さないことで有名な宮原知子さん。このプロはジェフリー・バトルさんの振り付けで、元々今季のSPのために作られたようですが、競技会に持ち込まれることは一度もなくエキシビプロになりました。Gala会場の暗い照明がよく似合うプロですから、結果的にはそれで良かったと思います。『小雀に捧げる歌』のリバイバルは勝負シーズンのSPにぴったりですし。


宮原さんの代名詞であるポージングの美しさが素晴らしく活きたプロで、特に回転系のムーブメントではそれが顕著です。わたしのお気に入りは中盤のキャメルスピンをほどいた直後の振り付けで、アウトロッカーからの順回転のループ、直後に逆回転のループをポジションを変えながら一回ずつ。特に二つ目のアティテュードの形で回るループは夢のような美しさです。


そして何よりスピンのプログラムへの溶け込み方が素晴らしい。前述したようないくつもの美しいポジションのターンがリフレインになって、彼女らしいシンプルな形のスピンをそれらの延長線上に見せているんですね。プログラム中のありとあらゆるポジショニングに一分たりとも手を抜かない宮原さんだからこそできる職人技です。競技会からの引退は寂しいけれど、これができるスケーターがプロに転向するのはむしろとんでもないワクテカ案件なのでは...!?と思わせてくれます。また新たなフィールドで彼女が自分のスケートを極められますように。



3. 宇野昌磨 EX マイケル・ジャクソンメドレー


https://youtu.be/h655L_fIOfQ


こちらも元競技用に用意されたEX プロ。スケーター宇野昌磨の強みを活かすという点では今季SPに採用された『オーボエ協奏曲』が圧倒的に優れているので順当な判断でしょうが、なぜかブログで語るほどわたしのツボにはまったのはこのマイケルメドレーの方でした。そういうこともあります。

序盤は『Planet Earth/Earth song(Immortal Version)』、中盤以降は『History(Tony Moran's history lesson)』の二曲で構成されたプログラム。(曲名長......)大地の気を集めてパワーを溜めているかのような冒頭から2本のジャンプ、そしてクリムキンイーグルの手の動きに合わせて一気にテンポアップ。ブツ切れになりがちなプロ中の曲の変わり目を派手なポジションのムーブズインザフィールドで、かつ手の振りを入れてハイライトにするやり方は結構斬新で面白いです。



二曲目『History』の原曲は8分ぐらいあるんですが、このプロでは巧みに緩急をつけて1分ちょっとに編曲されています。二本のスピンを挟んで最後のジャンプ(動画では3サルコウ)~三本目のスピンの間に谷があって、そこからスピン中にかけてまたぐっと盛り上げる。その直後にストップで激しく踊るパートがあって、ここがハイライトになるわけです。


スピン〜ストップパートにかけては"Keep movin', on higer ground"という歌詞が印象的に繰り返されます。前進せよ、高みへ向かえ──平昌五輪以降数シーズン続いたスランプからようやく復調し、再び世界のトップを目指し始めた今季の彼を象徴するようなフレーズで、 振付をしたステファン・ランビエールコーチからのエールとも取ることができます。世界王者のプログラムになって大変めでたい。




4.マディソン・ハベル&ザカリー・ドノヒューFD "Drowning"


https://youtu.be/JRA-aAk_jP8?t=10844


シーズン初頭から今季での引退宣言をしてきた二人の、現役最後のプログラムです。書いてて気づいたんですがこのプロに関してはクオリティどうこうは二の次で、選んだのは単にわたしがハベドノのファンだったからなんですよね。卵より先に鳥。要は彼らが"らしく"滑ることのできるプロなら何でもよかったわけで、ドンピシャが来たからまんまと撃ち抜かれたということです。オタクって単純。


ハベドノといえば重厚でパワフルなスケーティングが代名詞ですが、その秘密は彼らの体幹を使った重心移動の上手さにあるのでしょうね。今回のように細い声のヴォーカルに合わせて小川の水の流れのようにサラサラ滑り、音楽の盛り上がりに合わせて感情を膨らませてもエッジワークが浮くことはまったくないわけです。中盤のステップシークエンスでは特に二人の体重移動の滑らかさが見てとれます。体を傾けたらスルッと進行方向が変わるんですよね。惚れ惚れするような自然でクリーンなフォームです。

通常終盤のハイライトになることが多いサーキュラーステップとコレオステップは中盤に配置され、代わりにシークエンシャルとコレオ二種類のツイズルが曲の最も盛り上がる部分に置かれています。四年前の平昌で泣かされたツイズルです。トラウマになっていてもおかしくないエレメンツを、体力的にもきつい終盤にわざわざ持ってきた辺りに彼らの強い意志を感じました。シーズン通してほとんどミスはなく、五輪でもワールドでもきれいに決めたのを見た時はうっかりボロ泣きしました...(オタクすぐ泣く)。立て続けにパーソナルベストを更新し、キャリアハイの納得のいく演技で現役を締めくくる姿を見られたことはファン冥利に尽きます。引退の餞になったプロと言えそうです。新しい道でも彼ららしく輝いてほしいと思います。



5.アレクサンドラ・トゥルソワSP "フリーダ"


https://youtu.be/WH67_XoDy3k


テススケで一目見て「これは」となったプログラム。オフシーズン中に髪を真っ赤に染めていた彼女にぴったりのコンセプトとイメージだと思いました。(振付師のグレイヘンガウスは南米のバカンス先でこのプロのインスピレーションを得たそうです。「そうです」というのはソース元の記事のリンクを無くして発掘できなくなったからです...。)


プログラムを通して彼女独特のヌメっとした腕やボディラインの動かし方に苦しみ見悶えるフリーダの感情がリンクして見えます。ジャンプだけの選手とケチつけられがちですが彼女の身体表現がわたしは結構好きなんですよね。フリーに5クワドぶっこめるだけあって、いくら体幹軸を変に傾けても制御できるだけの体の強さがありますし、このプロではそれが上手く活かされていると思います。

冒頭のトリプルアクセルがクリーンに決まることはシーズンを通してありませんでした。怪我の影響でダブルアクセルに変更したスケートアメリカ以外ほぼ全ての試合でこのSPをノーミスで滑ることができなかったわけです。一つのミスが全てを決めるロシア女子のトップ争いにおいては致命傷で、ナショナル以降の大きな大会において彼女が二位~三位に甘んじることになったのはこれが大きいです。それでも挑み続けた姿勢にプロのコンセプトがまた変にマッチしていました。折られても折られても立ち上がり、ついには力尽きる、それがフリーダですから。


このノートを書いている現在、ロシアのウクライナ侵攻を受けてトゥルソワを含むロシア及びベラルーシ所属のフィギュアスケート選手はISU大会への出場権を剥奪されています。ロシアンスケートのファンとしてはとても残念ですが、ロシアにおけるエリートスポーツの立ち位置、同国の国際社会におけるふるまいを鑑みればやむを得ない処置だと個人的には考えます。誰の得にもならない侵略戦争が一日も早く終わり、平和が訪れることを願ってやみません。


長くなったので続きはまた今度。


追伸:お試しかねてnoteにお引越しさせました→