flowering -2ページ目

flowering

悲しみが花開いて落ちるとき


おや、

彼はなんだか本を読んでいるみたいだね。

こちらが幾ら囀ってみたところで、気づかないぐらいにさ。

なんだ、ツマラナイの。

ところで、今日は暖かかった
おかげで、いろんな所を飛び回ってきたよ。

この分だと、桜が咲くのも近いかもね。

そういう俺は誰か、だって?

忘れないで欲しいね

シリウスって言うのさ。

もし、青い羽根をしたカラスが飛んでいたら、
ぜひ声をかけてみてね

それじゃ、また


待って!

 なんだか私は夢の中でそう叫んでいたような気がします。
でも、それが何だったのかよく思い出せません。

 瞼からちょぴり涙がこぼれ落ちたのはなぜでしょう?何か悲しい夢でも見ていたのでしょうか?

でもそれは何だか違うような気がします。それぐらい私にも解ります。胸の中心辺りにまだじんわりとした暖かみが残っています。私は心地いいその残り火をいつまでも離したくはありませんでした。

私はどうやら、電気をつけたまま寝てしまっていたようです。しっかりしなきゃ。伏せていた机から顔を起こすと、その拍子に何かが床に転がり落ちました。

一瞬、それが何なのか判断がつきませんでした。いや、判断は出来ていたのですが、なぜそんなものがこんなところにあるのか、理解することができなかったのです。

そこには桃が転がっていました。見る限りちょうどいい具合に熟した、正真正銘の桃です。勿論、桃がそんなに珍しかった訳ではなく、こんなところになぜそんな物があるのか、不思議でしょうがなかったのです。記憶をたぐり寄せてみても、桃を買った記憶も、机の上に持ってきた覚えもありませんでした。

試しに床に転がっている桃を摑んでみますが、やはり変わったところはありません。硬すぎず、握れば潰れてしまいそうなほど柔らかすぎもせず、細かな産毛が手のひらにそっと触れます。とても甘そうな色つやをしています。


皆さんは私が寝ぼけているのだと、そうお思いでしょう?でも違うんです。いくら甘い物に目が無い私だって、それぐらいはおぼえています。
 私はパソコンでブログを書こうとして机に向かっていて、それから....?
 それから知らず知らずのうちにスーパーかどこかに行って大好きな桃を買ってきて、そのまま寝てしまって、いや、桃は買ってきていたのを忘れていただけで、もともと冷蔵庫にあった訳で.....

 ちょっと待ってください。それじゃまるで私が何か病気にかかっているみたいみたいじゃないですか。そんなこと断じてありません。あるわけがないんです。ないに決まってます。たぶん.....

やっぱりそうです。ほらありましたよ。見つけました。これが動かぬ証拠です。きっとこいつの仕業なんだわ。
私が変になっちゃった訳ではなかったんです。ああ、よかった。

ほっと胸を撫で下ろしながら、私は部屋の片隅に落ちている羽根を一枚拾い上げます。

一体、何の羽根でしょう?そこら辺に落ちているカラスの羽根に形は似ていますが、こんな青い色をした羽根は見たことがありません。塗ってある訳でもなさそうです。羽根の軸をくるくる回すと、青い色はより一層深みを増し、なんとも不思議な光を放ちます。

「そうよ、カラスが喋るなんて聞いたことがないわ」

突如自分で口走った言葉に、私は自分で驚きました。

一体自分は何を言っているのでしょうか?カラスが喋る?一体どんな発想をもって、私はそんなことを口走ったのでしょう

しかし疑問に思えど、否定する自分は何処にもいませんでした。

不意に突いて出たその言葉によって、堰を切ったかのように、心の内がざわめき出すのを感じます。

それは、まるで空に放たれた言葉の矢に乗って、次々と記憶の障壁を破って行くようです。強い風が吹き渡り、妙に懐かしい気持ちが次々と去来しては心の扉を叩きます。


「目を閉じて、ハートに尋ねるの」

知らず知らずのうち、私はそう口遊んでいました。








「ここはどこ? 私はいったいどうしちゃったの?」

その質問に、マリアはひとつ笑って答えます。

猫が笑うはずが無い、そうお思いでしょう。でももうそんな事は不思議でもなんでもなくなっていました。むしろ青いカラスのシリウスが言っていたように、私の思い込んでいた常識の方が間違っていたんじゃ無いかって....

「ここが私の生まれた場所、そしてあなたが本来住まう場所」

「ここが?見たことも無い場所だわ」

「あまり難しく考えないで。そういうときは知識に頼るんじゃなくて、ハートに尋ねるの。

さっきみたいに外側を探すんじゃ無くて、内側に目を向けたように」

「ハート?」

「そう、ここは魔法の世界、イリュージョンの世界ね。あなたの思ったことが現実になる世界」

「思ったことが現実に?」

「そうよ、あなたが思い描いて私が生まれた。だから、あなたがいなければ、私も存在しないの」

「そう言われても... 私には覚えが無いわ」

「今はそうかもしれない。でもそれはただ忘れているだけ。人が寝ているとき、自分が何をしていたか忘れてしまうように」

マリアはとても優しそうな顔をして笑っています。

それにつられて、私の胸の辺りもなんだかぽかぽかと暖かくなって、体ごとふわりと軽くなっていくようです。

辺りの空間は、まるでシャボン玉に包まれているみたいにキラキラと虹色を放ちながら、万華鏡のようにさまざまな色を覗かせます。

ふわふわと気持ち漂う私の頭上を、いつしかシリウスが輪を描いて飛んでいます。

「君の好きな果物を思い描いてみなよ」

そう言われて思いを巡らすやいなや、急に私の目の前にぽんっと形のいい桃が現れました。

「わあっ」

宙の一点から落ちようとする桃を、私は両手で必死に受け止めようと体を前につんのめらせました。

「ここが魔法の世界だってことは解っただろ。  でも本当はこの世界の事だけに限ったことじゃないのさ」

「どういう意味?」

両手の中に、桃は確かに収まっています。転がしてどの面を向けても、それが夢か現なのか、皆目見当がつきません。

シリウスは輪を描き続けながら、一つ二つカァーと鳴いて見せます。

「君の思っていることが、少なからず世界に影響を与えているってことさ」

「私が?」

「そうだよ、君が世界を形づくっているのさ」

「よくわからないわ。 

いくら想像してみたところで、いきなり桃なんて現れたりしないし、それに、世界は確かに私の外で回っている。私の意思とは別のところで。

夢から覚めて、夢の中みたいになんていく訳ないわ」

「そうかもしれない。でもね......」


そう何かを言いかけている途中、シリウスは見えない上昇気流に吹かれて高度を高く高く上げて行きます。

そして遂には、空の点となって見えなくなってしまいました。

「でもね、それが重要なんだよ。
君が思い込んでいる意識だけが、唯一のものだって思うかい?

僕らを産んだのは紛れもなく君だよ。でも、その桃と僕らはちょっと違う。 わかりやすく言えば、僕らは君の意識の別の面ってことになる」

声のする方に目を落とすと、私の足元はまるで波紋の一切立たない水面のようになっており、私とマリアだけが、天と地を分けて鏡の世界にぽつんと迷い込んでいるようでした。

「意識の別の面?あなた達が?」

「そうよ、意識ってのは見えているようでいて、実は半分以上は隠れてしまっているものなの。地球が陸地と海で出来ているように見えても、実は海の底もまた大地の一部であるように」

鏡のように澄んだ足元に波紋が立ったかと思うと、激しい一陣の風と共にシリウスが水の中を駆け巡って行きます。

「君はその桃の夢と現、まるごと一緒にに見通す事ができるかい?」

足元で水中を切って泳いでいたはずのシリウスが、いつの間にか先程のように空で輪を描いて飛んでいます。

「君らが考える意識だけが、絶対な訳じゃないんだ」

シリウスが飛んでいる空中を、いつしかマリアも泳ぐようにしてふわふわと飛んでいます。

「あっ」と声に出してみたものの、私はすぐに口を塞ぎました。何故なら、私自身も空を飛んでいることに気が付いたからです。

「何が常識で、何が常識で無いのか。何が本当で、何が本当のことじゃないのか。改める時が来たの。そのために私達はあなたに呼ばれたのよ」

旋回をし続けていたシリウスが羽根をばたつかせて宙の一点に止まり、マリアは長い尻尾をピンと直立させてこちらをじっと見つめ返してきます。

「ここには時間がないの。ということは本当は空間もないの。だから思った通り、どこにでも好きなところに行けるのよ」

「何億光年離れている場所だって関係の無いことさ。君のハートとあの銀河は繋がっているのさ。」

なんだか途轍もなく大きな話に、私の鼓動は高鳴りました。まるであの星が呼吸しているみたいに。

「僕らはいつも君と一緒だってことを、それだけは忘れないで」

そう言い残すと、シリウスとマリアは揃って輝く空の一点へと吸い込まれて行きました。












つづく...... ?








































「私の紹介をわすれないで欲しいわ」

そう言うと、机の陰からすっと現れた白い猫は、長い尻尾を振りつつ、お尻を私の足に擦りつけてきました。

そしてさも当然のごとく、私に向かって話しかけてきたのです。

私は目をぱちくりさせながら耳を傾けていたのですが、不思議とシリウスの時のような違和感は感じません。

「私はマリアって言うの、よろしくね」

「と言っても、あなたが付けた名前だもの、名乗る必要も無かったわね」

「私が?」

「そうよ、忘れてしまった?」

そう言うと、白い毛並みの猫は軽やかに体を宙に躍らせ、ふわりと机の上に着地しました。

そして私の顔に近づいてくると、頬をぺろっと舐め、その場でくるくると輪を描くように回り出します。

「心配することはないわ、だって私はあなたの中からやって来たんだもの」

マリアがそう言って宙返りした刹那、またもや部屋の中が真っ暗闇に包まれました。マリアも、先程までそこにいたシリウスの姿も消えてしまいました。

今度は星一つ見えない本当の暗闇です。

私は急に怖くなりました。

いくら夢の中の出来事と割り切っていたとしても、何の対象も無い闇というのはとても不安を誘うものです。

夢だって、怖いものは怖いんです。ねえ、みなさんだってそうでしょう?

座っていた椅子が急に無くなってしまったような気がして、私は何かを摑もうとして足掻きました。

でも、摑む手は空を掻くばかりです。

目標になるような光はやはりどこにも見当たりません。

このまま何処までも闇の中を落ちて行くのだろうか、そんな絶望にも似た気持ちに駆られたその時です、

どこからか声が聞こえてきました。

「ワタシハココ」

それはなんだか懐かしい声でした。

誰?

私は必死になって心の中で叫びました。でも、思うように声は出せません。

「ここよ、ここ」

どこなの? そう叫びたいのに叫べません。

声はすれど、闇の中に姿はありません。

「私はここよ、目を閉じてみて」

そう言われて、私は体と息を一つ整えました。そしてプールの底に潜る時みたいに、勢いよく息を吸い込んで目を閉じてみます。

するとどうでしょう、そこにも同じ闇が広がっているはずなのに、なんだか急に不安がすっと安らぎました。

そしてその瞬間、私の胸の辺りから眩い光が射すのを感じました。

その光はあっという間に私の領域を超えて拡散して行きます。そして私という意識までもが風船のように膨らんで行くようです。まるで光が膨張して、闇が収縮しているみたいに。

闇は光のない状態でしょうか?

光はもともと闇の中に内在していたのでしょうか?  それとも・・・

気が付くと、私の足元に寄り添うように、マリアがちょこんと座っています。

「ようこそ。  私はここからやって来たのよ。」






つづく・・・


























皆さんは、私がどうかしちゃったんじゃないかとお思いでしょうか?
しかしご心配なさらずに。
私はいつだってこうですよ。
毎朝のでんぐり返しはかかしたことはありませんし、
寝る前は必ず歯を磨きますし、それに異性にそんなに真剣に見つめられたら、誰だってそうするほかは無いでしょう?
と言っても、相手はカラスですが。それはいいっこなしですよ。


「君、君が喋っているの?」
「さっきからずっとそう言っているんだけどな」

私は一つ息を、唾と一緒にゴクリと呑み込みました。
そして、ハッと気づきました。

わかったわ。これはいつもの夢ね。
私は夢を見ているんだわ。


そう考えるともう怖いものは無くなりました。

「それにしてもカラスが青い色をしているなんて変わっているわね」

「そう思うかい?」

「そうよ、それにカラスなんて、カァーと鳴いたのしか聞いたことが無いもの」

「そりゃ、随分な誤解だな。   今までカラスが喋らないとでも思ったのかい」

「ええ、当たり前じゃない。そんなの常識よ。みんな知ってるわ」

「みんなの知っている常識が全てだと思っているのかい?」

「ええ・・・・。」

「でも、カラスは喋ったりなんかしないわ。  そんなの聞いたことがないもの」

「だったら、今喋っている俺はどう説明するのさ」

「夢だからよ。夢だったら何も不思議じゃないわ。」

「夢の中の出来事じゃ信じられても、現実の中の出来事は信じられないのかい」

「何よ?  何が言いたいの?   もう、何なの、この夢は」

「まあいいさ」

そう言うと、青いカラスは上を見上げるように大きな嘴を空に向けました。

「君はカラスって呼ぶけど、俺にはちゃんとした名前があるのさ」

その一声とともに、部屋の中ががらりと様変わりしました。

急に壁と天井が無くなったかと思うと、不思議なことに部屋の中が満点の星空に包まれていきました。

まるで宇宙空間の一画に投げ出されたみたいにです。

「俺はあそこからやって来たのさ」

彼のその言葉を指し示すかのように、夜空の一点が目映くきらきらと輝き出しました。」

「あの星・・・?」

「俺はあの星からやって来たのさ」

「あの一番輝いている星?」

「そうさ、俺は瑠璃色カラスのシリウス。君がつけた名さ。」

「私が?」

「そうさ、君がつけた名さ。そして、君に呼ばれて俺はやって来たって訳」

「私が?呼んだって、いつ?」

「覚えていないのかい?困ったもんだ。  でもいいさ。そのうち思い出すだろうから」

私はポカンとしてしまいました。いつもの夢なら何も疑うこと無く進んで行くはずなのに。

こんな夢早く覚めてしまえばいいんだわと思いつつ、なんだか妙な安心感に包まれている感じも否めません。

シリウスが広げていた翼をパッと戻すと同時に、明かりがついたように部屋が元通りになりました。

すると、出番を待っていたかのように、机の隅からするっと影が伸びて、今度は真っ白な毛並みの猫が現れたのです。








つづく・・・・・・・・・・
のかな?